問題がより大きかったユーロ圏の周縁国でも景気回復の勢いが増す中、絶望的な状況から抜け出せないギリシャの苦境が一段と際立っている。ギリシャでは労働力人口のほぼ4分の1が職に就いていない。経済成長は昨年末に失速し、事業主らは銀行預金を引き出している。このところの信頼感の悪化は、860億ユーロ規模のギリシャ支援プログラムの次段階を巡る不確実性が大きな原因だ。
したがって先週、支援プログラムの監視団との間で合意がまとまったことは大きな安心材料だ。合意の中核は、ギリシャ政府が追加支援を得るために直ちに所得税と年金の改革に踏み切ることだ。これによりギリシャは、60億ユーロ以上の債務が返済期限を迎える7月までに追加の金融支援を受ける道が開けるはずだ。それがないとギリシャ経済がまひ状態に陥るような額だ。
課税基盤を広げて年金費用の持続可能性を高めるギリシャ政府の施策は、それ自体が中期的に価値がある。それにより現状の行き詰まり状態が終われば信頼感が高まり、当面の収入への打撃を補って余りあることにもなりうる。
しかしながら、債権国側とギリシャとの合意の輪郭ははっきりしたとしても、債権国の間に埋めるべき大きな溝が残っている。
ギリシャ債務危機の発生以来、ユーロ圏諸国の政府は自国の銀行と納税者の保護を優先した。もっと手厚い債務軽減が必要なのを認めようとせず、ギリシャに現実離れした経済成長と財政黒字の楽観的な目標の実現を一貫して求めてきた。ギリシャは昨年、予想に反して基礎的財政収支の黒字目標を上回ったようではあるが、緊縮策の社会的コストはいよいよ容認できない水準になっている。
■財政黒字を続けられるのか
国際通貨基金(IMF)は、そのような大きな黒字は持続不可能であり、さらなる債務軽減が欠かせないとの見解をはっきりと示している。次なる解決すべき問題は、現行の支援プログラムが終了する2018年以降、ギリシャが3.5%の基礎的財政収支の黒字をどれだけ長く続けられるかだ。IMFが現時点で資金パートナーとして救済プログラムに加われば、IMF報道官が7日に示唆したように「債務の持続可能性の回復に向けた信頼できる戦略」も求めるだろう。
となると、ユーロ圏諸国の政府はギリシャの債務軽減について、自国の有権者に受け入れさせることができる方法を見いださなければならない。米ピーターソン国際経済研究所が発表した新たな論文は、その選択肢がいかに受け入れがたいものになりそうかを示している。
主執筆者のジェロミン・ゼッテルマイヤー氏は、想定しうるどんなシナリオでも、ギリシャは追加の債務軽減が必要になると結論づけている。ユーロ圏諸国が断固反対する債務減免はせずに何とか達成できるという。だが、ユーロ圏諸国がすでに検討するとしている措置、特に償還期限の延長と利払いの繰り延べだけに終始すれば、ギリシャの負債は最終的に縮小に転じるまで数十年間、膨らみ続けることになりかねない。このようなやり方、あるいは妥当かもしれないがまだ議論されていないやり方は、少なくとも政治的な困難を伴う。
ギリシャの債権国は早くこのような現実に立ち向かう必要がある。債権国はギリシャ政府と同じく、返済期限が近づくたびに瀬戸際政策が繰り返されることを終わらせる道義的責任がある。ギリシャは、この10年の大部分を不況の中で苦しんできた。そして、なおも大きな試練に直面している。支援プログラムを巡る不確実性がなくならないために、景気の好転を助けるような投資が阻害されている。
(2017年4月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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