ブスは「誰も望んでいないのに、そこにいる」ことに関しては一日の長がある
「待たせたな、ドブスども。俺は帰ってきた」
今のは無人の武道館に侵入して、警備員に取り押さえられながら言った。
ともかく、「ブス図鑑」再開である。 何となく戻ってきてしまうような気はしていた。それも読者の熱烈な要望に応えて、とかではなく自主的にだ。ライブだって、客が誰一人「アンコール」と言わなくても、一定時間経てば、アーティストは舞台に戻ってくる。
まさに今、大学デビューを「個性派」で飾ろうとしたブスの装い=上はヴィヴィアン・ウエストウッド+下はしまむらという「HiGH& LOW」を狙って「LOW&LOW」になってますよ琥珀さん、という衣装を脱ぎ捨て、黒地に「B」と書かれたライブTシャツを着てステージに立っている状態だ。
Bは「ブス」あるいは「ババア」、もしくはストレートに「BAD」でも構わない。Bという頭文字は、悪い意味で無限の可能性を秘めているので、しゃらくさい映画のように、解釈は観た者の感性に任せる。
つまり、「ぜひ戻ってきてくれ」と言われたわけではなく、どちらかというと「ほとぼりが冷めたので、またやりますか。ブスを」という担当の「LOW&LOW」なテンションの要請に、「そうですね」と「ZERO&ZERO」のやる気で応えた次第である。 このように、ブスは「誰も望んでいないのに、そこにいる」ことに関しては一日の長がある。なにせ本人が一番望んでいないのだから、間違いない。
しかし、何故またテーマが《ブス》なのか。
ブスをギュウギュウに詰めたことがある長靴は、洗ってもう一回履くとかはしないで、焼き捨てた方がいい
前回までの「ブス図鑑」の連載は、『ブスの本懐』というタイトルになって単行本化した。まだ買っていないという人は、今すぐ買って燃やしてまた買おう。
読んだブスどもは気づいたと思うが、この本には一生分の「ブス」という単語が書かれている。完全な致死量だ。
それは書いた方も一緒で、来世分までブスと書いたし、最終的にブスがなんなのかわからなくなったが、おそらくたまに雪山や水深3000メートルあたりで発見される生物か何かだろう。
要するに、「長靴いっぱいのブスを食ったので、もう腹いっぱいだ」という感じなのだ。 ちなみに、ブスをギュウギュウに詰めたことがある長靴は、洗ってもう一回履くとかはしないで、焼き捨てた方がいい。「オシャレは足元から」と言われているので、「人は足から腐る」ということである。
ブスで腹いっぱいになると同時に、「ブスとは、これ一回で終わる気がしねぇ」とも思っていた。
少年漫画でいえば、作中で何回も戦う主人公のライバルキャラで、最終的に味方になったりする奴だ。漫画だと、作者的には何回も戦わせるつもりであったが、打ち切り的な理由で二回目がない場合もあるし、特に私の漫画ではそういうことがよく起こる。
つまり、ブスと再戦できるというのは、めでたいことだし、最終的に親指を立てて溶鉱炉に沈んでいくブスに対し、二度と浮かんでこないよう、追い溶銑するところまで行ければ大成功である。
もちろん前の連載中、何度も「もうブスについて書くことなんてねぇよ」と思ったし、時には、担当を物量がある方のロックで殴りたくなる「ブスとロック」などのテーマもあったが、書き始めると何かしら書くことがあるのがブスというものなのである。 逆に本当に書くことがないなら、それは「ブスと決着がついた」という吉事である。
ブスは美人をはじめ、すべてを飲み込んで内包する「宇宙」といえる
とはいえ、まだ書けてしまうので、やはりブスさんの懐と底は深すぎる。いくらでも下に行けてしまうという点で。 これがもし、美人について書けとかだったら、「すごい」「楽しい」等、けものフレンズ程度の表現で終わってしまう。もう少し頑張れと言われたら、「ハーイ」「チャーン」「バブー」と書いて出すまでだ。
このように「美人」は人の語彙を殺す。しかし、ブスはさらなる広がりを持たせる。美人を讃える表現にも、最後に「ブス」とつけるだけで「花も恥じらうブス」となり、「見ているこっちが恥ずかしいわボケ」という意味になってしまう。ブスには言語まで捻じ曲げる力があるのだ。
つまり、ブスは美人をはじめ、すべてを飲み込んで内包する「宇宙」といえるのである。
私が宇宙の話をする時は、「そろそろ書くことがない」という合図なのだが、実際、積極的にブスの話がしたいわけではない。よって前回同様、テーマは担当頼みである。 そうして、送られてきた担当のブスリストのトップには「からあげブス」と書かれていた。前回の連載の終わりで「次は猫か、からあげの話をしたい」と書いたのを覚えていたようだ。
この担当ともまだ終わる気がしない。ぜひ溶鉱炉まで行き、担当を念入りに終わらせたいところである。
「王様のブランチ」「五時に夢中!」「有吉ジャポン」などで取り上げられたブスの本はコチラです!