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エストニア共和国より愛をこめて

北欧の小国に留学中の大学生が当地への留学や観光、社会生活についての情報などをお届けします

日本の「マイナンバー制度」はどうして失敗してしまったのか

社会

なぜか無用の長物となっているらしい日本のマイナンバー

ちょっと前に facebook のタイムラインを眺めていると、日本の友人たちのうち自由業の人たちが、

「確定申告しないとー。面倒くさい!」

などと書いているのを見たんですが、日本ってまだ「確定申告」というのが存在しているんですか?! マイナンバー制度が施行されたのに、なんで納税手続きが自動化されていないんだろう……。

……と疑問に思っていたのですが、どうやら日本ではマイナンバー自体は配布されたものの、まだほとんど実用化されていないみたいですね。とりあえず番号は割り振られたけど、使い道がぜんぜんないのでただの無用の長物になっていると。

なるほど。わたしはマイナンバー制度の施行前にエストニアに来てしまったので、実際の運用がどうなっているのか知らなかったんですよね。エストニアみたいに、日本でもマイナンバーが運転免許証になったり、保険証になったり、病院の診察券やカルテになったり、「おくすり手帳」になったり、バスや電車の料金が支払えたり、選挙のときにインターネットから投票できたりするようになるのかなと思っていたんですが、どうやらわたしが想像していたものとは大幅に違うようです。

まあ「巨額の税金を突っ込んでシステムを作って番号だけ配ってみたものの、使い道が全然ないので結局普及しませんでした」というのはとても日本らしい話ですけれどね(笑)

しかし日本でのこの制度の不評ぶりを聞いて「マイナンバー制度」について改めて調べてみると、「特に使い道がない」こと以外に、エストニアの国民ID制度と大きく違う点が2点ありました。それは、

マイナンバーが機密情報であること」

「自分でアクセスログを追跡できないこと」

 です。日本のマイナンバー制度がこのまま失敗に終わりそうな理由は、このふたつの点にあるのではないでしょうか。「個人情報の保護について重大な欠陥があったために、日本のマイナンバーは失敗してしまったのではないか」ということです。

「個人情報保護」の意識が薄い日本のマイナンバー制度

では「個人情報保護についての重大な欠陥」とはどういうことなのか、という話に移る前に……。

今学期は大学で「政策と統治におけるデジタル技術」という電子政府について学ぶ授業を履修していたんですが、この授業のフィールドワークの一環としてタリン市内にある「電子政府ショールーム」を訪問する機会を得ました。

e-Estonia Showroom - e-Estonia

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ここでエストニア電子政府政策についてのレクチャーを受けたわけですが、最後に質疑応答の時間があったので、さっそくレクチャラーに質問をしてみたんですよ。

「わたしの出身国でもエストニアを参考に国民に番号を割り振る制度が始まったんですが……」

「ってことは日本から来たの? マイナンバーのことでしょ?」

お、すでにマイナンバーについて知っているなら話は早いですな!

「日本のマイナンバーの場合、番号が『機密情報』として取り扱われていて、政府も『みだりにマイナンバーを他人に教えないでください』なんて呼び掛けているんですよ。でもエストニアの国民IDはそうじゃないですよね」

「そうだね。エストニアの場合、国民IDだけじゃ何もできないからねえ。そこがマイナンバーとの違いだよね」

そうなんですよねー。エストニアの国民IDって、利用者自身が設定した暗証番号を入力しないとオンラインでの使用ができないので、他人の番号を手に入れても何もできないんですよね。ここが日本のマイナンバーとの大きな違いなわけです。

(※ただしIDカード本体はオフラインでも身分証・運転免許証・パスポートなどとして使用できてしまうので、『カードなんていくらでも紛失してかまわん』ということではありません。紛失したらただちに役所に連絡しなければなりません。)

さらにレクチャラー氏いわく、

「あとはエストニアの制度の場合、国民IDへのアクセスログを利用者自身でチェックできるでしょ。ここも違うよねー」

とのこと。

エストニアの場合、自分のIDへのアクセス履歴を、自分でWEBからチェックすることができるんですよね。データベースの電子化のおかげで「何時何分何十秒にどこの誰がどの端末から自分の個人情報にアクセスしたのか」がきっちりログに残ります。これが紙の書類だったらだれかがこっそり盗み見してもなんの形跡も残らないですから、電子情報化されていたほうがよっぽど安全ですよね?

これは以前の記事でも書いたことなんですけれど、やっぱり日本のマイナンバー制度とエストニアの国民IDって、もう根本的な部分で発想の違いがあると思うんですよね。

  • 日本 ― 権力が国民を監視する制度
  • エストニア ― 国民が権力を監視する制度

となると、日本の場合は権力による国民監視システムになってしまうはるか以前に早々に頓挫してくれたわけですからラッキーでしたね(笑)

しかし日本人って個人情報の保護については特に慎重になりそうな性質に思えるんですが、なぜこんな重要な部分をエストニアに学ばなかったんでしょうかねえ。なんかもう、失敗するべくして盛大に失敗しちゃったという感じです。どうしても電子政府をやりたいんだったら、もう少しまじめに制度設計に取り組まないと実現は無理なんじゃないでしょうか。

まあ、どうしようもなく無駄な事業にじゃぶじゃぶ税金を突っ込んでは国民の顰蹙を買うというのは古くからの日本国の伝統ですから、「日本は相変わらずなんだなあ」と、ある意味でホッとしましたけれど(笑)