イラストレーションを発注する企業・団体・自治体、そしてその担当の皆様、いつも「イラストレーターズ通信」をご利用いただき、ありがとうございます。
「イラストレーターズ通信」主宰の森流一郎です。
今日は、プロイラストレーター団体主宰として、著作権譲渡に関する作り手側の考えを述べさせてください。
長い文章で恐縮ではございますが、お読みいただければ幸いです。
2011年頃から、著作権譲渡を求めてくる企業・団体・自治体が増えて参りました。
大変申し訳ないのですが、当団体の会員は、原則として、著作権譲渡には応じておりません。どうしても著作権を譲渡するとすれば、かなり高額なギャランティになります。
イラストレーションの料金は制作にかかった労力の代金ではなく、使用料だからです。
たとえば、ミッキーマウスのキャラクターを使用するとしましょう。ディズニーに支払うお金は、その絵を描いた労力の代金でしょうか?
いいえ、違います。その絵(またはキャラクター)を使う代金(使用料)です。
そのことは、イラストレーションの作者がウォルト・ディズニーであっても日本のイラストレーターであっても変わらないのです。
私たちイラストレーターは、絵を描いた労力への対価をいただいているのではなく、イラストレーションの使用料をいただいて食べています。多くの媒体で無限に使用可能な権利を期限なしで販売するとなると、その分お高い使用料となってしまいます。
例えば、出版関連の仕事に関して考えてみましょう。
雑誌にカットを描き、たった数万円で出版社に著作権を譲渡したとします。
そうなると、もうそのイラストレーションはその出版社のものです。
その雑誌の記事が書籍化され、そのカバーに使われても、イラストレーターは文句を言えません。
書籍カバーのイラストレーションのギャランティは10万円前後が相場ですが、イラストレーターはその使用料をいただけないことになります。
さらに、それがドラマ化され、ドラマのオープニングで使われても、テレビCMでどんどん使われたとしてもです。
そして世界中で翻訳された書籍カバーにも使われ、映画ポスターに使われても……
イラストレーターがいただけるのは最初の数万円だけです。
ある日気がつくと、その出版社のイメージキャラクターになっている可能性もあります(まずありえない話ですが、それも可能な権利を買い取ることが著作権譲渡だということです)。
おそらく、ここまで様々な媒体で使うことはないと思います。
ならば、それほど広く使える権利を買い取らない契約でお願いできないでしょうか。
著作権譲渡ではなく、それが使用される範囲をあらかじめ定めて、その範囲内での使用許諾にするだけでも、多くのクライアントが望む使用範囲で契約が可能だろうと思います。例えば、「電子書籍、電子書籍の販売ページ、ネット上の電子書籍の宣伝・広告への流用代を含む」といった形で条件を明確に定める方法です。
こうすることで、著作権を譲渡せずとも、その書籍と同じ内容・同じタイトルであれば流用が発生するたびにイラストレーターの許諾を取る必要はなくなります。
ただし、様々な媒体で使われるのであれば、その流用代を若干プラスしてギャランティをお支払いただけると幸いです。
「使用範囲がわからない、今予定していないことにまた使う可能性もある。その度に使用許諾を取るのは手間がかかりすぎるし、非効率的だ」という声もよく耳にします。
新たな2次使用が決まってから一つ一つ使用許諾を取るのは、確かに大変です。
大量に出版されている書籍をすべて電子書籍化しようと、すべてのカバー担当イラストレーターに許諾を取るにはお金も人手もかかるでしょう。
では、ミッキーマウスのイラストレーションを使う書籍を出すとして、「今後使用範囲が広がるかもしれないから、著作権を買い取っておこう」と考えるでしょうか。
企業にとっては、効率を上げること、経費を削減することは大事だと思います。
しかし、コンプライアンスも忘れないで欲しいのです。
少し前に社会を揺るがせたキュレーションサイト問題も、クリエーターの著作権を軽く考えたまま、右肩上がりの成長に囚われた結果、コンプライアンスが置き去りにされたことが原因の一つだろうと思われます。
今、イラストレーターをはじめとする業界関係者の間では「著作権譲渡を仕事依頼の条件とする企業の増加に大きな懸念が持たれています」このまま放置すればキュレーションサイト問題でサイト閉鎖に追い込まれた企業のの二の舞となりかねません。
「たった数万円のお金で著作権を買い取ることは、イラストレーターに大きな損害を与える行為だ」と認識していただけると嬉しいです。
次に、広告のイラストレーションについても考えてみましょう。
広告では、バッティングは原則NGです。つまり、イラストレーターがあるクライアントに著作権を譲渡したら、そのライバル企業では一生仕事ができない可能性があるのです。著作権を譲渡したのが化粧品メーカーだと思っていたのに、実はグループ企業が自動車を製造販売をしていたら、知らないうちに自動車のポスターに使われることも可能性としてはあります。
一旦著作権を手放すと、イラストレーターはその作品がどこでどう使われるかわかりません。
著作権は、さらなる譲渡も可能です。さらなる譲渡の意図をもって著作権を買い取るはずはありませんが、やがて担当者が変わり、経営者も変わった先の未来にどんな変化が起こるか、予想できる人はいないでしょう。会社は吸収・合併・買収されることもあります。作品の著作権を将来どこが管理することになるのかもわかりません。
実はこれは広告の仕事に限った問題ではありません。
出版社に著作権譲渡したイラストレーションが、そのグループ企業の広告に使われる可能性もあります。
様々な事情で他の企業の手に渡って、広告に使用されることもないとは言い切れません。
さらには、著作権譲渡を受けて集めた大量のイラストレーションを元に、その企業がレンタルイラストレーションを始めたとしたらどんなことになるでしょうか?
あるいは、どこかのレンタルイラストレーション業者が、著作権譲渡されたイラストレーションを各企業から安くで買い上げて、ネット上で無料素材として提供し始めたとしたら、、、(もう、どこかの企業がやっている可能性もありますが)
そうなると、そのイラストレーションは様々な企業の広告に使用されることになり、元の創作者であるイラストレーターは全く管理できなくなります。
いつか知らないところで、自分の意思で受けた広告の仕事とバッティングしてしまうケースも出てくるでしょう。
イラストレーターは多額の賠償金を支払わなければならないかもしれません。
イラストレーターは、どこのクライアントからの依頼を受けても、つねにバッティングのリスクを抱えてしまうわけで、もうイラストレーターの仕事はできなくなります。
拡散されたイラストレーションは、アダルト系のゲームに使われるかもしれないし、カルト宗教団体や悪徳商法の企業が使う可能性だってゼロではないのです。
著作権とは何のためにあるのでしょう?
著作権法第1条にその答えがあります。
「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」
つまり著作者の権利を保護することで文化を発展させよう。と言うことです。
しかし、このまま著作権譲渡がひろがれば、イラストレーション文化は衰退するでしょう。
著作権譲渡が広がると、本来の著作権法の精神から外れてしまうと感じます
そしてこれは、企業にとっても大きなリスクとなるはずです。「著作権譲渡が頻繁に行われる社会」ということは、どのイラストレーターに依頼しても、思いがけず、ライバル企業と同じイラストレーターとなってしまう可能性があるからです。安心してイラストレーターに仕事を依頼できなくなのです。
イラストレーションを発注するご職業の皆様、よく考えてみてください。そんなことになってもいいのでしょうか。
いかなる仕事であっても、著作権を譲渡せずとも、お互いに納得できる契約方法はあると思います。
クライアント様とイラストレーターが対等の立場で条件を話し合い、歩み寄れば、どちらも犠牲にならない契約は可能だと考えます。
「広告のイラストレーションで幅広く展開するので使用媒体がどこまで広がるかわからない」という仕事では、クライアントも安易に著作権譲渡を希望される傾向がある印象があります。
そんなケースでも、例えば「その商品の広告(または、キャンペーンやイベント等)に限って、使用媒体を定めず使い放題、ただし使用期間を定める」とする契約は考えられないでしょうか。
こうすれば予定外の媒体にも使いたくなった場合に、使用許諾を改めて取る必要はないでしょう(ただし、この場合は幅広く使われるわけですから、その分のギャランティもプラスしてくださいますようお願いします)。
ミッキーマウスの著作権を買い取るとして、その金額がいくらになるか、少し想像してみてください。それは、今後ミッキーマウスがディズニー社にもたらすであろうお金に匹敵する金額となるでしょう。具体的なイメージがわかないほど、莫大な金額です。
私たちイラストレーターとはその商品価値が違いすぎて全く同じようには考えられないかもしれません。しかし「著作権譲渡は、イラストレーターのその後の人生にもたらすであろうお金を制限する」という意味ではよく似ています。
そう考えると、その制限する金額こそが、イラストレーションの著作権譲渡における妥当なギャランティとなります。
一般的な日本人イラストレーターのケースとして考えると、たとえ百万円でも安いでしょう。
1千万円ですら足りないかもしれません。
それがたった数万円という、著作権譲渡ではない仕事と同様の金額で行われているのが実情なのです。
想像してみてください。もしも、1ヶ月分の給料で、一生働かなくてはならないという会社があったとしたら……。
現実にそんな会社があれば、ブラック企業として社会問題となるでしょう。
ところが、イラストレーターに対しては、同様のことが「著作権譲渡」として公然と行われているのです。
経費削減や効率のために私たちイラストレーターを犠牲にしないよう、ご配慮をお願いします。
どうか、コンプライアンスを思い出してください。
イラストレーションの作風と作者名が切り離せない関係にある以上、私たちは著作権を譲渡するたびに仕事の場を失っていくことになります。このまま著作権譲渡が広がると、いずれイラストレーターは食べていけない職業となるのです。
私たちは、「職業としてのイラストレーター最後の世代となるかもしれない」と危機感を持っています。
この社会からプロのイラストレーターがいなくなれば、困るのは出版社をはじめとする企業の皆様ではないでしょうか。
確かにアマチュアのイラストレーターがたくさん出てきましたが、やはりちゃんとしたお仕事の相手としてプロのイラストレーターは必要なはずです。
浮世絵が盛んだった江戸時代、日本は世界でも稀な大衆文化の国でした。
そのころヨーロッパで絵といえば一部の裕福層や教会のもの。
庶民がカラーの絵を購入することは、ほとんどなかったようです。
一方で、日本ではごく普通の庶民もカラーの浮世絵を購入して楽しんでいました。
それが今の日本の漫画やイラストレーションといった豊かな大衆文化につながっていきます。
私たちイラストレーターは、世界に誇るべき日本の大衆文化の灯を守り、未来につなげたいと願っています。
なお、公正取引委員会の「コンテンツ取引と下請法」パンフレット(http://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.files/contentspamph.pdf)には、親事業者の主な禁止行為の例として、「下請事業者と著作権の対価にかかる十分な協議を行わず、通常の対価を大幅に下回る代金の額を一方的に定める。(買い叩き)」と書かれています。
また、このパンフレットには、「優越的地位の乱用として独占禁止法上問題となる行為」として、「情報成果物に係る権利等の一方的取り扱い」「著しく低い対価の設定」とも書かれています。
つまり、「著作権譲渡がお仕事依頼の絶対条件」としてイラストレーターに強要する行為は、下請法や独占禁止法に抵触する可能性があると考えられます。
※この文章は、このブログの「イラストレーションを発注する企業様とご担当の皆様へ」(http://illustratorstsushin.blogspot.jp/2016/08/blog-post.html)をさらに加筆訂正したものです。
「イラストレーターズ通信」主宰の森流一郎です。
今日は、プロイラストレーター団体主宰として、著作権譲渡に関する作り手側の考えを述べさせてください。
長い文章で恐縮ではございますが、お読みいただければ幸いです。
2011年頃から、著作権譲渡を求めてくる企業・団体・自治体が増えて参りました。
大変申し訳ないのですが、当団体の会員は、原則として、著作権譲渡には応じておりません。どうしても著作権を譲渡するとすれば、かなり高額なギャランティになります。
イラストレーションの料金は制作にかかった労力の代金ではなく、使用料だからです。
たとえば、ミッキーマウスのキャラクターを使用するとしましょう。ディズニーに支払うお金は、その絵を描いた労力の代金でしょうか?
いいえ、違います。その絵(またはキャラクター)を使う代金(使用料)です。
そのことは、イラストレーションの作者がウォルト・ディズニーであっても日本のイラストレーターであっても変わらないのです。
私たちイラストレーターは、絵を描いた労力への対価をいただいているのではなく、イラストレーションの使用料をいただいて食べています。多くの媒体で無限に使用可能な権利を期限なしで販売するとなると、その分お高い使用料となってしまいます。
例えば、出版関連の仕事に関して考えてみましょう。
雑誌にカットを描き、たった数万円で出版社に著作権を譲渡したとします。
そうなると、もうそのイラストレーションはその出版社のものです。
その雑誌の記事が書籍化され、そのカバーに使われても、イラストレーターは文句を言えません。
書籍カバーのイラストレーションのギャランティは10万円前後が相場ですが、イラストレーターはその使用料をいただけないことになります。
さらに、それがドラマ化され、ドラマのオープニングで使われても、テレビCMでどんどん使われたとしてもです。
そして世界中で翻訳された書籍カバーにも使われ、映画ポスターに使われても……
イラストレーターがいただけるのは最初の数万円だけです。
ある日気がつくと、その出版社のイメージキャラクターになっている可能性もあります(まずありえない話ですが、それも可能な権利を買い取ることが著作権譲渡だということです)。
おそらく、ここまで様々な媒体で使うことはないと思います。
ならば、それほど広く使える権利を買い取らない契約でお願いできないでしょうか。
著作権譲渡ではなく、それが使用される範囲をあらかじめ定めて、その範囲内での使用許諾にするだけでも、多くのクライアントが望む使用範囲で契約が可能だろうと思います。例えば、「電子書籍、電子書籍の販売ページ、ネット上の電子書籍の宣伝・広告への流用代を含む」といった形で条件を明確に定める方法です。
こうすることで、著作権を譲渡せずとも、その書籍と同じ内容・同じタイトルであれば流用が発生するたびにイラストレーターの許諾を取る必要はなくなります。
ただし、様々な媒体で使われるのであれば、その流用代を若干プラスしてギャランティをお支払いただけると幸いです。
「使用範囲がわからない、今予定していないことにまた使う可能性もある。その度に使用許諾を取るのは手間がかかりすぎるし、非効率的だ」という声もよく耳にします。
新たな2次使用が決まってから一つ一つ使用許諾を取るのは、確かに大変です。
大量に出版されている書籍をすべて電子書籍化しようと、すべてのカバー担当イラストレーターに許諾を取るにはお金も人手もかかるでしょう。
では、ミッキーマウスのイラストレーションを使う書籍を出すとして、「今後使用範囲が広がるかもしれないから、著作権を買い取っておこう」と考えるでしょうか。
企業にとっては、効率を上げること、経費を削減することは大事だと思います。
しかし、コンプライアンスも忘れないで欲しいのです。
少し前に社会を揺るがせたキュレーションサイト問題も、クリエーターの著作権を軽く考えたまま、右肩上がりの成長に囚われた結果、コンプライアンスが置き去りにされたことが原因の一つだろうと思われます。
今、イラストレーターをはじめとする業界関係者の間では「著作権譲渡を仕事依頼の条件とする企業の増加に大きな懸念が持たれています」このまま放置すればキュレーションサイト問題でサイト閉鎖に追い込まれた企業のの二の舞となりかねません。
「たった数万円のお金で著作権を買い取ることは、イラストレーターに大きな損害を与える行為だ」と認識していただけると嬉しいです。
次に、広告のイラストレーションについても考えてみましょう。
広告では、バッティングは原則NGです。つまり、イラストレーターがあるクライアントに著作権を譲渡したら、そのライバル企業では一生仕事ができない可能性があるのです。著作権を譲渡したのが化粧品メーカーだと思っていたのに、実はグループ企業が自動車を製造販売をしていたら、知らないうちに自動車のポスターに使われることも可能性としてはあります。
一旦著作権を手放すと、イラストレーターはその作品がどこでどう使われるかわかりません。
著作権は、さらなる譲渡も可能です。さらなる譲渡の意図をもって著作権を買い取るはずはありませんが、やがて担当者が変わり、経営者も変わった先の未来にどんな変化が起こるか、予想できる人はいないでしょう。会社は吸収・合併・買収されることもあります。作品の著作権を将来どこが管理することになるのかもわかりません。
実はこれは広告の仕事に限った問題ではありません。
出版社に著作権譲渡したイラストレーションが、そのグループ企業の広告に使われる可能性もあります。
様々な事情で他の企業の手に渡って、広告に使用されることもないとは言い切れません。
さらには、著作権譲渡を受けて集めた大量のイラストレーションを元に、その企業がレンタルイラストレーションを始めたとしたらどんなことになるでしょうか?
あるいは、どこかのレンタルイラストレーション業者が、著作権譲渡されたイラストレーションを各企業から安くで買い上げて、ネット上で無料素材として提供し始めたとしたら、、、(もう、どこかの企業がやっている可能性もありますが)
そうなると、そのイラストレーションは様々な企業の広告に使用されることになり、元の創作者であるイラストレーターは全く管理できなくなります。
いつか知らないところで、自分の意思で受けた広告の仕事とバッティングしてしまうケースも出てくるでしょう。
イラストレーターは多額の賠償金を支払わなければならないかもしれません。
イラストレーターは、どこのクライアントからの依頼を受けても、つねにバッティングのリスクを抱えてしまうわけで、もうイラストレーターの仕事はできなくなります。
拡散されたイラストレーションは、アダルト系のゲームに使われるかもしれないし、カルト宗教団体や悪徳商法の企業が使う可能性だってゼロではないのです。
著作権とは何のためにあるのでしょう?
著作権法第1条にその答えがあります。
「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」
つまり著作者の権利を保護することで文化を発展させよう。と言うことです。
しかし、このまま著作権譲渡がひろがれば、イラストレーション文化は衰退するでしょう。
著作権譲渡が広がると、本来の著作権法の精神から外れてしまうと感じます
そしてこれは、企業にとっても大きなリスクとなるはずです。「著作権譲渡が頻繁に行われる社会」ということは、どのイラストレーターに依頼しても、思いがけず、ライバル企業と同じイラストレーターとなってしまう可能性があるからです。安心してイラストレーターに仕事を依頼できなくなのです。
イラストレーションを発注するご職業の皆様、よく考えてみてください。そんなことになってもいいのでしょうか。
いかなる仕事であっても、著作権を譲渡せずとも、お互いに納得できる契約方法はあると思います。
クライアント様とイラストレーターが対等の立場で条件を話し合い、歩み寄れば、どちらも犠牲にならない契約は可能だと考えます。
「広告のイラストレーションで幅広く展開するので使用媒体がどこまで広がるかわからない」という仕事では、クライアントも安易に著作権譲渡を希望される傾向がある印象があります。
そんなケースでも、例えば「その商品の広告(または、キャンペーンやイベント等)に限って、使用媒体を定めず使い放題、ただし使用期間を定める」とする契約は考えられないでしょうか。
こうすれば予定外の媒体にも使いたくなった場合に、使用許諾を改めて取る必要はないでしょう(ただし、この場合は幅広く使われるわけですから、その分のギャランティもプラスしてくださいますようお願いします)。
ミッキーマウスの著作権を買い取るとして、その金額がいくらになるか、少し想像してみてください。それは、今後ミッキーマウスがディズニー社にもたらすであろうお金に匹敵する金額となるでしょう。具体的なイメージがわかないほど、莫大な金額です。
私たちイラストレーターとはその商品価値が違いすぎて全く同じようには考えられないかもしれません。しかし「著作権譲渡は、イラストレーターのその後の人生にもたらすであろうお金を制限する」という意味ではよく似ています。
そう考えると、その制限する金額こそが、イラストレーションの著作権譲渡における妥当なギャランティとなります。
一般的な日本人イラストレーターのケースとして考えると、たとえ百万円でも安いでしょう。
1千万円ですら足りないかもしれません。
それがたった数万円という、著作権譲渡ではない仕事と同様の金額で行われているのが実情なのです。
想像してみてください。もしも、1ヶ月分の給料で、一生働かなくてはならないという会社があったとしたら……。
現実にそんな会社があれば、ブラック企業として社会問題となるでしょう。
ところが、イラストレーターに対しては、同様のことが「著作権譲渡」として公然と行われているのです。
経費削減や効率のために私たちイラストレーターを犠牲にしないよう、ご配慮をお願いします。
どうか、コンプライアンスを思い出してください。
イラストレーションの作風と作者名が切り離せない関係にある以上、私たちは著作権を譲渡するたびに仕事の場を失っていくことになります。このまま著作権譲渡が広がると、いずれイラストレーターは食べていけない職業となるのです。
私たちは、「職業としてのイラストレーター最後の世代となるかもしれない」と危機感を持っています。
この社会からプロのイラストレーターがいなくなれば、困るのは出版社をはじめとする企業の皆様ではないでしょうか。
確かにアマチュアのイラストレーターがたくさん出てきましたが、やはりちゃんとしたお仕事の相手としてプロのイラストレーターは必要なはずです。
浮世絵が盛んだった江戸時代、日本は世界でも稀な大衆文化の国でした。
そのころヨーロッパで絵といえば一部の裕福層や教会のもの。
庶民がカラーの絵を購入することは、ほとんどなかったようです。
一方で、日本ではごく普通の庶民もカラーの浮世絵を購入して楽しんでいました。
それが今の日本の漫画やイラストレーションといった豊かな大衆文化につながっていきます。
私たちイラストレーターは、世界に誇るべき日本の大衆文化の灯を守り、未来につなげたいと願っています。
なお、公正取引委員会の「コンテンツ取引と下請法」パンフレット(http://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.files/contentspamph.pdf)には、親事業者の主な禁止行為の例として、「下請事業者と著作権の対価にかかる十分な協議を行わず、通常の対価を大幅に下回る代金の額を一方的に定める。(買い叩き)」と書かれています。
また、このパンフレットには、「優越的地位の乱用として独占禁止法上問題となる行為」として、「情報成果物に係る権利等の一方的取り扱い」「著しく低い対価の設定」とも書かれています。
つまり、「著作権譲渡がお仕事依頼の絶対条件」としてイラストレーターに強要する行為は、下請法や独占禁止法に抵触する可能性があると考えられます。
※この文章は、このブログの「イラストレーションを発注する企業様とご担当の皆様へ」(http://illustratorstsushin.blogspot.jp/2016/08/blog-post.html)をさらに加筆訂正したものです。
プロフェッショナル・イラストレーター集団「イラストレーターズ通信」主宰・理事 森流一郎