- 原発事故子ども・被災者支援法に則った指摘
- 「原発を推進してきた国に、自主避難者も含め被災者救済の責任がある」はどこを指すのかを探してみた
- では、これを以て今村復興大臣に自身の職務内容について正しい認識もなく、その責任を放棄していると断じて良いか?
- 都合が良い部分だけを抜き出して、結論に紐づけるのは問題では?
- 個人的な所感
こんにちは!DAC(id:dacs)です。
前回エントリ「今村復興大臣の立ち位置を無視して報道するマスコミの不可思議 - ぐだぐだわーくす」に引き続き今村復興大臣関連の話です。この手の話は正直苦手なのですが、気になるものは気になるのでお付き合いください。
原発事故子ども・被災者支援法に則った指摘
筆者である志葉玲氏が、環境NGO「FoE Japan」の満田夏花氏にヒアリングした内容として以下の内容を挙げています。
”激昂”今村復興相の「出ていけ」「うるさい」より重大な問題発言(志葉玲) - 個人 - Yahoo!ニュースより引用:
「今村復興相は、自主避難を続ける人々について自己責任だと切り捨てましたが、原発事故子ども・被災者支援法では、原発を推進してきた国に、自主避難者も含め被災者救済の責任がある、とはっきり書かれています。被災者支援のキーとなる法律に反する発言をしたという点で、今村復興相は厳しく追及されるべきだと思います」。
この原発事故子ども・被災者支援法と3月17日の前橋地裁判決に基づき、志葉玲氏は今村復興大臣は自身の職務内容について正しい認識もなく、その責任を放棄するならば、その役職も辞するべきであろう
と結論付けています。
「原発を推進してきた国に、自主避難者も含め被災者救済の責任がある」はどこを指すのかを探してみた
ざっと目を通してみた限り、そのままの表現はありません。但し、個々にこれが相当すると思しき個所があります。
- 国の責務については「子ども・被災者支援法(条文)」の中に規定されています。
- 自主避難者に対する支援については「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」に記述があります。
国の責務とは
国の責務を規定しているのは第三条です。
責務として規定されているのは、「被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務」です。さて、被災者生活支援等施策とは何でしょうか?
(国の責務)
第三条 国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任並びにこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
自主避難者に対する支援とは
正確を期すると条文の中には自主避難者を指定しての記述は存在しません。存在するのは、この法律が支援対象地域(福島県中通り、浜通りといった避難指示区域以外で且つ一定の線量以上の地域)の規定があるのみです。
しかし、これでは支援が届かない被災者もいるため、自主避難者を含めた支援について「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」において明記されました。
なるほど、自主的に避難した方についてもここで支援の対象として追加されていますね。
また、本基本方針においては、法第8条に規定された「支援対象地域」にとどまらず、「支援対象地域」に準じる地域を施策ごとに定め、真に支援が必要な被災者に対し、きめ細かく支援を行うこととした。これらの被災者支援施策は、被災者が、自らの意思によって福島県等において避難せずに居住を続ける場合、他の地域へ移動して生活する場合、移動前の地域へ再び居住する場合のいずれを選択した場合であっても適切に支援するものであるとともに、外部被ばく及び内部被ばくに伴う健康不安の早期解消に最大限の努力をするなど、法第2条の基本理念を踏まえて、実施するものである。
では、これを以て今村復興大臣に自身の職務内容について正しい認識もなく、その責任を放棄していると断じて良いか?
答えはNOです。
職務内容に正しい認識が無い、責任放棄をしていると断じるに足る論証がなされていません。(恐らく避難者の状況を正しく全て理解しているとも思えませんが、それは措きます)
応急仮設住宅の供与期間は平成29年3月末まで(被災者生活支援等施策の推進に関する基本的方針に記述あり)
被災者生活支援等施策の推進に関する基本的方針(本文)[平成25年10月11日]は、実は古い方針で改訂がなされています。
改訂部分を紹介します。
01 被災者生活支援等施策に関する基本的な事項
被災者にとって特に大きな生活上の負担となった「住宅の確保」について、そのーつとしての災害救助法(昭和22年法律第118号)に基づく応急仮設 住宅の提共は、住家を一時的に失った被災者への仮住まいの現物支給であり、 その提供期限は原則2年とされている。東日本大震災で設置したものについては、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成S年法律第85号1に基づき、1年を超えない期間ごとに延長を行うことが可能となっており、福島県においては、避難者がいない5町村を除き、平成28年3月までの延長を行ってきた。福島県においては、避難指示区域以外からの避難者に対する応急仮設住宅の供与期間を1年延長した上で、平成29年3月末までとした。このことは、Ⅱのとおり、空間放射線量が大幅に低減していること等とも整合的である。 政府としては、新たな生活への円滑な移行のための相談支援をはじめとして、 被災者がいずれの地域においても安心して生活を営むことができるよう、適切に対応していく。
福島県においては災害救助法に規定される内容に加え、避難指示区域以外からの避難者に対する応急仮設住宅の供与期間を延伸してきました。その背景として空間放射線量の大幅低減から妥当との判断を基本的方針の中で改訂記述しています。
その状況から判断して、「避難指示区域以外からの避難者に対する応急仮設住宅の供与期間を1年延長した上で、平成29年3月末まで」とするのは整合していると基本方針として結論付けられています。
4月4日の記者会見も質疑の肝は、仮設住宅の供与期間打ち切りの話で保証全般や事故の責任の話ではない
翻って、懸案としている今村復興大臣の4月4日の記者会見を見てみます。取り上げられがちな部分を引用します。
- (問)福島県、福島県とおっしゃいますけれども、ただ、福島県に打切りの、これは仮設住宅も含めてですけれども、打切りを求めても、この間各地の借り上げ住宅とか回って、やっぱりその退去して福島に戻ってくるようにということが福島県の、やはり住宅設備を中心に動いていたと思うんですが、やはりさっきも言いましたように、福島県外、関東各地からも避難している方もいらっしゃるので、やはり国が率先して責任をとるという対応がなければ、福島県に押し付けるのは絶対に無理だと思うんですけれども、本当にこれから母子家庭なんかで路頭に迷うような家族が出てくると思うんですが、それに対してはどのように責任をとるおつもりでしょうか。
- (答)いや、これは国がどうだこうだというよりも、基本的にはやはり御本人が判断をされることなんですよ。それについて、こういった期間についてのいろいろな条件付で環境づくりをしっかりやっていきましょうということで、そういった住宅の問題も含めて、やっぱり身近にいる福島県民の一番親元である福島県が中心になって寄り添ってやる方がいいだろうと。国の役人がね、そのよく福島県の事情も、その人たちの事情も分からない人たちが、国の役人がやったってしようがないでしょう。あるいは、ほかの自治体の人らが。だから、それは飽くまでやっぱり一番の肝心の福島県にやっていっていただくということが一番いいというふうに思っています。それをしっかり国としてもサポートするということで、この図式は当分これでいきたいというふうに思っています。
- (問)それは大臣御自身が福島県の内実とか、なぜ帰れないのかという実情を、大臣自身が御存じないからじゃないでしょうか。それを人のせいにするのは、僕はそれは……。
強調した部分について国が、帰らないのは被災者のしている、或いは福島県に押し付けていると記者の方非難するまでの下りです。「とんでもないことだ!」と怒る前に少し落ち着いてください。
まず、理解しなければいけないのは、この会話は仮設住宅の打ち切りに関することが質疑の肝でした。
自主避難者も含め被災者救済の責任の有無という大括りな話はしていません。あくまで被災者救済の一環として、仮設住宅の提供を打ち切る話に限定されています。
そうであるのに拡大して、大臣は被災者救済の責任は国には無いと言ったと断じるのはミスリードです。そんなことはこの会見では全く語られていませんし、質疑の主題でもありませんでした。(件の記者の方は意図的に混同させるような話の振り方をしきりにされていますが…)
ご指摘の片翼である前橋地裁の判決は確かに原発事故に対し国には以下の責任があるとされました。
国は、結果回避のための措置を講じるよう、命令する規制権限があったと認定。それを行使しなかったのは、「著しく合理性を欠き、国賠法1条1項の適用上違法」とした。
双方不服で上告しているため国はまだ判決をよしと受け入れていませんけれど、一定の裏付けにはなるでしょう。
しかし、繰り返しますがそんな大鉈を振るわれても、扱っていた内容はもっと詳細の個別部分である住宅の提供打ち切りの話であって、全く話が噛み合っていません。
福島県に支援を引き継ぐという大臣の受け答えには裏付けがある(被災者生活支援等施策の推進に関する基本的方針(概要)に記述あり)
先に書いた通り、被災者生活支援等施策に関する基本的な事項には、「福島県においては、避難指示区域以外からの避難者に対する応急仮設住宅の供与期間を1年延長した上で、平成29年3月末までとした」とあります。このことは「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的方針(概要)」の住宅支援項目にも記載があります。
更にその記載の横の参考にご注目下さい。
避難区域外からの避難者に対する仮設住宅供与終了後の支援策については、福島県が「帰還・生活再建に向けた総合的な支援策」に基づき、住宅の確保も含め、帰還や生活再建に向けた支援を実施
記者の方は大臣に対して「国が責任を福島県に転嫁している。無責任だ。」と主張されていました。
しかし、そもそも基本方針として「応急仮設住宅の供与期間は平成29年3月末まで」と平成25年10月11日に決めてあり、その提供が終わった後は所定の支援策を福島県が実行することは少なくとも2016年6月17日には決まっていたことです。
そのことを指して、大臣は、「それについて、こういった期間についてのいろいろな条件付で環境づくりをしっかりやっていきましょうということで、そういった住宅の問題も含めて、やっぱり身近にいる福島県民の一番親元である福島県が中心になって寄り添ってやる方がいいだろうと。」と言っている筈です。
志葉玲氏や満田夏花氏は国の手広い補償は子ども・被災者支援法に保障されていると主張されていますが、その子ども・被災者支援法は状況の変化に合わせて変わってきています。
そして、この決して昨日今日決まったわけではない方針の変化を、記者会見という限られた通知の場でひっくり返すような質問をしても、大臣も答えようがないと思うのです。もしも大臣がその場で気が変わって「ああ、すみません。過去に出した改訂は間違えでした。」などと軽々に口にするとすれば、それこそ法を軽んじることになるし、大臣の資質に欠けると見做されることでしょう。
都合が良い部分だけを抜き出して、結論に紐づけるのは問題では?
志葉玲氏のエントリは、法を根拠として大臣の資質を問うという結論で締め行い、タイトルにも重大な問題(恐らく大臣に原発事故子ども・被災者支援法と3月17日の前橋地裁判決に基づく責任認識が無いと志波氏が判断したことを指す)と書かれています。
”激昂”今村復興相の「出ていけ」「うるさい」より重大な問題発言(志葉玲) - 個人 - Yahoo!ニュースより引用:
原発事故子ども・被災者支援法や、先月17日に原発避難者訴訟で前橋地裁が下した判決文でも明記されていることだ。自身で「公式の場」と言う記者会見で、臆面もなく事実と異なる発言をし、それを追及されると、逆上して怒鳴り散らす。ネット上では、今村復興相の辞任を求める署名も始まっているが、自身の職務内容について正しい認識もなく、その責任を放棄するならば、その役職も辞するべきであろう。
上記したように大臣の発言の裏付けとなるものも、ご指摘の「原発事故子ども・被災者支援法」です。また、そもそも記者会見では原発事故全般の国の責任の有無は扱っていませんでした。扱っていたのは、仮設住宅の提供打ち切り後の自主避難者の方を国ではなく福島県が主体となって支援を実施するということです。
原発事故全般の国の責任の有無を扱っていると問題視されていましたが、実際には記者会見の主題とはなっていない拡大解釈を問題として挙げられています。また、大臣の無知をあげつらうのに法に反すると書かれていましたが、調べてみれば基本方針には明確に書かれていることでした。
これでは、関連の内容を精査された上での結論ではなく、都合が良い部分だけを抜き出して、ご自身が主張したい結論に紐づけているように見えます。
個人的な所感
ここまで書いてきて意外かもしれませんが、自分は別に大臣や国の方針に肩入れをするつもりは毛頭ありません。法文に書いてあるから、現状の避難者の方の過酷な状況を無視して紋切り型で対応するなど言語道断だと思っています。
しかし、それはそれ、これはこれです。
表題に書いた通り、この前提でこの結論に持っていくのは、件の記者の方ではありませんが、「僕はそれは……」と思い、調べた内容を纏めた次第です。