全国の寺社で液体被害 増上寺でも 宗教施設標的? 反日思想? 警察当局が捜査
東京都港区の増上寺で5日、国指定重要文化財の「三解脱門(さんげだつもん)」などに油のような液体がかけられているのが見つかり、警視庁が建造物損壊や文化財保護法違反などの容疑で調べている。今月に入って同様の被害は確認されているだけで全国で6件発生。警察当局は宗教施設を標的にした犯行の可能性のほか、反日的な思想が背景にある疑いもあるとみて、液体の成分の分析などを進めている。
警視庁愛宕署によると、5日午前8時半ごろ、増上寺職員から「門に油のようなものがかけられている」と通報があった。
染みが見つかったのは門の柱や扉のほか、境内の石像や鐘など少なくとも十数カ所。4日午後5時半ごろに帰宅しようとした職員が門の染みに気がつき、5日朝になっても消えないことから通報した。門は夜間も開放され、境内には自由に出入りできるという。
都内では4日、渋谷区の明治神宮でも鳥居や門の柱などで液体がかけられたような染みが見つかった。同様の被害は1日以降、京都市の下鴨神社や奈良県吉野町の金峯山寺、那覇市の首里城と旧崇元寺第一門でも確認されている。
文化庁の宮田亮平長官は5日、増上寺を訪れて状況を確認。関係省庁と対応策を検討する考えを示した。
■油で「お清め」
寺社などに液体がまかれる被害は約2年前に相次いだ。平成27年3月下旬ごろから、奈良市の世界遺産・東大寺の大仏殿(国宝)や、千葉県成田市の成田山新勝寺の三重塔(国指定重要文化財)などで油のような液体が次々まかれた。
複数の現場の防犯カメラの画像などから、千葉県警は同年6月、香取神宮(千葉県香取市)に液体をまいたとして、建造物損壊容疑で、日本国籍で米国在住の50代の医師の男の逮捕状を取り、行方を追っている。男は同年4月以降、日本から出国したとみられる。
男は医師業の傍ら、韓国系牧師が創立した教会でキリスト教に出合い、各地で集会を開催していたという。ネット上に公開された集会の動画で男は「呪われた寺社などを油を注いで清めた」などと話しており、「お清め」と称して全国の寺社をめぐり、液体をかけた疑いが持たれている。
■犯人捕まらず
警察当局は今月1日以降の被害について、男の布教活動の影響や、反日的な思想を持つ人物の犯行の可能性を視野に捜査を進める。
また、昨年11月にも奈良市の興福寺や東大寺などで文化財に液体がかけられる被害が確認されており、関連を調べる。
新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「首里城など宗教と直接関係のない施設でも被害が見つかっており、現時点でははっきりとした動機は見えない」と指摘。液体をかける行為について、「有名な場所を標的にすれば注目が集まり、模倣犯を生み出しやすい。過去の事件で犯人がまだ捕まっていないことも、同種の犯行が繰り返される要因になっているのではないか」と分析する。