ピラミッドに魅了された人々が唱えた様々な珍説
ピラミッドは我々を魅了してやみません。
ほぼ人の手のみで組み上げた壮大な土木工事。
そして現代の科学も驚く正確無比な計算に基づいた設計。
そして未だに議論がある「なぜ建設されたのか」の謎。
古代から現代まで多くの人がこの謎に挑んできましたが、中にはかなりぶっ飛んだ説もあり、驚くことに結構市民権を得てしまった説もあったりします。
1. 神の知恵説
ピラミッドは神から知恵を受けて建設された
ピラミッドは古代の叡智の結晶であり、幾何学、天文学、地理学など現代の学問が見落としている何らかの偉大な知恵が隠されているに違いない、という伝説は長い間語り継がれてきました。
19世紀のイギリスの詩人・随筆家のジョン・テイラーは50歳になってからピラミッドの魅力に取りつかれ、調べれば調べるほど、ピラミッドには隠された謎があるに違いないという信念を強くしていきました。
テイラーはヘロドトスが書き残したヒントに従ってピラミッドの傾斜角や底辺面積などを計算していき、
「ピラミッドの底面の四辺一周の長さは、地球の赤道上の円周を表し、高さは地球の中心から極までの距離を表しているのではないか」
という説に辿り着きました。
これが事実なら古代エジプト人は地球が球体であることを知っており、天体の運行を元に地球の円周を知っていたことになります。
テイラーはこの説が正しいことを証明しようとやっきになりますが、敬虔なキリスト教信者であり「旧約聖書」の記述を信じていた彼は一つの苦悩を抱え込むことになります。
紀元前4000年前に作られた天地が、神の怒りによって洪水にさらされたのが紀元前2400年前。しかし大ピラミッドは紀元前2100年前に作られたものだという。たった300年で無からここまで偉大な文明が完成するとでも!?
悩んだ結果、テイラーは一つの結論に辿り着きます。
「大洪水から復興した人間たちは、神から高水準の知恵を授かり、それを元にピラミッドを建設したに違いない」
こうして矛盾を乗り越えたタイラーでしたが、彼の説は当時のイギリスのアカデミックの世界では全く無視されてしまい、失意の中でタイラーは1865年に死去しました。
2. 古代の秘技説
ピラミッドは古代の秘密を知る秘技を授かる場
タイラーのようにピラミッドは古代の知恵を現代にもたらす象徴であると考える人々は多くいましたが、中でも18世紀〜19世紀に盛んだった神秘主義の信奉者たちは、ピラミッドは「古代の秘密」を知るための秘技を行うための場であると信じており、怪しげな儀式などにピラミッドを活用していました。
最も代表的な人物が、20世紀前半のイギリスのオカルティスト、アレイスター・スタンリー。彼は積極的なオカルトの作品を発表して信奉者を集めていた男で、イギリス紙に「世界一邪悪な男」と書かれたこともある人物です。
クロウリーは著書「告白」の中で、大ピラミッドの「王の間」の中で新婚旅行の一夜を過ごし、ロウソクの火で壁に奇妙な錬金術の呪文を読み取ったと語りました。さらにその壁はこの世のものとは思えない光を帯びて輝き始め、ロウソクが消えても呪文が読めるようになった。さらに数日後、彼らはエジプトの神々と遭遇を果たした、とも主張しました。
まあ、クロウリーの主張はペテン師のそれだと思いますが、多くの人が古代の偉大な知恵を得ようと、ピラミッドの王の間にある石棺に入り儀式を行ったようです。
3. アトランティス人建設説
ピラミッドはアトランティス人によって建設された
ジョン・テイラーはピラミッド建設の高度な技術は神から授けられたと考えましたが、実はこれは「失われた大陸」アトランティスの遺民が伝えたのだ、と主張したのがアメリカの作家イグネイシャス・ダンリー。
彼は1882年に出した著書「アトランティス」の中で、ギリシアとインドに至る文明の神々は実はアトランティスの王と女王であり、アトランティスは南米から北欧、そしてもちろんエジプトまでも植民地としていた、と主張しました。
この本はベストセラーとなって他の作品にも転載されたため、「アトランティス=すべての文明の出自」説は一般にも有名になってしまいました。
この説を発展させたのがエドガー・ケイシーという男。
ケイシーはピラミッドを建設したのはアトランティスの出身者だと述べ、彼らは来たるべくアトランティスの崩壊を予見しており、紀元前10500年ごろにエジプトに居を構え、紀元前10400年ごろにピラミッドを建設した、と主張しました。
彼によれば、アトランティスの秘密が詰め込まれた「公文書館」がピラミッドの中か近くに必ずあるはずで、20世紀末にそれが見つかるであろう、と予言しました。
残念ながら彼の予言は的中しませんでしたが、アトランティスの存在を信じる人々は、エジプトのピラミッドとアトランティスは密接な関係にあると考えています。
4.宇宙人建設説
Photo by Sven Teschke
ピラミッドは宇宙人によって建設された
スイス人の自称考古学者エーリッヒ・フォン・デニケンは、1969年に出版された「未来の記憶」の中で、「ピラミッドは宇宙人によって建設された」と主張しました。
デニケンによると、ピラミッドはラー(宇宙飛行士)が天空から戻り、死者を復活させるまで重要人物の遺体を保存してくための一種の冷凍室である、というのです。
ピラミッドは宇宙船のレーザー光線によって建設され、当然宇宙のテクノロジーによって建設されたため高度なのであるというわけです。
さすがにここまで来ると、カネ儲けのためにウソをばらまく詐欺師という批判は免れず、天文学者でNASAの研究員でもあったカール・セーガンは
私は「未来への記憶」が高校の論理の授業で、デタラメな本の例として採用されないかと願っている。最近の本の中には、さすがにデニケンの著作のようなデタラメで荒唐無稽のものばかりでないことを知っているのだが。*1
と、皮肉たっぷりに述べています。
5. 奇跡の形状説
ピラミッドの形状は奇跡的なパワーをもたらす
1960〜70年代にかけて起こったピラミッド・ブームで流行ったのが、ピラミッドの四角錐の形状がミラクルパワーを持っており、ピラミッドの形状の中に物を入れると悪くならない、という主張。
これを初めて主張したのはフランス人のアントワーヌ・ボヴィという男で、1920年代のこと。彼はピラミッドの王の間に入った時に、そこにあるゴミ箱の中の「ネコの死骸」が、湿っぽい空気にも関わらず腐敗せずにミイラ化しているのを見つけ、ここからヒントを得て実験を重ねた、と主張しました。
彼によると、木でピラミッドの形の模型を作り、その中にネコの死骸を入れると、あら不思議!ネコの死骸はミイラとなってしまったのだ!
とんだペテンの臭いがしますが、これを真に受けたチェコの技師カレル・ドルバルは、使用済みのカミソリをボール紙で作ったピラミッドの中に入れておいたところ、なんということだ!新品同様のカミソリに生まれ変わった!
「クフ王のピラミッドカミソリ研ぎ」の特許を出願し、発泡スチロールで出来たピラミッド型の製品を売り出して大儲けしたそうです。
まとめ
ピラミッドに関連する本を読むと、その半分以上はピラミッドに魅了された人々、考古学者や学者、作家たちの物語で、本チャンのピラミッドの謎自体は結構あっさり片付けられていることが多いです。
ピラミッドの存在だけでなく、その周辺の物語も巻き込んで歴史物語が作られていくし、これからもきっとピラミッドは歴史を作り続けていくのでしょう。
ここまで人を呪縛する力があるとは、やはりピラミッドは人間が作った最も偉大な建造物と言っていいんでしょうね。
参考文献
「図説 大ピラミッドのすべて」ケヴィン・ジャクソン,ジョナサン・スタンプ著, 吉村作治監修, 月森左知訳 創元社
- 作者: ケヴィンジャクソン,ジョナサンスタンプ,吉村作治,Kevin Jackson,Jonathan Stamp,月森左知
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2004/09
- メディア: 単行本
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*1:Story, Ronald (1980), The Space-gods revealed. A close look at the theories of Erich von Däniken (2 ed.), Barnes & Nobles