借金トラブル対処法(2)弁護士などプロに相談
【行政書士シリーズ】
当記事は現役の行政書士の方に書いて頂きました。
第2部:自力で解決できなかったときの対処法
第1部「個人間の借金トラブル(事例と自己対処編)」では、個人間のお金の貸し借りをめぐるトラブルの事例と、防止法・自力での解決法をご紹介しました。内容証明郵便を活用したり、時効の主張を崩したり、供託をしたりと、いろいろな解決法についてご説明しましたが、自力では限界があるのも事実です。
個人間のお金の貸し借りで当事者同士がとことん争うのは、ケンカに発展する危険があります。ときには暴力沙汰になったり、周囲の人を巻き込んでしまうこともあります。
そのため、第1部「個人間の借金トラブル(事例と自己対処編)」でご紹介した解決法を試してもダメだった場合には、早めに第三者の力を借りることを強くおすすめします。
そこでこの第2部では、専門家や裁判所への相談の仕方など、『自力でトラブルを解決できなかったときの対処法』について詳しくご説明します。
ー 目次 ー
- 相談できる専門家
- 専門家1:弁護士
- 専門家2:司法書士
- 専門家3:行政書士
- 結局誰に相談したらいいの?
- 裁判所を利用する
- 裁判手続きの取り方
- 裁判上の和解がオススメ
- 勝訴判決がでたら?
- 裁判の前に...
- 第2部のまとめ
相談できる専門家
お金の貸し借りを相談できる専門家は、次の3種類です。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。
【専門家】
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
専門家その1:弁護士
お金の貸し借りで困ったとき、頼れる存在としてすぐに思いつくのは『弁護士』ですよね。
やってくれること
弁護士に依頼をすれば、次のことをやってくれます。
- 代理人として交渉
- 代理人として書類作成
- すべての法的手続きの代理
- 法的なアドバイスの提供
弁護士はすべてのことをあなたの代理人として行ってくれます。あなたは丸投げ状態で、解決を待っていればOKです。
メリット
弁護士に依頼すると、次のようなメリットがあります。
- 正しい法的判断をアドバイスしてくれる
- 第三者として冷静に交渉してくれる
- 相手と直接接触する必要がなくなる
- こちらの主張を臆せずに伝えられる
- 威圧感があるので、違法な主張をしてくる相手を黙らせることができる
デメリット
弁護士に依頼するのは、デメリットもあります。
- 費用が高い
- 得手不得手があり、借金問題に強い弁護士を見つけるのに苦労することも
- 相性の合う合わないもある
弁護士費用は、一般的に高額です。弁護士によって報酬規程や実際の金額は違いますが、着手金・成功報酬・相談料などもろもろ合わせて50万円以上かかる場合もあります。そのため、50万円以下の貸し借りでのトラブルを弁護士に相談した場合は、もとがとれないことも珍しくありません。
また弁護士にも得手不得手があり、借金問題に強い弁護士を見つけるのに苦労することもあります。
相性の合う弁護士を探すのも結構大変です。弁護士はあなたの代理人として交渉などに当たってくれる、いわばあなたの分身のような存在です。相性がぴったりでないと、思うような交渉結果に結びつかないこともあります。
専門家その2:司法書士
司法書士は、本来は登記手続きの専門家です。しかし一部の司法書士は、140万円以下の貸し借りなら弁護士と同様に代理人として問題の解決にあたってくれます。
やってくれること
司法書士に依頼をすれば、次のことをやってくれます。
- 140万円以下の場合に限り、代理人として交渉
- 140万円以下の場合に限り、代理人として書類作成
- 簡易裁判所の手続きの代理
- 法的なアドバイスの提供
一般的な司法書士は、お金の貸し借りについての交渉などを代理することはできません。
しかし、法務省の認定を受けた認定司法書士は、140万円以下のお金の貸し借りについて代理交渉などをすることができます。
相談するときは、かならず『認定司法書士』であることを確認してください。
メリット
認定司法書士に依頼すると、次のようなメリットがあります。
- 正しい法的判断をアドバイスしてくれる
- 第三者として冷静に交渉してくれる
- 相手と直接接触する必要がなくなる
- こちらの主張を臆せずに伝えられる
- 違法な主張をしてくる相手を黙らせることができる
- 弁護士よりも費用が安い
- 借金問題に強い司法書士も多いため、いい人を見つけやすい
- 弁護士より威圧感がないので、大事になりにくい
認定司法書士は、弁護士にも劣らない能力があると法務省が認めている専門家です。弁護士と同様に問題を法的に判断し、的確な解決方法やアドバイスを提示してくれます。
デメリット
認定司法書士に依頼するのは、デメリットもあります。
- 認定司法書士を探すのが大変
- 交渉の経験が浅い人も多く、望み通りの結果が得られないこともある
- 遅延損害金などで140万円を超えた場合、認定司法書士では対応できない
- 簡易裁判所以外の訴訟手続きを代理できない
認定司法書士費用は、弁護士よりも安いことが多いです。ただ140万円以下までのトラブルしか依頼できないため、着手金や成功報酬を支払うとほとんど手元に残らないこともあります。
専門家その3:行政書士
行政書士は、書類作成の専門家です。できるだけお金をかけずに自力で問題を解決をしたいが、専門的で効果的な書類を使いたい人などにオススメです。
やってくれること
行政書士に依頼をすれば、次のことをやってくれます。
- 借用書や内容証明郵便などの代行作成
- トラブルに関する法的なアドバイスの提供
- 交渉の場への同席
- 弁護士や司法書士などへの橋渡し
行政書士は書類を作成することはできますが、交渉などを代理することはできません。交渉の場に同席することはできますが、あくまでも中立な立場の第三者としてであって、あなたの代わりに交渉したりあなたの味方をすることができません。
メリット
行政書士に依頼すると、次のようなメリットがあります。
- 費用が安い
- だいたいの行政書士は借金問題の経験があるので、見つけやすい
- 弁護士や司法書士より威圧感がないので、大事になりにくい
弁護士などを挟むと揉め事のイメージが強くなってしまいますが、行政書士であれば、さほど大事にはなりません。
また弁護士や司法書士に比べて費用も安いので、少額のお金の貸し借りでも依頼しやすいです。
デメリット
行政書士に依頼するのは、次のようなデメリットがあります。
- 書類を作ることしかできないので、交渉や裁判の役には立たない
- 結局弁護士などに依頼することになり、費用がかさむこともある
行政書士はどちらかというと、トラブルにならない借用書の作成などの予防法務の方が得意です。トラブルになる前に相談するといいでしょう。
結局誰に相談したらいいの?
3種類の専門家についてご説明しましたが、結局は誰に相談したらいいのでしょうか?
相談する専門家は、次の2項目で決めるのがオススメです。
- 貸し借りしている金額
- やるべき対処法
第1部「個人間の借金トラブル(事例と自己対処編)」でご紹介したトラブル事例を参考に、実際にみていきましょう。
事例1:「お金なんて借りてない!」と借金自体を否定されたケース
この事例は貸し借りしている金額が50万円なので、弁護士に依頼するともとが取れない可能性が高いです。
しかし借用書がなく、相手は借金の存在自体を否定しているわけですから、裁判や交渉の席で相手と話し合う必要があるかもしれません。
そのため、140万円以下の訴訟を代理できる認定司法書士に依頼するのがオススメです。認定司法書士は、「認定司法書士 お住まいの地域」でインターネット検索をすると簡単に見つかります。
事例2:「時効なので借金はチャラだ」と言われたケース
この事例は貸し借りしている金額が60万円ですから、こちらも弁護士に依頼するともとが取れない可能性が高いです。
借用書がある上時効に必要な期間が経過していないので、適切な内容証明郵便を送り続ければ相手は返済に応じざるを得なくなります。
そのため、書類作成のプロである行政書士に依頼するのがオススメです。
事例3:突然貸主に「今すぐ返せ」と言われたケース
この事例は貸し借りしている金額が1000万円ですから、認定司法書士や行政書士では対応できません。弁護士に依頼しましょう。
ただトラブルが長引いた場合には、翌年分の100万円も供託して返済しないといけないかもしれません。供託は司法書士のみが代理できる手続きなので、供託も代理してもらうには、司法書士に別途依頼する必要があります。
事例4:突然貸主に「利子をつけて返せ」と言われたケース
この事例はトラブルになっている金額が10万円の利子なので、弁護士・認定司法書士・行政書士の誰に頼んでももとがとれません。訴訟に訴え出たところで、訴訟費用の方が高くつきます。
そのため、自力での解決をオススメします。内容証明郵便を送って断固拒否するか、謝礼金を支払うか、あきらめて利子を支払って友達をやめるかのどれかを選びましょう。
裁判所を利用する
自力でも専門家の力を借りても解決できないトラブルは、最終的には裁判所の判断を仰ぐことになります。
裁判所にトラブルを訴えると、中立・公正な立場の裁判官が証拠を検証して、トラブルを解決する判決を出してくれます。
裁判手続きの取り方
訴訟手続きについて、簡単にみておきましょう。
お金の貸し借りをめぐる裁判には、大きく分けて次の3種類があります。
- 地方裁判所での裁判
- 簡易裁判所での少額訴訟
- 簡易裁判所での裁判
地方裁判所での裁判
テレビドラマなどでよくみる、通常の裁判です。140万円を超える貸し借りについては、地方裁判所が管轄です。
【裁判の流れ】
- 訴状と証拠書類の提出
- 口頭弁論や証拠調べ・争点整理(必要に応じた回数)
- 判決もしくは和解
訴状などは裁判所の窓口で提出できます。専門書などを読みながら必要書類を作成することはできますが、とても難しく面倒くさいので、地方裁判所での裁判を希望する場合は弁護士に依頼しましょう。
簡易裁判所での裁判
140万円以下の貸し借りについては、簡易裁判所が管轄です。
【裁判の流れ】
- 訴状と証拠書類の提出
- 審理(必要に応じた回数)
- 判決もしくは和解
地方裁判所での裁判よりは簡潔な手続きなので、自分ひとりで行う人も多いです。
簡易裁判所での少額訴訟
60万円以下のお金の支払いを求める場合にのみ、利用できる手続きです。つまり、60万円以下を返して欲しい人だけが利用できるというわけです。
原則1回の審理で判決がもらえ、簡単でスピードの速い裁判です。
【少額訴訟の流れ】
- 訴状と証拠書類の提出
- 審理(原則1回)
- 判決もしくは和解
少額訴訟は手続きも簡単なので、自分ひとりで行う人も多い裁判です。訴状などの書式については、裁判所のホームページからダウンロードできます。
裁判所 貸金請求の書式のダウンロード
裁判上の和解がオススメ
裁判を起こすと、裁判官が和解をすすめてくれます。
裁判上の和解には判決と同じように法的拘束力があるため、裁判外での和解よりも効果的で最終的な解決になります。
裁判官が双方の言い分を聞いた上で妥当なラインでの和解を提案してくれるので、お互いに納得しやすくオススメです。
勝訴判決がでたら?
貸主が裁判で勝訴した場合は、勝訴判決をもとに差押えをすることができます。
差押えとは、相手の財産を強制的にお金に替えて、借金の返済にあてることです。たとえば、まだ100万円を返していない借主が10万円のテレビと90万円の車を持っていれば、この2つをお金に替えて100万円を返してもらえるのです。
借主が裁判で勝訴した場合は、返済や支払いの義務がないことが確定します。たとえば、第1部「個人間の借金トラブル(事例と自己対処編)」の事例4で『絶対利息なんて払わないから!』と訴えて勝訴した場合は、法的に利息を払う義務がないことが確定するのです。
裁判の前に...
貸したお金を返済して欲しいときには、裁判を起こす前に、『支払督促』という手続きを利用することもできます。
『支払督促』とは、裁判所から借主に返済請求書を送ってもらう手続きのことです。支払督促を借主が無視すると差押えなどの強制執行が行われるため、借主からなんらかの反応があることが多いです。
借主が支払督促に異議を申し立てたときには、裁判に移行します。
支払督促の申立書の書式は、裁判所のホームページをご覧ください。
裁判所 支払督促の申立書
第2部のまとめ
いかがでしたか?
個人間のお金の貸し借りでのトラブルを自力で解決できなかったときには、専門家に相談する・裁判所を利用するという対処法があります。
相談できる専門家には、弁護士・司法書士・行政書士の3種類です。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるので、事例ごとに適切な人に相談してくださいね。
裁判所の利用手続きはなんだか難しいイメージがありますが、簡易裁判所での少額訴訟手続きは比較的簡単で、自力でもできます。裁判所のホームページを参考にしながら、ぜひ挑戦してみてください。
更新日:2017/04/10