中国にとっては、まさに「神風」が吹いたような米中首脳会談だった。ある北京の中国人に聞くと、喝采して言った。
「小事は智によって為し、大事は徳によって為すが、最大事は運によって為すという。まさに習近平主席が大運を持っていることが、またしても証明された。2年前の『トルコの再来』だよ」
「神風」とか「トルコの再来」とか、冒頭から不可思議な言葉を並べてしまったが、順に説明しよう。
まずトルコについてだが、2015年11月15日と16日に、トルコのアンタルヤで、G20(主要国・地域)サミットが開かれた。この時のG20は当初、いわば「中国非難大会」になることが予想されていた。中国の無様な経済失速によって、世界的な金融危機が起きるのではないか、中国は南シナ海を軍事要塞化し、「海賊国家」と化すのではないか……世界中が中国に対して疑心暗鬼になっていて、習近平主席は批判の矢面に立たされるはずだった。
ところが、開幕二日前の11月13日夜、パリで同時多発テロが発生し、死者130人、負傷者300人超という大惨事になった。そのことでG20は冒頭、テロの犠牲者への追悼で始まり、以後2日間、議題はテロ問題一色となった。それによって、中国批判は雲散霧消してしまったのである。
同様のことが、4月6日と7日に開かれた米中首脳会談でも起こった。中国側としては当初、貿易不均衡、北朝鮮、南シナ海という「3大問題」に関して、トランプ大統領から手ひどく叱責されることを覚悟していた。実際、トランプ大統領は事前に、中国に対して強硬な発言を繰り返していた。
にもかかわらず、なぜ習近平主席は訪米したのか。主な理由は二つだった。第一に、今年後半の第19回共産党大会前に、アメリカとの協調路線を打ち出して、国内の政権基盤を固めること。第二に、「米ロ蜜月」を断ち切ることである。
いずれにしても、何をやり出すか知れないトランプ政権を敵に回さないことが、訪米の最大の目的と言えた。
先週のコラムでも述べたように、中国には、1972年に社会主義の兄貴分であるソ連を裏切ったという「前科」がある。それまで米ソ中の3大国は、「資本主義陣営のアメリカ」vs.「社会主義陣営のソ連+中国」という構図だったが、この年にニクソン大統領が訪中したことで、「米中vs.ソ連」という構図に変わった。1991年にソ連が崩壊した遠因には、このニクソン・ショックがあったと分析している中国の研究者もいるほどだ。
トランプ大統領は、選挙期間中から「オバマ大統領よりプーチン大統領を尊敬している」などと発言し、ロシアとの関係改善を明言していた。そのため中国は、トランプ大統領の就任後、もしも習近平主席よりも先に、プーチン大統領が訪米したら、1972年の「報復」とも言えるトランプ・ショックが起こるのではと、警戒を強めていたのである。
現在、世界に「大国」と言える国は3ヵ国しかない。アメリカ、中国、ロシアである。世界最強国はアメリカだが、中国とロシアの両大国を敵に回せるほどの国力はない。そのため中国としては、アメリカがロシアと組んで中国を敵対視するというシナリオを恐れたのである。
それが、トランプ政権の「親ロ派3人組」の一角であるマイケル・フリン大統領安保担当補佐官が、2月13日に、まず失脚した。後任は、対ロ強硬派のハーバート・マクマスター陸軍中将である。
続いて、「親ロ派」二人目(かつ強度の「嫌中派」)のスティーブ・バノン国家安全保障会議(NSC)首席戦略官・大統領上級顧問が4月5日、NSCメンバーから除外された。
「親ロ派」三人目のレックス・ティラーソン国務長官は、4月12日にロシア訪問を予定しているが、28%もの国務省予算削減をトランプ大統領に突きつけられて国務省が激震しているため、まともな外交ができる状況にない。
そんな中、プーチン大統領の早期の訪米の目はなくなったので、「中南海」(中国首脳の職住地)では、習近平主席の早期の訪米を見送った方がよいという意見も上がった。トランプ大統領から、何を吹っ掛けられるか知れないので、習近平主席の威信に傷がつきかねないと懸念したのだ。