あまりに乱暴で無責任な武力の行使である。シリア問題の解決ではなく、事態のいっそうの悪化を招きかねない。

 米国がシリアのアサド政権軍の基地をミサイルで攻撃した。内戦開始以来、米軍が政権を直接攻撃したのは初めてだ。

 トランプ米大統領は、アサド政権軍が化学兵器を使ったと断定し、シリアの虐殺を止めるための措置だとした。

 しかし、化学兵器をめぐる事実関係ははっきりしていない。国際的な調査を尽くさず、証拠も示さないまま軍事行動に走るのは危険な独断行為だ。

 トランプ氏は、各国が米国の行動に加わるよう求めたが、シリアに必要なのは戦闘の拡大ではない。米国はむしろ停戦の徹底を図り、2月に再開したアサド政権と反体制派の和平協議が結実するよう、ロシアとともに本腰を入れねばならない。

 一方、化学兵器の問題については、国連を主体に早急に調査を始めるべきだ。

 現場は、シリア北西部の反体制派の支配地域。子どもを含む100人以上が死亡した。断じて許せない戦争犯罪である。

 アサド政権は、4年前に猛毒サリンを使った疑惑が発覚し、その後、ロシアの説得で化学兵器の廃棄を表明した。だが、国連はその後も政権軍による使用を確認している。

 今回も否定するなら、アサド政権は国際調査に全面協力しなくてはならない。ロシアも反対する理由はないはずだ。

 内戦が始まって6年。国連が主導する和平協議の再開は10カ月ぶりだが、今回の米国の行動で早くも先行きが懸念される。

 トランプ氏はこれまで、過激派組織「イスラム国(IS)」の掃討を最優先するとして、ロシアとの協調も視野に入れ、必ずしもアサド政権を敵視しない姿勢だった。それはオバマ前政権時からの転換だったが、今回突如、態度を一変させた。

 米国の対外姿勢に一貫性がなく、国際社会に十分な説明もないまま武力を使うようでは、中東にとどまらず、各地域で安全保障の秩序維持に深刻な不安を覚えざるをえない。

 安倍首相は、東アジアでも大量破壊兵器の脅威が増していることを指摘し、秩序の維持と同盟国や世界の安全に対する「大統領の強いコミットメントを高く評価する」と述べた。

 だが、トランプ氏と緊密な関係にあると自負する首相がすべきは、平板な支持表明ではあるまい。米国が国際社会と協調して問題解決にあたる大切さを、新大統領に説くことである。