前代未聞の「トレイル裁判」。被告の吉本亮さんによる寄稿
「三浦半島縦断トレイルラン大会」を主催している「NPO法人 野外体験(自然体験)推進事業団」が昨年12月、吉本亮氏に対して損害賠償請求の訴訟を起こした。
現在、日本のトレイルラン界の課題のひとつは、トレイルレース開催の是非。レースの開催が、貴重な自然環境を破壊したり、他の利用者に迷惑をかけたり、土地所有者の許可を得ずに開催されたり、地元自治体や関係機関の了解を得ずに開催されているとしたら、そのレースは開催されるべきではない、とMtSNは考える。大多数のトレイルレース主催者や関連団体も、同じ考えで一致しているはずだ。
今回の訴訟は、「三浦半島縦断トレイルラン大会は地元の了解を得ずに開催され、環境負荷的にも問題がある」と考えた吉本亮氏が、ある問題提起をしたところ、それが金銭的損害や名誉棄損にあたるとの理由から、レース主催者から訴えられたものだ。
そこでMtSNでは、被告人となった吉本氏に、経緯について詳しい説明をお願いした。以下は吉本氏自身による寄稿である。
吉本 亮(よしもと・まこと)
UTMB、PTL、トルデジアン、ココダチャレンジなど海外のトレイルレースに数多く出場。トレイルランでは、いかに速くではなく、いかに楽しめるのかを追求し、ライフスタイルも定職につかない遊び優先の生活を実践中。
http://tokyobanana.com/index.html
「三浦半島縦断トレイルラン大会」を主催する、NPO法人野外活動(自然活動)推進事業団が昨年末、私を相手取って1000万円超の損害賠償金請求で訴えてきました。それから2か月がたち、ようやく弁護士との契約もできたので、ここで今回の事の経緯をご説明します。
■事の発端は
三浦半島縦断トレイル大会は、コースが首都圏に近いこともあって魅力的なレースです。しかし、地元の理解が得られないまま開催されているようだし、トレイルの脆弱性による環境負荷も高そうです。
「私に何かできることがあるのではないか?」と考えた私は、レースと同日の2016年●月●日にトレイルピクニックを催行すれば、レースに出場する人数が少しは減って、環境負荷が減るし、ピクニックの楽しさも共有できるし、一石二鳥だと思いました。
私が立案したトレイルピクニックのお誘いは、Facebookのあるグループに投稿しました(投稿内容は以下)。現在、このFacobookグループの投稿内容は非公開になっています。
私がSNSを通してトレイルピクニックの提案を行なったことが、今回の損害賠償金1千万超となる訴えを起こされた発端です。

現在非公開のFacebookのグループへの、ピクニックお誘いのスクリーンショットです
そしてレース当日の2016年●月●日。「もし参加者がどっと集まったらどうしよう?」と思いながら相模湖駅に行ってみましたが、けっきょく参加者は一人も来ませんでした。ホッとしたようながっかりしたような気分でした。
そして、その日は一人で陣馬~高尾を走ってきました。三浦半島縦断トレイルラン大会は、第1回の時から物議を醸したレースなので、「今回も無事に終わるのかなあ」などと思いながらの、なんとなくぼんやりランになってしまいました。

主催者は鎌倉霊園への許可申請を行なわなかったようで、このような貼り紙がありました。
●年●月●日、●●●●●●が撮影。
このレースについては石川弘樹氏も、2016年に開催されたトレイルラン二ングフォーラムで以下のように話していました。
「元々は、鎌倉や三浦半島のトレイルランでいろいろと問題になっている、NPO法人野外活動・自然体験・推進事業団の片山成允氏と日本トレイルランニング会議の杉本氏が始めたものです。三浦半島ではレースをすべきではないと進言したが、結局は開催されてしまった。もっと強くアドバイスしておくべきだったと後悔している」。
では、石川弘樹氏はその後さらにNPO法人野外活動(自然体験)推進事業団に進言したのだろうか、と思いますが、相変わらず進展は見られないままです。また、2014年には鎌倉市長からコースを再考するよう書類が送られたらしいです。

2016年のトレイルランニングフォーラムでの石川弘樹氏の発言より
http://blog.livedoor.jp/sirapyon/archives/52144530.html
■裁判は突然に
東京地方裁判所から職場に封書が届いたのは2016年12月17日でした。訴えの内容は以下のようなものでしたが、最初は何を言いたいのかわかりませんでした。
その概要は以下のとおりです。
「吉本 亮氏の発言により、三浦半島縦断トレイル大会の参加者が激減した分の参加費、また、数カ月後に開催の奥多摩トレイルラン大会の参加者はゼロになってしまったので、NPO法人野外活動(自然体験)推進事業団に入るはずだった、奥多摩トレイルランの参加者の人数×参加費などを全て含め、1千数百万円を支払うこと。さらに、謝罪文(以下)を1年間、ブログのトップページに貼り、掲示するように」とのことでした。
原告側が用意した、私が書いたことになる予定の謝罪文
実際には、私の発言はレース前に発されたこととはいえ、三浦半島縦断トレイル大会出場者の参加費は入金された後であったため、私の発言によって金銭的な実害が出たとは思えません。また、奥多摩トレイルラン大会に関する訴えに関しては、私とは全く関係のないことです。
とはいえ、ここで私が黙って逃げていたら、裁判は1回で終了して、賠償金を全額払わなければならなくなってしまうので、前に進むしかありません。
しかし裁判費用は、損害賠償金が1千万円を超えていることもあり、着手金だけで約30万円かかります。いつもカツカツの私はこの裁判費用を払うことができません。
■「カンパ作戦」に出た経緯
裁判のことを相談した仲間の一人から「カンパで戦うのはどうですか?」という話が出ました。確かにこの裁判は、これまでくすぶっていた問題をあぶり出すことになり、トレイルランニング業界の試金石になるはずだと思いました。「公益にもなるから、みんなの応援&カンパを燃料に戦おう!」というのが、今回の「カンパ作戦」にいたった経緯です。
裁判の戦略・戦術については、いろいろと支障があるのでここではまだご説明ができませんが、判決が出た後に、今回の経験で得たことを徐々に書いていこうと思います。カンパもありがたいですが、この裁判がトレイルランニング界を正す議論の発端になれば幸いです。
■【裁判費用のカンパのお願い】
http://mountain-ma.com/banana/2017/02/20/%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%AB%E8%A3%81%E5%88%A4/
吉本氏による寄稿は以上のとおり。
MtSNでは引き続き原告側にも取材して、双方の主張をお伝えする予定だ。