子宮頸がんワクチンで痛み 接種後の発症期間にばらつき

子宮頸がんワクチンで痛み 接種後の発症期間にばらつき
子宮頸がんワクチンを接種したあとに原因不明の痛みなどを訴える女性が相次いだ問題で、症状を訴えるまでの期間には最長で4年の幅があったことがわかりました。厚生労働省の専門家会議は「今回の調査だけでは接種との因果関係は判断できない」として、今後はさらに同じ症状を訴えているケースを詳しく分析したうえで、接種の積極的な呼びかけを再開するかどうか、最終的な判断を示す方針です。
子宮頸がんワクチンは平成25年に定期接種に追加されましたが、接種後に体の痛みなどを訴える女性が相次ぎ、国は4年近く、接種の積極的な呼びかけを中止しています。

10日の専門家会議では、症状を訴えた103人について厚生労働省の研究班が分析した結果が報告されました。

それによりますと、接種から症状を訴えるまでの期間が1か月以内だった人は全体の31.1%となる32人だった一方で、1年を超えた人は36.9%となる38人で、中には症状を訴えたのが4年後だったという人もいたということです。

これを受けて、専門家会議は「症状が出るまでの期間にばらつきがあり、今回の調査だけでは接種との因果関係は判断できない」としました。

そのうえで、これまでの調査でワクチンを接種していない人でも同じ症状を訴えているケースが確認されていることから、今後は専門の医師から聞き取るなど詳しく分析したうえで最終的な判断を示すことにしています。

専門家会議の座長を務める国際医療福祉大学の桃井眞里子副学長は「不安で予防接種を受けられない人たちのことを考えると、可能な限り早く医学的な評価を示さなくてはならない。実際に症状が出ている人への治療などの在り方も示したうえで、議論を決着させたい」と話しています。

子宮頸がんワクチンと発症めぐる経緯

子宮の入口にできる子宮頸がんは、主に「ヒトパピローマウイルス」と呼ばれるウイルスの感染が原因で起きるがんです。高齢者を中心に年間およそ3000人が亡くなっていて、若い女性の間でも増えているがんです。子宮頸がんワクチンは、この「ヒトパピローマウイルス」の感染を防ぐ効果があるとして、8年前、日本でも承認されました。

4年前の平成25年4月には小学6年生から高校1年生までの女子を対象に国と自治体が費用を負担する「定期接種」に追加され、これまでに推計340万人が接種を受けています。しかし、接種後に原因不明の体の痛みなどを訴える患者が相次ぎ、厚生労働省は定期接種となったわずか2か月後に、「接種との因果関係が否定できない」として積極的な接種の呼びかけを中止。

その後、厚生労働省の専門家会議は「ワクチンそのものが原因ではなく、接種の際の不安などの心理的な要因によって症状が出た可能性がある」とする見解をまとめましたが詳しい原因は解明されておらず、全国で接種を見合わせる動きが広がりました。

また、おととし10月には症状が回復しないままの人が若い女性を中心に少なくとも186人いることがわかり、接種との因果関係が否定できない患者については医療費などの救済も始まっています。

厚生労働省は、積極的な接種の呼びかけを再開するかどうか判断するため専門家に依頼しておよそ1年間かけて調査を行い、去年12月、接種していなくても同様の症状がある人が一定数いることがわかりましたが、集まったデータに偏りがあることなどから因果関係については判断できないとしていました。

現在も、最終的な判断をいつ行うのか見通しは立っておらず、ワクチン接種の積極的な呼びかけを4年近く中止する異例の事態が今も続いています。

ワクチンの副反応 把握の仕組みに問題か

国が積極的な接種の呼びかけを中止してからすでに4年近くがたっていますが、なぜ、こうした事態がずっと続いているのでしょうか。背景には、ワクチンの副反応を把握したり分析して判断したりするための仕組みの問題があると専門家は指摘しています。

ワクチンの接種後におきた症状がワクチンと関係があるかどうかを調べる重要な方法の一つは、接種したグループと接種していないグループで症状のある人の数を比べる調査です。日本より3年早く子宮頸がんワクチンを承認したアメリカは、医療機関が持つ900万人分のカルテなどの情報から、ワクチンの接種歴や、症状の有無についてデータを集め、分析するシステムを持っています。

何か危険があればすぐに把握できるよう、アメリカではこのシステムを使って接種後に特定の症状が増えていないか毎週分析しているのです。子宮頸がんワクチンについても接種したグループだけに特定の症状が問題になるレベルで増える現象は確認されていないとして、接種が継続されています。

一方、こうしたシステムを持たない日本では、医療機関にアンケートを行うなど時間のかかる調査を一から始める必要があります。国の研究班は、およそ1年間かけて調査を行い、去年12月、接種していない人にも同様の症状がある人が一定数いることはわかったものの、集まったデータに偏りがあるため因果関係は判断できないとしていました。

ワクチンの副反応の分析などに詳しい京都大学医学部の川上浩司教授は「ワクチンを継続するかどうかを判断するためにはデータを解析しなければならないが、日本には医療現場から情報を収集する仕組みが整っていないため、判断できないのが今起きている問題だ」と指摘しています。
そのうえで、「判断できない状況が続くことは国民に不利益をもたらすため、日本でも一刻も早く医療現場からデータを集めて解析する仕組みを整えるべきだ。ワクチンを安心して使えるようにするには副作用に関する情報をしっかりと可視化していくことが重要だ」と話しています。

弁護団「結果をどう解析しても無意味」

子宮頸がんワクチンの接種をめぐり、体の痛みなどを訴えた患者たちが起こしている裁判の弁護団が、都内で記者会見を開きました。

共同代表を務める、水口真寿美弁護士は「そもそも副反応についてきちんと定義しないまま調査を行うことに根本的に問題があり、結果をどう解析しても無意味でしかない。被害者が納得できる、科学的に合理性のある調査を期待していたのに、国は時間と費用をかけて、むだな調査をしてきたという印象だ」と批判しました。

また、20歳の娘に運動障害などの症状が出ているという大阪・柏原市の児玉三紀子さんは「今回の調査結果が、治療につながると期待していたが、国が時間をかけて調査してきたのは何だったんだろうと、悔しい気持ちがある。早く被害で苦しんでいる子どもたちにとって解決の糸口になることが大事で、研究や治療に資金を回してほしい」と訴えました。

「副反応データを偏りなく集める仕組み導入を」

今回の調査を行った厚生労働省の研究班の代表で、大阪大学の祖父江友孝教授は「問題が起きてから調べようとすると、さまざまな偏りがデータに出てしまうので、因果関係を調べる調査が非常に難しくなってしまう」と、調査には限界があることを明らかにしました。

そのうえで、「接種と症状に因果関係があるのかないのか判断できない期間が長引くこと自体が国民にとってよくない。今後、新たなワクチンを導入したときに同じような問題が起きないようにするためにも、アメリカなどのように問題が起きる前に副反応のデータを偏りなく集められる仕組みを導入すべきだ」と指摘しています。