「日本SUGEEE!!!」の称賛がもらえる2つの鉄板ネタ
以前からの読者のみなさんはご存じのとおり、このブログではいわゆる「自国礼賛テレビ番組・ウェブサイト」を「こんなの一種の『ポスト真実』による世論形成だろ」としつこく批判しています。
www.from-estonia-with-love.net
ウォシュレットのような日本でしか普及していない工業製品を外国人に見せて「日本SUGEEE!!!」などと絶賛させては悦に入る、みたいなやつです。ああいったものはあくまでテレビ番組制作者による過剰な演出の結果生み出されたものであって、もちろん日本が特別に世界中から注目されているなんてことはありません。
しかしですねえ。わざわざ便器を無理やり褒めさせなくても、「日本SUGEEE!!!」って言ってもらえるネタなんてたくさんありますよ。ヨーロッパに来てから、現地の学生に向かってわたしがよく話す「日本SUGEEE!!!」ネタは、この2つです。
- 日本の労働環境
- 日本の学校教育
このあたりをありのままに説明してあげると、まじで「日本SUGEEE!!!!!」の嵐になります。たとえば前者だとこんな感じです。
「日本では1日の労働時間が8時間に収まることはまれで、時間外労働を行うのが普通なんだよね」
……この時点で大陸ヨーロッパのみなさんは「Ohhhh...」という表情をしますね。
「さらに、自主的に無賃金で労働をする『サービス残業』という慣習があり…」
と付け加えると、もう「意味ワッカリマセーン!!」という反応ばかりが返ってきて面白いです(笑)「日本の労働環境が悪いってのは誰でも知っているけど、さすがに自ら進んで無賃金労働をする慣習があるってのは意味が分からん」みたいなことを言われることが多いです。
あるイタリア人の友達は「そんなに働いていたら人生を楽しむ時間なんてないよね?? なんか日本ってSUGEEE......」って言ってました。「日本SUGEEE!!!」を見事にゲット!!
後者の「日本の学校教育」については、こないだちょうど教育学の授業でプレゼンテーションをしました。授業の課題の一つに「あなたの国のカリキュラムについて、教育に関する思想・哲学を踏まえながら説明しなさい」というのがありまして。今回の記事ではその際に発表した内容を紹介してみますね。
※ヨーロッパでは「カリキュラム」という用語は単に「授業の時間割」を意味するのではなく、「教育思想」「教育の目的」など教育制度にかかわる幅広い要素を包んだ概念のようです。
フィンランド人もびっくりな日本の学校教育制度
では、さっそくわたしの行ったプレゼンテーションの内容を抜粋してご覧いただきましょう。
※以下に掲載したスライドは授業で実際に使用したものですが、権利関係の理由によりいくつかの写真・図版をカットしています。
冒頭で「ある小学校の運動会で行われた『組体操』の演技の様子」を写した写真を見てもらいました(前述の理由により写真の紹介は省略します)。そして次のように説明します。
みんな聞いたことがあるんじゃないかと思うけれど、日本の教育制度はとても厳格で保守的だ。それは事実だけれど、どうしてなんだろうか? 考えられる理由を次の3つの側面から分析してみるよ!
- 歴史的背景
- イデオロギー的背景
- 社会的背景
そして「日本の学校制度の特徴とはなにか」という話をします。
- 詰め込み教育
- 創造性だの自発性だの自己動機付けだのは重要じゃないよ。大事なのは「ひたすら暗記すること」だよ
- これは東アジアには特殊な大学入学制度があるからだよ - 非常に厳格な校則
- 例えば服装の規定があったりするよ
(学校以外の自由時間においての制服の着用義務、スカートの長さ、頭髪の長さや色、など) - 体罰は90年代以降は稀になったけど、まだ残存してるよ
「校則」の部分を説明したときに、フィンランド人の女子学生が「Ohhhh......」という感じでめっちゃ顔を歪めておりました。ま、人権先進国であるフィンランドでは考えられないことでしょねえ……。
続いて「日本の教育制度の歴史」についての説明に入ります。時間の都合で江戸時代までは全部端折って、いきなり近代からです。
ここで日本の保守派の皆さんが大好きな「教育勅語」の説明をしました。
- 1890年に「教育勅語」が発令されたよ
- 日本の教育制度の最高規範だよ
- 儒教という古代中国の思想を基本にしているよ
- 学生たちにとって最も重要なことは「天皇と大日本帝国に対して忠誠を誓うこと」だとされたよ
そしてわたし自身の意見として、
「この国家主義的な教育思想は、日本人特有の自己犠牲的発想(例えば神風特攻隊のような)のひとつの要因になっていると思います」
と付け加えておきました。
まあこんな感じで日本の教育史を明治から簡潔にたどってみたのですが、以降は飛ばします。続いて「日本特有のイデオロギーと教育制度」について説明しましたが、これも省略して、次の「教育制度と日本社会の関連性」に移りますね。
日本社会にはこのような特徴があるよ
- 均質な社会
- 集団主義
- 単一的な文化
- 「周囲に合わせる」という発想
このような社会的特徴に親和的な思想は
- 父権主義、保守主義
逆に非親和的なのは
これらの日本に特徴的な社会的要素が教育制度にも反映されているよ
という説明をしました。このあたりの分析は自分でもぎこちない感じがしますが、授業でやった内容をなるべくたくさん盛り込む必要があったので……。なのであまり突っ込まないでくださいね。
以降も日本の社会の特徴についての解説を続けたのですが、そのあたりもスキップして、結論にいっちゃいましょう。
- 日本の教育制度は国家主義的・保守的だよ
- 主に儒教の影響を受けているよ(儒教といってもヨーロッパのみなさんにはなじみがないと思いますが、強いて言えばこないだ授業でやったプラトンの教育論にわりと近いかも)
- その厳格さについてはしばしば批判されるよ
- でも日本では「周囲に合わせる」ということが何よりも大切なことだと考えられているから、こういった教育制度は実はとても合理的なんだよ
- 「個人が大事にされない」ことなんて日本では大した問題だと思われていないよ。だって日本では個人の自由なんかより「社会の秩序に従うこと」のほうがずっと大事だからね
以上です。ご清聴ありがとうございました……と締めたわけですが、プレゼンテーションを聴いてくれた学生たちはおおむね「Ohhhh.......」という声が聞こえてきそうな感じの険しい表情を浮かべておりました(笑)
それもそのはずで、わたしの番が来るまでの発表は「わたしの国では子どもたちの自由な才能を伸ばすために、このような先進的なカリキュラムを導入しています!」みたいなものばかりだったんですよ。
特にフィンランド人学生2人組(さきほど述べた『日本の校則』の部分で顔を歪めていた子を含む)の発表は興味深くて、「こんなに自由でのびのびとした、子どもたちの自主性を尊重する教育を行っているけれど、それでも学力は世界一!!」というフィンランドの制度については各国の学生たちが感銘を受けたようでした。
そういった教育先進国の学生たちの発表の後に登場したのが「組体操!」「体罰!」「教育勅語!」のニッポンだったので、特にヨーロッパと日本との間のギャップが強調されたのではないかと思います(笑)
終わりに少しだけ質疑応答の時間が設けられたのですが、最初に質問をしてくれたのはウクライナ人の女子学生で「体罰は本当に今でもあるのか? あと、校則を破るとどんな罰が課されるのか?」でした。ヨーロッパの若者たちにとっては「罰を設けて学生を管理する」という発想がもしかしたらちょっと珍しいのかもしれませんね。
ちなみにプレゼンテーションの評価は聴講した学生の意見を反映しながら先生が決めるのですが、わたしは最上位の「A」をもらえました。授業が終わった後に「いやーきょうの発表面白かったわ!!」と言いに来てくれた学生も何人かいたので、結構好評だったみたいですよ。
というわけで、ヨーロッパの若者たちにとっては日本の学校教育制度はかなり驚くべきものに映るようです。外国の人から「日本SUGEEE!!!」って言ってもらいたい日本のみなさん、ぜひもっと「校則」「体罰」「教育勅語」の話をしてみてください。きっと最大級の「SUGEEE!!!」が寄せられると思いますよ!!
ところでわたしのブログ、インターネット上の変な人たちから「日本ディスはやめろ!!!」だとか「日本下げばかりしやがってふざけるな!!!」みたいな意見がたびたび寄せられるんですよね。しかし今回についてはどうでしょうか。「教育勅語」が日本人のスピリットの支柱となったことをきちんと説明し、日本では個人の自由より社会規範を守ることのほうがずっと大事なんだよ、ヨーロッパとは全然違うんだよ、ということもちゃんと伝え、
「皆さんからは異様に見えるかもしれないけれど、実は日本の社会によく適合する形に整えられているんですよ。どうですか、理にかなっているでしょ?」
と、どちらかというと肯定的に紹介したわけですから、「日本を愛する普通の日本人」のみなさんもさすがに文句はないですよね?(笑)