ソ連(現ロシア)の写真家エフゲニー・ハルデイは、第二次大戦の1418日間、決してカメラを手放す
ことはなく、痛ましい瞬間を写真におさめ続けた。
13歳の時、ダンボール箱と古いメガネのレンズでカメラを作り、写真家としての人生をスタートさせた。
ハルディは第二次世界大戦中に「ライヒスタークの赤旗」など、ロシア側からみた、歴史に名をのこす数々の写真を撮影した。
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1918年、ウクライナでのユダヤ人大虐殺で、母親と祖父を殺されたハルデイは、地元の工場で働き始めた。だが写真への興味は尽きることなく、お金を貯めライカのカメラを購入した。撮影した写真を出版社に送り続け、ついにその写真が初めて地元の新聞に載った。
そのネガの何枚かモスクワに送られた。そしてついに、1930年代初期、彼の写真は有名な『イズベスチア』紙で日の目を見ることになった。その後、タス通信の写真スタッフとしてのキャリアをつんだ。
ハルデイの作品にはふたつの大きな力がはたらいている。深い哀れみと恐怖だ。ハルデイは戦場でも決して妥協しない写真を撮り続けた歴史の記録者だった。
1941年晩秋から1942年春半ばまで続いたモスクワの戦いで、戦況がピークの中、ハルデイはシャッターを押し続けた。この戦いで、ナチスドイツは初めて大敗し、歴史的なスターリングラードの戦いは、第二次大戦の転機となった。
1942年8月から1943年2月の血みどろの死闘で、独ソ合わせて200万人近い人々の命が奪われた。ハルデイは激しい戦闘の真っ只中をソ連軍と行動を共にして、ルーマニア、ブルガリア、ユーゴスラビア、オーストリア、ハンガリー、そしてドイツの解放に関わった。
1945年、第3ウクライナ前線から始まったソ連によるウィーン攻勢のとき、ひとりのファシストが公園で家族全員を殺して自殺をはかった。部下と共に現場を検証するソ連の将軍ドミトリー・シェピーロフ。
ロシアのロストフ・ナ・ドヌで、ハト小屋に隠れているところをドイツ兵に見つかって殺された、まだ十代だったヴィチャ・チェレヴィクキン。ナチスは1941年の退却前に、密かに伝令として使われる恐れがあるため、すべてのハトを処分するよう命じた。
チェレヴィクキンは自分のハトを守るために隠していたが、1週間で捕まり、尋問されて、ロシア軍と共謀しているとして銃殺された。
ハルデイが撮影した、ドイツでナンバー2の権力を持っていた男、ヘルマン・ゲーリングのニュルンベルグ裁判での写真。
1933年にゲシュタポを組織し、ドイツ保安警察長官ラインハルト・ハイドリヒに、"ユダヤ人問題の最終的解決"をまとめるよう命令を下した。元ドイツ空軍総司令官、ドイツ経済四ヵ年計画の全権責任者でもあった。ニュルンベルグ裁判で戦争犯罪と人道に対する罪で有罪となった。
オーストリアの首都ウィーンは、第二次大戦で52回爆撃され、壊滅的な被害を受けた。
1943年2月から3月にかけて行われた、ナチスによるロストフ・ナ・ドヌ市民の虐殺。ハルデイは遺体の写真を撮りながら、怒りと絶望の感情を抑えることができなかった。しかし、この写真がなかったら、戦争でこんな残虐行為が行われたことを誰も信じなかっただろう。
1942年9月、束の間の静寂を楽しむ第46"タマン"親衛夜間爆撃航空連隊の女性戦闘機パイロットたち。
17歳から26歳までの大胆不敵なこの女性たちのことを、ナチスは「夜の魔女たち」と呼んで怖れた。4年以上にわたって、彼女たちは2万4000回以上飛び、2万3000個の爆弾を落として、敵の主要なインフラ施設を数多く破壊した。
ハルデイはユダヤ人たちの絶望的な状況をカメラにおさめた。1945年、ブタペストのゲットーから解放されたこのユダヤ人たちの胸には、黄色いダビデの星がつけられている。
ハルデイは世界のリーダーたちの写真も撮っている。1945年の歴史的なポツダム会談のときの、ヨシフ・スターリン、ウィンストン・チャーチル、ハリー・S・トルーマン。一方で、戦争中でもゆったりした日常生活を送る市井の人々の珍しい写真もある。
ハルデイの傑作「ライヒスタークの赤旗」は、ソ連がナチスドイツに勝利した象徴的な写真と考えられている。
1945年4月30日、ソ連兵たちはベルリンのライヒスターク(ドイツ国会議事堂)でハンマーと鎌の旗(ソ連の国旗)を高々と掲げた。しかし、実際にはこの有名な写真は数日後に撮影されたもの。ハルデイがベルリンに近づいたとき、すでに戦闘は終わっていていて、ライヒスタークには多くの旗がはためいていた。
それでも、歴史的な瞬間を撮影しなくてはならなかったため、彼はひとりのソ連兵にライヒスタークの屋根の上に登って、もう一度国旗を揚げてポーズをとるよう頼んだ。
実際にはこのように演出されたものだったにも関わらず、この写真は歴史書に載るほど有名になった。
via:1,418 days of WWII viewed through lens of legendary Soviet photographerなど/ translated konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
勝者側の写真しか歴史に残らないのが残念なところ
ソ連軍が行った無数の虐殺を知らない人は多いからね
2.
3. 匿名処理班
閲覧注意ってあるけど、これが現実だ。
4. 匿名処理班
同じ枢軸国でありはするが戦争犯罪においてナチスドイツと日本を同一視するのはちょっと違うよな。それに戦勝国と言われる連合国側の戦争犯罪や戦後のウィーン条約違反は未だに裁かれてないし(これからも公に検証すらされないだろうけど)。平和ボケお花畑的な考えだけど、此方が望むも相手が望むも戦争なんてするもんじゃないよね。
5. 匿名処理班
ハルデイもカラパイアもロシアのプロパガンダ
6. 匿名処理班
二次大戦で最大の戦死者を出したのはロシアじゃなかったかな。
この写真も凄惨な現場のほんの一部でしかないというのが現実。
現代戦ではなかなかないのかもしれない、というか表面に現れにくくなっているだろうけど世界大戦前の陸戦というのは数で押す文字通り前時代的な戦法で戦死者数が半端無かった。
一次大戦の塹壕戦なんか想像を絶する。
閲覧注意かもしれないけどこういう歴史は何らかの形で知っておくことが大切だと思う。
7. 匿名処理班
1コメさんも言ってるがソ連もドイツと同等以上に悪辣なことをしてるんだよなぁ
が虐殺や略奪は当然として、ベルリン以東でどんだけのハーフが生まれたことやら
やはり歴史は勝者によって作られ、敗者は涙を飲むしかないのな
8.
9.
10. 匿名処理班
ベルリンは爆撃される前には完全包囲されていたからね、一日も掛かってない。
因みに祖父は樺太で商売をして居たようなのだが、と言うことは引き上げも大変だったろうと思う、トラウマかも知れないが詳しく聞いておけば良かったと思うよ。
それが現実だと。
11. 匿名処理班
※1
カティンの森の虐殺なんかが有名ですよね。
ナチスの責任にしようとしたけど、現在ではソビエトによる虐殺と言うのが判明していますね。
12. 匿名処理班
※1
勝った者が歴史を書いてくから仕方ないっちゃ仕方ないかもな
日本の教科書にだって戦勝国側の都合の良い歴史はいくらでも書いてある
13. 匿名処理班
ソ連は第二次世界大戦で1000万人の死者数が出た。それらの人々の死を写真に写し取っていたならどんな光景になっていたのだろうか
14. 匿名処理班
感傷的かもしれんが、少年の運命が悲しい
苛烈な時代に生まれてしまった悲劇と言えばそれまでだけど
まさか裏切り者として処刑されるなんて、子供には想像できなかったのかも
気づいていて鳩を庇ったのかもしれない、平時に生を受けていればと切ないよ
15. 匿名処理班
どれもつらくて悲しいけど、はとを助けようとした少年の話が...
戦争のときに、動物をむやみに犠牲にする話はつらすぎます。
16. 匿名処理班
アメリカも女性パイロットが機材輸送には関わってたけど、戦闘に出したのはソ連くらい?
音が似てるからミシンと呼ばれた複葉練習機で、夜に爆弾落として敵兵を眠らせなかったそうだ。
「今夜は眠らせないわよ♡」
と言ってみれば敵兵も喜んだかもしれないが、爆弾落とすとなれば女も怖い。
17.
18. 匿名処理班
どこも地獄だわなあの時代わ
19. 匿名処理班
ソビエトがウクライナで行った大虐殺について知りたいお友達は、ドキュメンタリー映画「ロシアのキツツキ」を観てね!
20. 匿名処理班
カティンの森
21.