こんにちは、DAC(id:dacs)です。
今回は、前回に引き続きふるさと納税に関するお話です。
前回のエントリで触れていないこと
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前回のエントリはタイトルにあります通り、意外と現場の担当者や有識者が持っているふるさと納税に関する認識、問題認識はおかしいものでは無かったという内容でした。但し、ここで注意すべきなのは、現場の担当者や有識者は…という話であって、ふるさと納税におかしいポイントが無かったということではありません。
今回は前回触れなかったおかしかった部分を中心に取り上げます。
どんな点がおかしいか?
おかしい1.寄附でないものを寄附だと言い張る
総務省は以下のように主張しています。
「地方税法、同法施行令、同法施行規則の改正等について」(平成28年4月1日付総税企第37号)(抜粋)より引用:
ふるさと納税について、当該寄附金が経済的利益の無償の供与であること、当該寄附金に通常の寄附金控除に加えて特例控除が適用される制度であることを踏まえ、豊かな地域社会の形成及び住民の福祉の増進に寄与するため、各地方団体がふるさと納税に係る周知、募集等の事務を行う際には、次のように取り扱うこと。
「経済的利益の無償の供与」をくだいて言うと、何かしら経済的な利益(お金は勿論、経済的価値に換算可能な物、サービスといった利便一切の)見返りを求めず、お金を地方自治体に与えるということです。ふるさと納税の場合、主語は納税者で、寄附するものはお金です。これを纏めると「納税者は一切の金品に換算可能な見返りを求めず、身銭を切って任意の地方を応援する」ということです。
しかし、現実のふるさと納税で返礼品が無く、寄付金だけを納めるという運用を自分は寡聞にして知りません。昨日紹介したヒアリングの中にはこの総務省の主張する原則論に準拠した改善案がありました。
ふるさと納税の返礼品に関する有識者の意見の概要 より引用:
返礼品は本来不要であり、首長からふるさと納税を行ってくれた人への感謝の言葉などに止めるべき。返礼品が当たり前になることは寄附文化をゆがめる要因ともなりかねない。制度創設時には、ふるさと納税を行ってくれた方を、例えば、「ふるさと再生特別市民」として継続的な関係を保つ一方、過剰な返礼品は規制すべきという議論を行っていた。
現実の運用はまさに寄附文化を歪めるものとなっているし、そもそも「ふるさと納税が寄附である」という認識を持っている納税者が一体どれだけいるのか疑問です。歪めるも何も一般人にとって本来寄附という行為は決して優先度が高いものでも身近なものでもありません。「寄附文化が歪む」という珍妙な表現に至っては「??そんな文化どこにあるんだ????」と疑問符が並ぶように思います。
おかしい2.返礼品は納税者が対価の提供という誤解をされかねないと言い張る
総務省は以下のような指導を行っています。
平成27年度地方税制改正・地方税務行政の運営に当たっての留意事項等について(抜粋)より引用:
当該寄附金が経済的利益の無償の供与であることを踏まえ、寄附の募集に際し、当該返礼品(特産品)の送付が対価の提供との誤解を招きかねないような表示により寄附の募集をする行為(下記)については、自粛していただきたいこと。
・ 「返礼品の価格」や「返礼品の価格の割合」(寄附額の何%相当など)の表示
何をかいわんやです。実態は、返礼品があるからふるさと納税をするのですし、返礼品は経済的価値があるから行っているのです。価格表示や元が取れるかどうかの数値を隠したところで、経済的価値は全く変わりません。
これを受けてと言う訳ではないでしょうが、有識者はポータルサイトに責任転嫁しています。
ふるさと納税の返礼品に関する有識者の意見の概要 より引用:
制度スタート時から返礼品はあったと思うが、公共施設の割引利用やささやかな特産品だった。その当時、想定されなかったのは、ポータルサイト運営事業者の登場。こうしたサイトは、寄附者の利便性向上に役立っている反面、誤算だったのは、返礼品の通販カタログ化が進んだこと。
各種ポータルサイトは、便利さだけを追求するのではなく、ふるさと納税制度の理念をよく踏まえ、ふるさと納税の使い途まで含めた見せ方をもっと工夫すべき。
ポータルサイトがあるから、通販化が進んだのだと言わんばかりです。言うに事欠いてポータルが理念を理解して誤解せぬよう見せ方を工夫すべきとしています。それは総務省なり、地方自治体の仕事であって、ポータルサイトはその仕事を肩代わりする義理など本来ありません。勝手に元凶扱いで責任転嫁した上で、仕事を押し付けてくるとかどういう料簡なのでしょうか?
前項でも指摘される通りそもそも返礼品があるから寄附制度ではなく市場として成り立っているのです。誤解もへったくれもありません。納税者が行っているのは寄附ではなく通販なのです。主客が逆転しています。ポータルサイトはあくまで納税者の運用に合わせた利便性を提供する傍らで、広告などで儲けようと寄り付いているだけです。
一般人もふるさと納税情報で小遣い稼ぎ
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キーワードから見るまでもなく想像がつくと思いますが、一般人の小遣い稼ぎでレッドオーシャン化しています。どこをどう見ても経済的利益の供与以外の何物でもありません。コストパフォーマンスの高い儲けものの返礼品を探しては「これがオススメ!」とランキングで餌をちらつかせ、欲得づくでアテンションを集めています。欲にかられてやってきた人がトラフィックを生めば、記事の評価が上がります。そりゃ美味しいですからね。こぞってやります。
せっかくだから、はてなブログ(独自ドメイン除く)に絞った同じキーワード検索も見てみましょうか?
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これのどこが応援の志や寄附文化の要素があるというのでしょうか?あるわけないですよね。そんなことに文字を使うのは勿体ないでしょうし、あって申し訳程度で応援や寄附文化の思いの叙述がエントリの文字数の過半を超えることなどありえません。儲かることに沢山リソースを使わねばならないのですから当然です。勿論、地域への関心もほぼ皆無か形ばかりとなっています。
このありさまを見れば、納税者にとって返礼品という経済的供与あってのふるさと納税でしかないことは明白です。
ふるさと納税は寄附文化ではなく忖度文化の落とし子
総務省が徹頭徹尾言外に主張しているのは「経済的供与を寄附だということにしよう。納税者は対価の提供を誤解しかねない無辜の存在であり保護せねばならぬ。」ということであり、「それが如何に現実にそぐわないことであってもふるさと納税という仕組みを残すために飲み込め」ということに他なりません。
先だってより流行語と化した忖度は権力者の内心を阿って官庁が自発的に動くというものでした。一方、ふるさと納税の場合は、総務省が「お前らお金が欲しいなら、わかるよな!」と隠然と威嚇を行い、納税者や地方自治体、ポータルサイトが忖度するよう誘導する構図となっているのです。その結果、真意を理解している関係者は進んで忖度をしますし、理解していない多くの人たちは返礼品と控除を得んがため最適な行動を行い忖度せずとも仕組みの屋台骨を担うことになっています。
忖度という言葉が海外向けに説明に苦慮されていると聞きますが、ふるさと納税の問題は更に海外で理解を得られることは難しいでしょう。
もし寄附文化が日本に根付いているならば
以下のような案件に納税が集まる結果になる筈です。さて、どういう結果になるでしょうね?
www.yomiuri.co.jp
もし、こういった納税ばかりが上位10位を独占する結果が出るのであれば、上記の内容を引っ込めて全面的に間違えていましたと謝罪するのもやぶさかではありませんが…残念ながら、美しい国ニッポンに相応しい忖度的な落しどころにしか落ちないと思うのです。