スウェーデンで露天商を営むイラク生まれのムスタファさんにとって、首都ストックホルムの繁華街で起きた7日のテロは、後戻りができない事態となってしまった。「今では不信を感じ取ることができ、不信感は高まっている」と言う。
ムスタファさんは、男がトラックを乗っ取り、混雑した街頭で通行人をなぎ倒した末に、百貨店の正面に突っ込んだ事件の数分後に現場にいた。この事件では、4人が死亡し、15人が負傷。地元警察は、問題の盗難車を運転していた容疑で、39歳のウズベキスタン人の男を逮捕している。
名字を明かすことを拒むムスタファさんは、現場に駆けつけ、トラックが残した惨状を目にし、ポリ袋を使って犠牲者の体からもげた部位を覆うのを手伝った。
■開かれた国、移民数は激減
だが、この出来事がスウェーデンを変えた様子も目の当たりにした。その日の遅く、車で家に帰る準備をしていると、襲撃犯を捜索している武装警官に取り囲まれ、手を上げて車から出るよう命じられた。警察は所持品と車内を調べ、運転免許証を没収した。「ここに33年住んでいるが、こんなことは一度も見たことがない」とムスタファさんは言う。
ストックホルムは今、ロンドンやパリ、ブリュッセル、ベルリンに続き、テロに襲われた欧州諸国の首都の仲間入りをした。かつてはおおらかで、ゆったりしていた街は今、不安にさいなまれ、ぴりぴりしている。そして一部のスウェーデン人は、自分たちが誇りにしている自由で開かれた社会が、テロと警備強化、警戒心の高まりという新たな現実を乗り切れるかどうか疑問に思っている。
スウェーデンのロベーン首相は8日、百貨店オーレンスのそばのテロ犯の破壊の痕跡が途絶えた場所に花を手向け、これで変わることは何もないと誓った。「我々は普通の生活を送りたい。我々は開かれた民主的な社会であり、今後もそうあり続ける」と首相は述べた。
だが、7日のテロの前でさえ、スウェーデンは変わりつつあった。2015年の難民危機を受け、すでに以前よりずっと制限が厳しい移民政策を採用していた。これにより、2015年に16万3000人を記録した亡命希望者は、昨年、3万人足らずまで激減した。また、社会民主労働党のロベーン首相はこの数週間、法と秩序に関する厳しい新政策を推し進め、暴力的な犯罪の取り締まりと国防費の増額を約束してきた。
「ロベーンにとっては絶好のタイミングだ」。ストックホルムのシンクタンク、リフォーム・インスティチュートのステファン・フェルスター所長はこう話す。「今回の攻撃はロベーンに、提案を実行に移す自由裁量を与えるだろう」
スウェーデンは岐路に立たされている。同国は「人道的超大国」、そして自由な価値観の砦(とりで)としての名声を得ている。自国の手厚い福祉制度や、外国人に対する開放性、200年間戦争に参加していないという事実を誇りにしている。だが、一連の出来事は、スウェーデンも、米国でドナルド・トランプ氏を権力の座に就け、昨年6月の国民投票でブレグジット(英国の欧州連合離脱)をもたらした世界的混乱と無縁ではいられないことを示している。