田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 先日、批評家の栗原裕一郎氏、エコノミストの片岡剛士氏と私の3人でトークイベントを行った。最近の経済・社会問題についてのざっくばらんなトークだったが、時間の大半を費やしたのはやはり「森友学園問題」だった。

 ここで栗原氏が指摘したことだが、いわゆる日本のリベラルからみると、リフレ派は「ネトウヨ」(ネット右翼)に見えるということらしい。まさに「笑」としか表現できないことなのだが、どうも安倍政権の政策を個別に評価しただけでも「ネット右翼」、ましてや森友学園問題で、野党や朝日、毎日に代表される左派メディアのあり方を批判すれば、間違えることなく「ネット右翼」になるのだという。これまた笑うしかない状況ではある。

 「ネット右翼」でもなんでもいいのだが、このように敵味方のふたつに分けてしまい、相手を政治的に批判するのがいまやブームといえるような状況である。もちろんこのような事態が深刻化すれば、個別の政策への評価や批判が難しくなるだろうし、また社会の分断にもつながってしまう。

 ちなみにリフレ派というのは、単に日本の経済的停滞をデフレの継続に求め、その解消のためには、まず日本銀行の政策の転換によって低インフレ状態を実現し、そして低インフレによって日本経済を安定的な成長経路に戻し、雇用や一人当たりの生活水準を向上させることを最終目的とする「集団」のことである。もちろん日銀の政策転換は重要なのだが、政府が消費増税などといった、デフレ脱却と真逆の政策をやることは避けなければならない。そのため金融政策と財政政策の協調がぜひとも必要になる。

 つまり、リフレ派とは単なるデフレ脱却の政策面での共通項を指すだけであり、もちろん政治的意見を同じくする人たちではない。実際にリフレ派といわれる人たちには、マルクス主義に主軸を置く人(立命館大の松尾匡教授ら)や、安倍政権のブレーン(浜田宏一内閣府参与)がいて、政治的立場は多様である。

 また、特定の政権だけにリフレ政策を採用することを推し進めてきたわけでもない。例えば、筆者は民主党政権の時代に、同党の「デフレ脱却議連」や個々の民主党議員にデフレ脱却に関する政策の重要性を何度も説いてきた。その成果は残念ながらなかったのだが…。つまりリフレ派に特定の政治的レッテルを貼るのは完全に間違いである。
 リフレ政策はいわば日本経済復活の処方箋であり、リフレ派はその意味で「医者」である。薬や手術、またはそれを行う医者に保守だ、リベラルだ、ネット保守だ、とレッテルを貼ってもなんの意味も持たない。いわば「フェイク」(偽物)のレッテルである。