国鉄の分割民営化でJR7社が発足し、30年がたった。

 直近の15年度連結決算で7社の経常黒字は計1・1兆円。1兆円台の赤字を出し続けてきた国鉄末期がうそのようだ。東日本、西日本、東海の本州3社に続き、九州が昨秋、株式を上場し、完全民営化した。

 37兆円あった国鉄関連債務の6割強は国が肩代わりした。JRに採用されずに職場を去った国鉄職員も多い。厳しい痛みを伴う改革だった。

 総じて言えば当初の期待を上回る成果が出たと評価できても、各社間の格差は著しい。黒字の大半は本州3社が稼ぎ、北海道、四国、九州と貨物はごくわずかだ。最も経営が厳しい北海道は昨秋、全路線の半分は自力で維持できないと表明した。

 30年を機に改革の光と影をしっかり見据えたい。影の部分には対処策を講じる必要がある。

 分割民営化の最大の狙いは、経営の自主性の確立だった。

 JR各社の経営陣は、旧国鉄を悩ませた政治や労組の干渉を排し、組織の効率化に取り組んだ。いま、7社の社員は合わせて約13万人で、80年代の国鉄の3分の1以下だ。

 各社は鉄道設備の刷新にも巨費を投じた。事故件数はJR発足前の3分の1に減っている。

 だが、05年には107人が死亡する宝塚線脱線事故が、西日本の管内で起きた。北海道でも11年以降、深刻な事故やトラブルが続いた。収益増を目指すあまり、効率化の弊害を見落としたのでは、と指摘された。

 鉄道の安全維持には一定の人手と投資が欠かせないが、収益を重視すると削られやすい。「安全最優先」がかけ声倒れになっていないか。各社はつねに厳しく自己検証すべきだ。

 都市部での稼ぎで地方路線の赤字を埋める発足以来の経営モデルも、人口減で厳しさを増す。北海道だけでなく、各地で路線の存廃が問題化している。

 赤字路線の維持には、地元の費用負担が避けられない。そうまでして鉄道は必要か。国や自治体、住民とで社会的な議論を深めるべき時期が来ている。

 JRも自社のことばかりでなく、国全体の交通体系をもっと考える視点がほしい。東京―大阪間で東海はリニア中央新幹線の建設に踏み切り、西日本は北陸新幹線の延伸を目指す。東海道新幹線を含め、3路線も必要なのかとの疑問は置き去りだ。

 JR7社は発足時、「鉄道を再生する」と国民に誓った。その道に終わりはない。「国民のために」という原点を忘れず、挑戦を続けてもらいたい。