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シンプルに。自由に。

北海道でアパートの大家業をしてます。4人家族。映画が好き。猫が好き。本当の豊かさは高い収入でもモノでもなく「自由な時間だべや」という信念のもと、なまらのんびり生きてます。“every cloud has a silver lining.” したっけ!

映画『桐島、部活やめるってよ』の感想〜なぜ野球部のキャプテンは自分のところにスカウトが来ないとわかっているのに野球をやめないのか?

オススメ映画

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今回は『桐島、部活やめるってよ』という映画を取り上げたいと思います。

「えっ、今さら!?」と言わないでください(笑)

とにかく大好きなんです、この映画!

今んとこ、僕の中での邦画ランキング暫定1位です。

これほどスゴい日本映画はありません。

最初は僕、ナメてたんです。

「はいはい、よくある青春ミステリーものでしょ?」みたいなカンジで。

横になって観てました。

ところが途中からだんだん話に引き込まれていって、最後はもう正座。

頭をレンガで思いっきりガツン!と殴られたような衝撃を受けました。

しばらくは茫然自失で動けませんでした。

とにかく「スゴいものを観た…」という以外、何も考えられませんでした。

__というわけで、あまりにも思い入れが強い作品なので、いったい僕の指先が何を語り出すか予測不可能でちょっと怖いのですが、とにかく『桐島』について書きます。

これは僕にとってどうしても書かなければいけない重要な作品。

たぶん記事をアップした後も追記追記で、最終的には2万字ぐらいになるのではないかと思ってますんで(笑)、みなさんどうか引かないでね!

目次

作品概要

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

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  • 原作:朝井リョウ
  • 監督:吉田大八
  • 脚本:喜安浩平/吉田大八
  • 出演:神木隆之介/橋本愛/東出昌大/清水くるみ/山本美月/松岡茉優/落合モトキ/浅香航大/前野朋哉/高橋周平/鈴木伸之/榎本功/藤井武美/岩井秀人/奥村知史/太賀/大後寿々花
  • 上映時間:103分
  • 公開:2012年/日本

 

第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、ヨコハマ映画祭作品、毎日映画コンクール日本映画優秀賞など数々の賞を受賞し、日本全国にこれだけ熱狂的なファン(僕みたいな人ですね)を生み出した本作。

しかし、公開当時はなぜかそれほどヒットしませんでした。

なんと、リクープ(資金回収)ができたのは2016年11月になってからとのこと。

2012年の興行収入ランキングでも50位にも入っていません。

それなのにどうしてこの映画は『青春映画の金字塔』と言われるまでの評価を得ているのか?

すべての答えは『桐島、部活やめるってよ』という映画の中にあります。

観ればわかります。

とにかくまだ観てない人は(そんな人いるのか?)、今すぐTSUTSYAへ走ってください!

たった100円で人生が変わるなら、安いもんでしょ?

レビュー

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この映画では「学校」という場所が舞台になっていますが、もちろんこれは便宜上そうなってるだけ。

これを「会社」と置き換えていいし、「自分を取り巻く人間関係」と置き換えてもいい。

この映画のわかりづらさは多分そのあたりから来ているのではないでしょうか?


この映画を「青春映画」とか「学園もの」として観てしまうと、いろんなことがぼやけてしまう。

観終わった後に巨大なクエスチョン・マークを抱えることになります。

「いったいこの映画は何が言いたかったの?」「いったいこれ、何の話だったの?」といった具合に困惑してしまうかもしれない。

実際、僕の友人たちのあいだでも「なんだかよく分からなかった」と言ってる人が多かったです。

でも『桐島、部活やめるってよ』の素晴らしいところは、そういうわかりづらいことを描くことにチャレンジしている点。

  • 同調圧力
  • その場の空気
  • お互いに気を使いながら生きなければならない微妙な関係
  • etc

__そういうことって今までの日本映画ではあまり取り上げられなかった。

いじめでもない。恋愛でもない。スポ根でもない。サクセス・ストーリーでもない。

でもそれって実は僕たちのまわりにはいっぱいある。

そっちの方がむしろリアル。

僕たちだってこの映画の中の高校生たち同様に「すごく微妙な関係」の中で生きていたりする。

実は互いは互いのことをそんなに好きなわけじゃない。

会えばニコニコ話すけど、決して心を開いているわけじゃない。

同調圧力や空気を生み出している人たち

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人間関係というのは果てしなく微妙な力関係によって成り立っています。

そこには『ヒエラルキー』のようなものが確実に存在し、そのヒエラルキーが「同調圧力」や「空気」のようなものを生み出しています。

あなたの学校、あなたの会社、あなたの属している集団、あなたの友人関係、etc…。

多かれ少なかれきっとあるはず。

もちろん、そういう同調圧力や空気を作り出している連中というのは、たいがい救いようがないくらいにくだらない連中です。

だけど、そんな連中に異議を申し立てることはできない。

くだらないことは百も承知だけど、それに黙って従うだけの『自分』がそこにいたりします…。

僕らにできること。

それはせいぜい空気を読んで、秩序を壊さないように努めることぐらい。

そうすることでしか僕らが生き残る道はない。

  • なるべく作り笑いをして、無難にやり過ごし、少しでも自分にとって有利な立ち位置をキープすること

__そういうことをせっせとやってるのは何も高校生だけじゃない。

40を過ぎた僕みたいおっさんでもやっていたりします…。

「桐島」とは何を象徴しているのか?

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桐島はスポーツは万能だし、勉強もできるし、女にもモテるし、男子からも愛されている超人気者。

何もかもを持っている『神』のような存在です。

その神のような存在が「オレ、疲れたから、もう降りるわ…」とばかりに目の前から急にいなくなってしまった。

それは桐島のまわりにいた連中にとって、神から突きつけられた『否定』『拒否』以外の何ものでもありません。

困惑、混乱、焦り、苛立ち、そして絶望、etc…。

  • えっ、オレたち、もしかして拒否られたの?

__「桐島と友達で、カーストの上位にいる」ということだけが唯一のアイデンティティだった人たちにとって、それはあまりにもショッキングな出来事。

この映画の中でも桐島が突然自分たちの目の前からいなくなって右往左往する連中がたくさん出てきます。

彼らは「桐島というスゴい奴と友達であること」「桐島というスゴい奴のそばにいること」が最大の武器でした。

ところがその武器を彼らは失ってしまったのです。

  • いちばん頼りにしている存在がいなくなったとき、いったいあなたはどうする?

__この映画はそう僕らに問いかけてきます。

「桐島」はいろんなことに置き換えて考えることができます。

会社、信仰、国家、友人、恋、学歴、社会的地位、資格、あるいは「これが正しいことだ!」と信じて疑わなかった自分の考え、etc…。


そういったことが全部間違いだったらどうする?

今まで大事にしていたこと(アイデンティティ)をなくした時、あなたにはいったい何が残る?

心の底から打ち込めるものを見つけろ

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この映画のおもしろいところは、その「桐島の不在」にまったく影響を受けることのない人たちが描かれる点です。

普通の青春映画では決して描かれることのない人物たち。

どこのクラスにも必ず一人か二人はいる『目立たない人たち』です。

でも彼らにだって彼らなりの物語はあるのです。

そしてその物語は目立つ連中の抱えている物語よりもよっぽどおもしろかったりする。

社会に出てから成功するのは実はこういうタイプの人たちです。

逆に学生時代に輝いていたやつほど社会人になってからパッとしない人生を送っていたりする…。

『桐島、部活やめるってよ』の中では映画部の前田と、吹奏楽部の亜矢と、野球部のキャプテンの3人が登場します。

彼らは桐島がいなくなったことにも無頓着。

まったく動揺していません。

桐島たちカーストの上位にいる人たちにとって彼らがどうでもいい存在だったように、彼らにとっても桐島はどうでもいい存在なんです。

別にそいつがいなくなったって、取り立てて大騒ぎするほどのことじゃない。

前田の友だちの映画部の武文も、桐島がいなくなったことで大騒ぎしてる連中に向かってこうつぶやきます。

なんなんだよ、お前ら…


彼らは最初から『中心』から外れているのです。

彼らはヒエラルキーやカーストなどいうくだらないものにハナっから参加していません。

そんなものが存在すること自体知らないかもしれません。

映画部の前田は仲間たちと「自分なりのゾンビ映画」を作って、それを完成させることに必死になっています。

吹部の亜矢ちゃんも「音楽に集中すること」で自分を発見していきます。

野球部のキャプテンにいたっては、もう最初から孤高の存在。

この映画の中の真の主役は僕は彼だと思っています!

まわりのことなんてまるで目に入っていません。

とにかく「野球」のことで頭がいっぱい。

僕はこの3人の存在が大好きです。

彼らは自分が心の底から打ち込めるものを見つけ、それをやり続けています。

そしてそれこそがこの厳しい現実をサヴァイヴするための一つの方法でもあるのです。

いちばん重要なことは『結果』じゃない

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桐島は最後の最後まで出てきません。

追いかけても追いかけてもまるで陽炎のようにスッといなくなってしまう。

それはつまり「最初からそんなもの存在していなかった」ということとイコールなのです。

  • 僕たちが勝手に作り上げた虚像
  • フィクション
  • 美しい物語

__この映画の根底に流れているのは「そんなものに惑わされてはいけない!」というメッセージです。

この映画の中で桐島がいなくなったことでいちばん動揺するのは、桐島の親友だったはずの宏樹。

桐島並みのハイ・スペックの持ち主であるにも関わらず、野球にも興味を失い、恋にも真剣になれず、進路も決めかね、「いったいどうしたらいいかわからない…」という状態におちいっています。

でも、そんなぐちゃぐちゃしたカオスの中にも、よくよく目をこらせば「希望の光」は差し込んでいたりする。

  • 野球部のキャプテンからの「もう一度、野球やらないか」の誘い

__実はこれこそが宏樹を暗闇から引っ張りあげる「希望の光」。

でも、宏樹はそのことにまったく気づいていません。

それどころか、キャプテンのことを「ウザい」とさえ感じている。

宏樹にとってのアイデンティティは野球だったのです。

野球こそが桐島に対抗できる唯一の「武器」だったのです。

その武器を自ら放棄してしまっている。

キャプテンはずっと宏樹が抱えている問題を解決するヒントを与え続けてくれていたのです。

シグナルを送り続けてくれていたんです。

最後の最後になってようやく宏樹はそのことに気づきます。

宏樹は映画部の前田とこんな会話をします。

 

  • 宏樹:「将来は映画監督になりたいの?」
  • 前田:「うーん、映画監督はたぶん無理かな…」
  • 宏樹:「え? じゃあ、なんで映画なんて撮ってるの?」
  • 前田:「うーん、今自分がやってることが自分の好きなものと繋がってるような気がしてね…」

 

いちばん重要なことは『結果』じゃないんだ。

夢を実現するか・しないかでもない。

「好きなこと」と繋がっている、という感覚。

まわりからどんなに数奇な目で見られても、「好きなことに熱中する」ということ。

現実はあまりにも厳しい。

たぶん、夢を実現させることは難しいだろう。

だけど(いや、だからこそ)、自分の好きなことをやり続ける。

その一点だけで僕らは生きてゆくことができる。

ありもしないものにすがって生きるより、わけのわからないものに振り回されて生きるより、そっちの方が良くない?

__前田との会話を通じて、宏樹はそのことに気づき、目が醒めるのです。

野球部のキャプテンという存在について

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もしも『桐島、部活やめるってよ』という映画をこれから観るという人は、ぜひ野球部のキャプテンの登場シーンに着目してほしい。

計3、4回出てくる。

彼は本当に不思議な存在です。

いったい彼は何を象徴しているのでしょうか?

先ほど僕はこの「野球部のキャプテンこそが真の主役」というような書き方をしました。

なぜ僕はそう思ったのか?

「彼みたいな人が自分のまわりにいたらどうなるだろう?」と想像して見てください。

怒るわけでもない。うるさいわけでもない。何か迷惑をかけるわけでもない。誰かをいじめたり、嫌なことを言ったりするわけでもない。

孤独で、ストイックで、ただ黙々と自分の好きなことだけをやり続け、それに情熱を注ぎ続けられる人__。

彼の中では「結果」なんてことはどうでもいいことなんです。

「それをやる理由」や「それをやるメリット」なんてこともどうでもいい。

ただそれが好きで好きでしょうがないから、それをやる。

それ以外に理由はない。

まわりのことは一切気にならない。

そういうゾーンに入っている人がもしもあなたのまわりにいたら、あなたはその人のことをどう思うだろうか?

僕は心の底から尊敬すると思う。

できることなら僕もそうなりたいと思うでしょう。

邪念を捨て、ただ黙々と自分とだけ向き合い続ける人。

どんなに人から「バカだ」と思われても、夢を追い続けられる人。

そういう人って最強だと思う。

絶対に叶わない。

まとめ

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僕がこの映画を観ていつも泣いてしまうシーンがある。

この野球部のキャプテンと宏樹が最後に話す場面。

 

  • 宏樹:「キャプテン、どうして引退しないんですか?」
  • キャプテン:「え?」
  • 宏樹:「いや、普通、夏が終わったら引退するから…」
  • キャプテン:「ドラフトが終わるまではね…。ドラフトが終わるまでは」
  • 宏樹:「え、キャプテンのところにスカウトとか来てるんですか?」
  • キャプテン:「来てないよ。来てないけど、ドラフトが終わるまではね…。うん…」
  • 宏樹:「…」
  • キャプテン:「じゃ、オレ、そろそろ行くわ」

 

来るわけがないものを待ち続けられる人。

自分のところにスカウトなんか絶対に来ないことがわかっているのに必死で練習を続けるキャプテン。

一部の映画館ではこのシーンで笑いが起こったといいます。

でも、僕は笑うどころかこのシーンで号泣してしまいました。

僕は脱サラして起業するという道を選んだ人間。

だから、余計に胸に刺さる。

夢を追い続けることはそんなにおかしいことだろうか?

そんなにバカげたことだろうか?

最後に宏樹に向かってキャプテンはこう言います。

  • 勝てる気がするんだ。次は…


この時のキャプテンの目の輝き。

「絶対に勝つ!」でもなく、「勝たなきゃいけない!」でもなく、「勝てる気がするんだ。次は…」という言葉。

弱小チームだから絶対に勝てるわけがないのに、「なんとなくそんな気がする…」と思えるということ。

それって最強だと思わない?

もしかしたらそれは実際に試合に勝つことよりも重要なことなのかもしれない。

 

したっけ!

 

 

※なんとみなさん、この時点でゆうに6,000字を超えていることが判明しました(笑)

そして、なんとみなさん、まだこの映画に関して書きたいことの半分も書けていないことも判明しました(笑)

だから、いつか「Part2」という形で記事にしてみたいと思います。

とりあえず今回は長くなってスイマセンしたっ!

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原作本

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

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