昨日、長男が寝ませんでした。
以下は、なんということのない、しんざき家のある一晩の話です。
長男、9歳。4月から小学四年生。長女と次女、5歳の双子。いずれも春から幼稚園の年長さん。
しんざき家は比較的タイムスケジュールが明確な家でして、子どもは基本21時には就寝します。20時にご飯を食べ終わって、皆でお風呂に入って、がーーっと寝る準備をして、21時には一家で布団にくるまって電気を消すのが理想のスケジュールです。
仕事の都合で、私が夕飯に間に合わないのはそんなに珍しいことではないのですが、幸い寝る時間に間に合わないことは余りありません。お風呂に一緒に入って、布団には5人で一緒にくるまって、子どもたちが全員寝付いてから親だけ起きてきて、ご飯を待ってくれているしんざき奥様と22時くらいに夕飯を食べる。それが、しんざき家で一番多いパターンです。
昨日、長男が寝ませんでした。
5歳の双子はなにせまだ幼児なので、パパ・ママが添い寝してくれないと寝られませんし泣きます。大体の場合、長女はママにくっついて寝たがりますし、次女は私に腕枕をしてもらいたがります。必然、親は二人とも、まずは長女次女にくっついて寝ることになります。長女は特に寝付きが良いので、長女が寝付いた後、奥様が移動して長男に添い寝してあげることもあります。
いつもは長男は、長女次女の反対側に位置して寝るか、ちょっと離れたポジションでごろごろしている内にいつの間にか寝ている、ということが常だったんですが。ここ数日、「長女 奥様 次女 私」というポジションが取られることが多く、「また(長女)ちゃんがママの横占領してるー」と長男が不平を言うことが続いていたのです。
不平を言いつつもいつの間にか寝ていることの方が多いですし、たまには私や奥様が早めに移動して添い寝してあげることもあったので、そこまで心配はしていなかったんですが。ただ、長男だってまだ9歳ですし、不公平を感じる部分もあったのかも知れません。
昨日長男は、いつも通り電気が消えてから、「また長女ちゃんがママの横占領してるー」と不平を言いました。「長女ちゃんすぐ寝るから、そしたら(長男)の横にいってあげるから」と奥様が答えました。
長男は、しばらくごろごろした後、おもむろに身を起こして、壁にもたれかかってじーっと座っていたのです。
月明かりが僅かに差し込む中、長男が身を起こしているシルエットは、私の目にはひどく印象的に写りました。いつもなら「ほら寝よう」と声をかけて寝させるところなんですが、なんだかそういうのが躊躇われました。
恐らくなんですが、長男はこの夜、「今日は絶対ママと寝る」と決意したんだろう、と思います。聞けば良かったんですが、電気が消えた中でお話をして、長女次女を起こしてしまってもいけません。
少し経った後、いつもはもうちょっとぐずぐずしている次女がすぐに寝付いたので、私は長男に声をかけました。「パパと一緒に寝る?」長男はゆるゆるとこっちに近づいてきましたが、「その前にトイレにいく」と、そっとささやき声で言いました。
しんざき家のトイレは階下にあります。長男はまだ、深夜に1人でトイレに行くのを嫌がりますので、長男がトイレにいく時は大抵私が起こされます。長男が用を足す僅かの間、私は長男に買ったてんとう虫コミックスのドラえもんを読みます。
長男がトイレから出てきてから、私は聞いてみました。「パパエレベーターする?」
長男は、ちょっと嬉しそうににやーっとして、「うん」と言いました。
パパエレベーターというのは、単に「パパが抱っこして階段を上がる」という、それだけのことです。長男の体重は、今30キロにちょっと届かないくらいです。流石に多少重いですが、まだ腰に来る程ではありません。長男をぎゅっと抱っこして、私はゆっくり階段を登りました。長男は、私の背中に腕を回していました。
子どもは皆抱っこ好きですが、しんざき家の3人はとみに抱っこ好きです。その後布団部屋に戻ったところ、長女は既に寝付いていて、奥様が長男と添い寝してくれました。さっきまで壁際にもたれかかっていた長男は、すぐに寝付きました。
これが、昨晩起きたことの全てです。この後私は奥様と夕飯を食べながら、長男が寝なかったことについて夫婦で情報交換しました。
長男の名誉の為に言い添えておきます。彼は確かに甘えん坊ですが、普段はとてもお兄ちゃんな甘えん坊です。私は彼に「こどもリーダー」という役職を任命しており、長女次女にも「お兄ちゃんの言うことちゃんと聞くんだよ」と言ってあります。長男が長女次女の面倒を見てくれると、私は彼に「流石こどもリーダーだな!」と声をかけます。自分がこどもリーダーであることは、長男の中では一つのプライドになっており、きちんとしたリーダーシップを見せてくれます。
ただ彼は、それと同時に、まだまだパパやママを独り占めにしたいし、抱っこされたいし、添い寝されたいのです。そしてそれは、私と奥様にとっても、大きな贈り物でもあります。まだ長男は、パパエレベーターに対してにやーっと喜んでくれるのです。
いつかきっと、長男は「パパエレベーターする?」と言われた時「いいよそんなことしないで」と言うのでしょう。「もうそんな年じゃないよ」と言うのかも知れませんし、その頃には長男の一人称は「ぼく」ではなく「おれ」になっているかも知れません。それは、5年後かも知れませんし、3年後かも知れませんし、1年後かも知れません。
だから、今、長男がパパエレベーターに喜んでくれることを、私は出来る限り大事にしたいと思っています。
子どもが甘えてくれる、という時間はいつか必ず失われますし、失われるべきです。「子どもが甘えてくれなくなる」というのは親にとって一つの喪失ですが、親は必ずその喪失を目指さなくてはいけません。だから私は、いつか長男や長女や次女が、「もう抱っこなんて年じゃないよ」と言う言葉を口にするのを目指し続けています。
それでも、まだ子どもが素直に甘えてくれる間は、親もそれに甘えてもいいものだと思っています。それも一種の助走距離になるのだろう、と思っています。
昨日、長男が寝ませんでした。
大事な時間でした。