2017年度灘中入試算数二日目大問2番
そろそろネット上に色々な解説が出始めました。いつもは、眺めながら「分かってないな~」なんて悪いこと考えてるんですが(笑)、今年は出血大サービスで解説を公開していきます。
業界全体のレベルを上げていくためには、パクらせてあげることも大切なことなのかなと、最近は思うようになってきました。
さて、ではまずは問題を見てみましょう。
登場人物は
走って歩いてジョギングする太郎君
ジョギングして走って歩く次郎君
の2人です。
この問題、平均速度を使って解く、という解説をとあるブログで見かけましたが、そのようなテクニックは特に必要ありません。灘を目指す生徒に私も必ず演習させるようにしている2004年の甲陽一日目の問題で、平均速度を使うことでエレガントに解ける問題がありましたが、あれはA君の平均速度とB君の平均速度が一致するように数値設定されているからエレガントなのです。今回は太郎と次郎で平均速度は一致しません。
ですから、今回の問題で「平均速度を使う」というのは、すごいテクニックを使っている感はありますが、最適解というわけではないでしょう。(しかし随分まともな解説だと思います。算数の十分な経験が無いと辿り着けない考え方です。)
素材の良い野菜に特別な岩塩を振るよりも、むしろ普通のお塩を少量振るだけで素材自身から旨味が湧き出てくる…みたいなことが言いたいのですが…分かりづらい例えでしょうか?(笑)
さて、では本題に参りましょう。この問題、どういう発想をするのかというと
“三郎くんを登場させる”のです。
この問題文の中には、当然三郎君は登場していません。
太郎君と次郎君のみなんですが、あえて三郎君を脇役として参加させることで、この問題を非常に分かりやすく捉えることができるのです。
もう一度整理しますと、
太郎君は、走って歩いてジョギングする
次郎君は、ジョギングして走って歩く
です。
そして、名脇役の三郎君には、走ってジョギングして歩く、を、やってもらいます。
図で表すと、以下のようになります。比較しやすいように、三郎君を真ん中に書きます。
走る、ジョギングする、歩くの順序が3人違うだけで、3人とも同じ時間ずつ進んでいますから、スタートとゴールの時間は一致します。
そして、三郎を登場させることでなんと、●から☆、☆から■までの時間に着目するだけでこの問題は簡単に解決するのです。
●から☆は、太郎と三郎の動きを比較
☆から■は、三郎と次郎の動きを比較
ともに、速さの比が1:2ですから、(●~☆):(☆~■)の時間の比が②:①と分かります。
あとは三郎について、簡単な式を作るだけです。
240×(3分-②)+120×③+60×(4.5分-①)=855
これを解くと、①=3/4
PS間の距離は、240×(3分-②)+60×②=450(m) と求めることができます。
この問題についてもたくさん別解はありますが、このような「三郎を登場させる」という“発想”が無ければ、計算が大変だった(3元連立1次方程式になったり?)と思います。
今回、線分図(状況図)で整理をして「三郎を登場させる」という発想を使いましたが、ダイヤグラムで整理すると、そのような発想を必要とすることなく図形的な性質から、全く同じ式で解くこともできます。
よく、速さの問題の解法に関して「線分図か?ダイヤグラムか?」という論争があるのですが、それは非常に不毛な議論であるといえます。どちらが良いという問題では無いし(どちらも大事だし)、個人の好みの問題でもあったりします。
「線分図はダメでダイヤグラムが大事」というのも、「ダイヤグラムはダメで線分図が大事」というのも、どちらも間違っているのです。一番の理想は「両者を状況に応じて使い分けること」、「両者の特徴を理解して、自分に合った整理法を選択すること」なのです。
ダイヤグラムは「発想力という賢さが無くても、単純な幾何的処理でエレガントな解法に辿り着ける確率が高い」という特徴がありますので、私はどちらかと言えばダイヤグラムで全ての速さの問題に慣れることを生徒達にも推奨していますが、押し付けるようなことはしていません。
灘の算数は、付け焼刃ではない賢さを持っている人がちゃんと解けるように問題が設計されていて、本当に素晴らしいと思います。
昭和の過去問をやっても意味ありませんし、大手で与えられる課題をただこなすだけでは対応できません。
灘の算数で問われている力をいかにして学ぶか、灘を目指す人はよく考えるべきでしょう。。
■■算数ソムリエ■■