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[FT]中国リスク、金融こそ本丸

2017/4/6 2:00
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Financial Times

 トランプ米大統領は6日、米フロリダ州にある別荘「マール・ア・ラーゴ」で中国の習近平国家主席と会談する。経済については、議論が中国の貿易・為替政策に集中するだろう。トランプ氏が2国間の貿易不均衡にこだわるのは誤りだが、たとえこだわっていなくても、貿易・為替政策しか議論しないのは間違っている。はるかに難しく重要な課題は、中国を世界の金融システムに組み入れることだ。米国の政策立案者らは中国の経常収支ではなく、資本収支を懸念すべきだ。危険が潜むのは、今やそこなのだ。

 資本収支の方がなぜ重要なのか。中国経済の2つの関連要素が、世界経済と密接に結びついているからだ。一つは貯蓄投資バランスで、もう一つは金融システムだ。温家宝前首相の有名な言葉を借りるなら、どちらの要素で見ても、中国経済は「不安定、不均衡で、ぎこちなく、持続不能」だ。温氏がこう述べた2007年当時以上に、今はこの言葉が当てはまる。中国の金融システムを世界経済に組み込む作業が危険をはらむことは、欧米の当局者はともかく、中国の当局者は気付いている。

■銀行システム、世界最大に

 事実をいくつか挙げよう。中国の年間総貯蓄額は昨年、5兆ドル(約553兆円)を超え、米国と欧州連合(EU)の合計貯蓄額の75%に上った。一方、中国の国内総生産(GDP)に占める総投資額の割合は15年時点で43%と、08年の実績さえも上回った。その間、経済成長率は少なくとも3割低下したにもかかわらず、だ。

イラスト James Ferguson/Financial Times
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イラスト James Ferguson/Financial Times

 この高水準の投資を支えたのが、信用供与の増加だ。GDPに対する与信残高比率は08年末は141%だったが、昨年末には260%へと急伸した。銀行を介さずに資金を融通する「影の銀行(シャドーバンキング)」も、理財商品などの形をとって爆発的に拡大した。銀行間融資も急増した。その結果、中国の銀行システムは今や世界最大となった。

 金融の観点では、中国はいわば「ワイルドイースト」(大西洋をはさみ東に位置する無秩序国家)だ。「ワイルドウエスト」(西部開拓時代のような無秩序な状態)の米国が前世紀から世界経済に何をもたらしたか。1929年に始まった世界大恐慌と、リーマン・ショックをきっかけにした2000年代後半の世界的大不況だ。どちらも米国主導の金融と世界経済が深く結びついていたことから起こった。中国のマクロ経済上の不均衡と金融システムの膨張を考えると、同国は少なくとも米国と同程度の大混乱を世界の金融経済に引き起こす可能性がある。

 筆者は自著「シフト・アンド・ショック」で、マクロ経済と金融がどのように相互に作用し合うかを理解することが不可欠だと論じた。中国の対外収支は07~08年の金融危機の発生に大きな影響を与えたが、現在はさらに危険な状況だ。

■余剰貯蓄が海外へ

 マクロ経済の問題は単純だ。中国の貯蓄規模は、利益を出せる投資に必要な資金量をすでに上回る。国民総貯蓄は15年、GDP比48%だった。世界銀行の統計によると、家計貯蓄の占める割合はその半分でしかなく、残りは企業の内部留保と政府貯蓄だ。他国の状況から判断すれば、経済成長率が6%なら、妥当な投資額はGDPの3分の1程度だ。つまり、中国の余剰貯蓄は、GDP比15%にも達する可能性がある。

 こうした余剰貯蓄はどこへ行くのか。経常黒字の形で海外へ向かう。これが金融危機の前に起きたことだ。もし政府が外貨規制を緩め、信用と債務の増大に歯止めをかけようとすれば、同じことが起こる可能性が高い。資本が流出し、人民元が急落し、やがて世界的に手に負えないほど経常黒字が膨張するだろう。

 今日の信用拡大と金融の脆弱性は、このような事態を防ごうとした結果だ。このため、投資が不経済な水準まで維持されてきた。中国当局は身動きがとれなくなっている。選択肢は、信用拡大を止め、投資を減少させ、国内景気の後退か巨額の貿易黒字(あるいは両方)の発生を容認するか、さもなくば、このまま信用供与を続け、投資を拡大させながら、資本流出規制を強化するかしかないのだ。

 後者を選ばざるを得ない。政府の反腐敗運動で不安が広がったことも、もちろん背景だが、流動性が高いか、ハイリスクか低利回りの金融資産を大量に抱え、さらに莫大な貯蓄があることから、企業や個人は資金を国外に持ち出そうと躍起になっている。貿易黒字がなかなか減らないにもかかわらず、14年6月には4兆ドルあった中国の外貨準備が、17年1月には3兆ドルを割り込んだ一因もここにある。

 外貨準備は間違いなく、さらに減る可能性がある。当局は外貨準備の際限のない減少を良しとしないだろう。当局は過度な人民元安を容認する危険も理解しているため、資本流出規制を強化してきた。

 当局がその代わり、内需を支えるために信用拡大を続けながら、資本の流出入を急激に自由化する政策をとったとしよう。外国人も中国人も、双方とも保有資産のポートフォリオを多様化させるにつれ、海外からの資金流入額が流出額に見合うようになる可能性はあるにせよ、決して高くはない。

■米中間でしっかり議論を

 仮に流出入額が一致しても、3つの問題が発生するだろう。まず、国内のマクロ経済に不均衡が残る。2番目には、金融部門がさらに脆弱になる。3番目は、この巨大で複雑、脆弱な金融システムが、完全に安定したとは依然いえない世界の金融システムにすっかり組み込まれる。その結果、多くの人が今、間もなく起こると考える中国の金融危機ではなく、中国を震源とする新たな世界経済危機が発生する可能性が非常に高まることになる。

 これらは米中(および他国)間でしっかり議論しなければならない重要な問題だ。貿易にも多大な影響を与えるが、貿易政策とは違う。問題に対処するには、マクロ経済政策と金融政策を一体で検討する必要がある。中国の対外収支管理、とりわけ外貨規制や為替相場、外貨準備の動向にも注意を払わなければならない。

 習氏には、少なくともこうした問題を理解している人材が政府内にいる。果たして、トランプ氏にも同じことがいえるだろうか。世界経済の安定がその答えにかかっている。悲しいかな、筆者は答えがノーではないかと思う。

By Martin Wolf

(2017年4月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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