交渉をうまく運ぶには、「ウィン・ウィン」の考え方に基づくのが一番よいというのは、ビジネスパーソンや外交官にとって馴染みの深い決まり文句だ。しかし、英国の欧州連合(EU)からの離脱交渉には、この原則は当てはまらない。英国とEU双方が今、目指しているのは、どちらも相手により打撃を与えようとする「ルーズ・ルーズ」の合意だからだ。
EUより英国の方が打撃を被るべきというEUの決意
つまり、双方とも相手に自分が満足できるほどの痛みを負わせることができれば、自分は交渉に成功したと言える、と考えている。
まず、英国は既に離脱するという行為そのものによってEUに打撃を与えている。英国離脱により、EUの市民は英国に無条件で移住できるという権利を失うことになる。EUは、英国における法的管轄権を失い、さらにEUの予算を大いに支えてくれてきた資金拠出国を失うことになる。
EUは面目を失うことにもなる。もし事態が極めて悪い方向に転がり、他の加盟国が英国に続いて離脱すれば、EU自体が崩壊するかもしれない。実際に被る打撃も、今後、生じ得る打撃も含め、こうした事態を前にEUは、英国には離脱されるEU側以上に打撃を被ってもらわなければならないと決意している。
EUより英国の方が打撃を被るべきだという問題は、EUにとっては正義にかかわる問題であると同時に、EUの存続に関わる問題でもある。英国がEU離脱により目に見える形で痛みを負わなければ、他の加盟国もEUにとどまるべき理由がなくなるからだ。EUへの負担金や責任を放棄した英国に対して、なぜ加盟国と同等の恩恵をすべて認める必要があるのか、というわけだ。