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企業・経営
ヤマト運輸が宅急便の値上げをせざるを得ない「もうひとつの事情」
Amazon問題、だけではないようで…

ポジティブな言葉が並ぶが…

ヤマトホールディングスは先週(4月6日)、筆者の電話取材に応じ、「今年9月末をメドに宅急便を値上げする」ことを明らかにした。

また、値上げ幅は「検討中」としつつも、値上げが「サービスを持続するのに不可欠」と語り、マスメディアを賑わせている「Eコマースの急増で物流が漂流の危機にある」とか「働き方改革という国策に呼応する」というプロパガンダ的な話を肯定してみせた。

宅急便の値上げに、そうしたプロパガンダが言うポジティブな側面があるのは事実だろう。

しかし、実情を探ると、同業他社が採算割れで撤退したネット通販大手アマゾンジャパンの商品の格安配送を受注したことが大きく響き、利益なき繁忙状態に陥って従業員に過酷な労働を強いたうえ、残業代の未払いや違法な長時間労働といった問題が生じていた。

こうした問題の後始末は、同グループの経営のコスト面にも大きな影を落としている。

 

筆者が気掛かりなのは、宅急便の値上げに伴う負担が、荷主経由でわれわれ一般消費者に転嫁されるリスクだけではない。

ヤマトグループの経営が過去の失敗をきちんと反省して、9月末の値上げをコストの外部への転嫁にとどめずに、労働分配率の見直しを軸としたビジネスモデルの抜本的な改革に繋げる覚悟があるかも、大きな問題である。

というのは、この問題はヤマトだけでなく、日本企業に幅広く共通するものであり、労働分配率軽視の経営が実質賃金の伸び悩みと消費の低迷を招いて、日本経済の潜在成長率の低下に拍車をかけてきたからである。

まずは、ヤマトが今回の値上げをどの程度真摯に経営改革に繋げるか。われわれは、その行方をきっちりと見守る必要がある。

念のため、本題に入る前に、筆者が経済ジャーナリストという本業の傍らで、ゆうちょ銀行の社外取締役を3年前からつとめていることを改めて明記しておく。

ゆうちょが属する日本郵政グループには、ヤマトとライバル関係にある日本郵便があるが、本稿で述べる見解はすべて筆者個人の取材と判断に基づくもので、日本郵便や日本郵政グループの見解とは無関係である。

話を戻し、宅急便の値上げ問題に入ろう。

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決算書を見ると…

9月末の値上げに先立ち、ヤマトは3月17日付でプレスリリース「宅急便のサービス内容の変更について」を公表。

4月24日からセールスドライバーやサービスセンターの当日再配達の受け付けをそれぞれ1時間繰り上げることを軸にした「当日の再配達締め切り時刻の変更」と、「12時から14時の指定枠」を6月中に無くすことが柱の「配達時間帯の指定枠の変更」を明らかにした。

これらは、いずれも利用者から見ればサービス内容の低下だ。

この点について、ヤマトは、「Eコマースの拡大による物量の増加」と「労働人口の減少」による労働需給のひっ迫が響いて、厳しい経営環境が続いているという。

そのため、「働き方改革」を推進し、「社員が働きやすい環境を構築するために、サービス内容を変更することにした」と説明している。

だが、1月30日に公表した2017年3月期第3四半期(2016年4月~2016年12月)決算を見る限り、まだヤマトは従業員の給料を増やしていない。

この期間、売上高(営業収益)は前年同期比3.1%増(実額1兆1181億円)となっているのに対し、社員給料の伸びは同2.2%増(同3855億円)と売上高のそれを下回っている。1単位の労働に対する実質的な賃金はむしろ下がったと考えられるのだ。

社員の給料と対照的に大きな伸びが目立つのは、ヤマトが「下払い」と呼ぶ科目だ。

この科目は同6.1%増(同4423億円)と急増している。下払いの内訳をみると、各家庭などへの配達を請け負う企業に支払う「委託費」が同10.1%増(同1801億円)と急拡大したほか、トラックなどの手配に必要な「傭車費」も同6.8%増(同1428億円)と膨張した。

つまり、ヤマトは、取り扱いが増えて売り上げが伸びたにもかかわらず、同じ比率で給与を増やすことをせず、代わりに下請け企業の活用拡大で急場をしのいだことが決算(損益計算書)から読み取れるのだ。