昨年12月、北陸新幹線敦賀以西が福井県民の悲願だった小浜・京都ルートに決まり、西川一誠知事は年末会見で胸を張った。「福井県の将来の発展に向け、次のステップに踏み出せた」
今年3月には京都から新大阪までのルートも決まり、建設促進運動は順風満帆のようにみえる。だがルートが固まっても、2兆1千億円と試算される肝心の整備財源は未決定。2031年春の北海道新幹線札幌開業より早い新大阪までの延伸実現は、関西政財界との政治力結集が鍵を握るが、京都、大阪府との連携は手探りの状態だ。
「関西と一丸となって方向付けをしたい」。3月の県議会予算決算特別委員会で西川知事は、京都、大阪両府とのスクラムを強化する考えを強調した。ただ県議会北陸新幹線整備促進議員連盟会長の山本文雄議員は「福井県は関西への働き掛けをこれまで何もしてこなかった」と指摘。しかも「大阪などはリニア中央新幹線に一生懸命」と福井商工会議所の川田達男会頭が語るように、北陸新幹線延伸にどれだけ注力するかは不透明だ。
県は、沿線自治体でつくる建設促進同盟会に京都、大阪両府知事の参加を求めて結束を強めるという。西本正俊県議(県会自民党)は「関西と福井県で敦賀以西だけの同盟会を設けることも考えられるが、県はあまり乗り気ではない」と残念がる。中堅県議の一人も「県境を越えた経済振興に新幹線をどう活用するのかを話し合うなど、関西と連携を深める方策はあるのに、県は動かない」と話す。具体的な連携策を示せるかどうか、西川知事の政治手腕が問われる。
一方、23年春の敦賀開業後にJRから経営分離される並行在来線への対応を批判する声もある。市民団体「北陸新幹線福井延伸と在来線を考える会」の代表世話人、松原信也さん(75)は「県民は身近な在来線がどうなるかが一番不安なのに、西川知事は建設促進の話ばかり」と話す。
県は敦賀開業5年前となる本年度、在来線の運営会社の在り方について調査を開始する。先行事例の富山県は金沢開業6年前に調査を始めており、福井県の動きは鈍い。松原さんは「富山県を参考にすれば、経営分離後の運賃水準などは早急に示せるはず。県民目線で物事を考えて」と迅速な対応を訴える。
課題はまだある。新幹線と在来線を直通運転できるフリーゲージトレインの開発が難航し、敦賀開業後の導入にめどが立っていない状況を受け、福井駅まで特急を乗り入れるよう求める意見が鯖江市をはじめ沿線から続出。県議会も3月に意見書を可決した。
3月末、福井県鯖江市の牧野百男市長は西川知事と面談し、県の主体性を強く求めたが、明確な返答はなかったという。特急が乗り入れると、在来線の運営補助が目減りする可能性があるため、安易に引き受けられないとみられる。ベテラン県議は西川知事の対応に一定の理解を示しつつ、判断が難しい問題では知事の姿勢が見えないと不満も漏らした。「鯖江ばかり矢面に立たせるのではなく、県全体の話なのだから、県も少しは前に出てほしい」