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完全失業率ついに3%割れ!それでも日銀が金融緩和をやめない理由
インフレ率は一向に上昇せず…

正確には「2%台が定着」

3月31日に総務省から発表された2月の労働力調査はある意味、衝撃的であった。完全失業率が2.8%にまで低下したのだ。

この総務省発表の公表値(ヘッドライン)で完全失業率が3%を割り込んだのは、1995年1月の2.9%以来である。ただし、総務省の公表値は小数点第二位が四捨五入され、数字が丸められている。

正確に計算すると、2月の完全失業率は2.848%だったが、1月は2.954%で、実は1月も3%を割り込んでいた(昨年10月も同2.992%で3%を割り込んでいた)。従って、完全失業率が初めて3%割れしたというよりも、「2%台が定着しつつある」と言った方がよいかもしれない。

業種別にみても、低賃金で離職者も多かった医療・福祉関連も増加傾向にあり、状況が大きく変化しつつある。このところ、就業者増が顕著なのは、建設業、及び、卸小売業、教育・学習支援業といったところである。

また、「地位的就業者数」をみても、臨時雇、有期契約で就業者数の減少、ないし、増加幅の低下がみられ、代わって、無期契約の増加数が大幅に増えている(もちろん、正社員の増加が著しい)。

以上から、日本の雇用環境は量質ともに改善を続けていると言えよう。

ところで、日銀の黒田総裁もよく言及していたように、これまで、日本の自然失業率(完全雇用の状態でも産業構造や人口構成などの「構造要因」から生じる失業率)は3.5%程度とみられていた。だが、2014年11月以降、日本の完全失業率は3.5%を下回っており、低下トレンドを続けている。

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日本の雇用環境については様々な議論があるが、少なくとも「完全失業率が3.5%に到達した段階で日本経済は完全雇用を迎える」という見方は誤りであった。

従来であれば、完全失業率が3.5%に到達した段階で、日本銀行は、完全雇用到達で将来のインフレ懸念が台頭したとして、金融緩和の段階的な縮小(テーパリング)、もしくは2006年の量的緩和解除のケースを思い起こせば、かなり早いペースで「金融政策の正常化」に移行していたかもしれない。

そう考えると、現在の日本銀行が緩和姿勢を維持している点は評価してよいだろう。

企業の「レジーム」も変わりつつある

ところで、この完全失業率の低下は、その多くが「アベノミクス」、中でも特に日銀の現体制下での金融緩和に伴うデフレ圧力の縮小によってもたらされた、と解釈してよいだろう。

確かに、タイミング的に、団塊世代の引退の時期に重なったという「幸運」もあったかもしれない。だが、この「団塊世代の引退」という日本経済にとっての一大イベントは、人口構成の変化から事前に予想可能であり、2013年以降に突然のサプライズで出てきたわけではない。

だが、2013年まで、日本企業はほとんどこの問題に対応してこなかった。理由は簡単である。2012年までの日本経済は長期デフレの真っ只中にいた。この長期デフレの局面で、日本の中長期的な予想実質成長率も大きく低下したためである。

 

デフレによる物価の下落に加え、将来的な実質成長率の低下によって、多くの企業が「日本国内でのビジネスは縮小していく」と考えざるを得なくなる。そのため、企業の経営者は、団塊世代の引退にともなう雇用減を若年層の新たな雇用によって補充しよう、あるいは将来の成長のために若年労働力を確保しよう、というインセンティブを失っていたのであろう。

それが、2013年以降、「アベノミクス」の発動によって、デフレが解消するかもしれないという見通しに転換したことで、企業の雇用における「レジーム」も変わった可能性がある。

多くの日本企業は同業他社の動向を絶えず気にしており、右にならえの行動をとりがちなので、従来は、それ以前から実施しておくべきであった人員補充を多くの企業が一斉に始めたのではなかろうか。そして、それが、このところの「人手不足」につながっているのではないかと推測する。

以上のような要因は、本来であれば、構造的な労働需要増の要因かもしれないが、デフレ解消の希望が出てきたところで動きが加速したという点では、「デフレ期待の払拭」の効果といっていいかもしれない。