記事が原因で夫婦げんか…最後は互いののろけ話に 京唄子さん悼む
元漫才師で女優の京唄子(きょう・うたこ、本名・鵜島ウタ子)さんが6日午前10時33分、肺炎のため大阪市内の病院で死去した。89歳。鳳啓助さん(1994年没)との夫婦漫才では大きな口から繰り出すツッコミで人気になり、女優としてもTBS系「渡る世間は鬼ばかり」などドラマや舞台で活躍した。
大阪・道頓堀に木造建築の芝居小屋「中座」があったころ。20年以上前。ある晩、中座の宣伝から「あんたが書いた記事で、京さん夫婦がいまえらいことになってる。すぐ来てくれるか!」と、すごいけんまくで電話が掛かってきた。
数日前の座長公演の会見記事を指していた。スペースの都合で記事は大幅に削られ、極小サイズに。京さんのコメントで夫(最後の伴侶・萩清二氏)に対し、少し乱暴な言い回しに聞こえる箇所があった。
楽屋に着くと2人は別々に待機していた。恐る恐る京さんの部屋へ。「どういうこと?私はこんなこと言うてへん。清ちゃん(確か夫の下の名前を言ったと思う)のところにいって説明して謝ってきて」と怒られた。
記者になって数年目。今なら良くも悪くも、もっと柔軟に対応できるだろうが「ウソでないので謝れません」の一点張り。5分、10分、やり取りが続いた。京さんの目に涙がたまっていた。懇願に近く、参った。
謝罪はともかく、根負けして萩さんのもとへ。会見での京さんの様子や、一見乱暴なコメントは、すべて愛情や照れくささの裏返しだと受け取れたことを説明した。双方の部屋を行き来し、1時間ほど過ぎただろうか。
萩さんは、殺陣の達人で京さんを芝居でも長年支えた。何とか、こちらの意図も理解した様子だった。そして高齢の妻が座長を続ける大変さ、孤高の中で重い責任を背負って生きていることを聞かせてくれた。京さんは、夫がどれほど精神的な支柱になっているか、自分にとってかけがえのない存在かを語り始めた。
夫婦げんかは、いつの間にか、互いののろけ話に変わっていた。男運に見放された印象の京さんだが、最愛の人がいて幸福なのだと分かった。記者にいまだに忘れられない思い出まで残してくれて感謝しています。
訃報・おくやみ