その代わりに、公共企業体等労働委員会の仲裁裁定というのがあって、「民間企業並みの賃金を保証する」という取り決めがありました。政府もその裁定に従います。
どんなに赤字でも民間企業並みに賃金は上がる。働かなくても賃金は上がる。必要なお金は政府が補正予算で手当てしてくれる。それならば働かない方がいい。そして、組合員の数は増え続けます。
この現象を政治的にみると、社会党の票が多くなる。組合費もたくさん入る。組合は非効率ほど財産です。数は力です。
国鉄「分割・民営化」の発想は
どうして生まれたのか
──今でこそ労働生産性の向上は重要な経営課題ですが、国鉄は復員兵を受け入れた歴史的経緯もあり、リストラをやりにくかったのでは。
それがうまい具合に、1980年から85年にかけて、(戦後すぐに雇用された)南満州鉄道や朝鮮鉄道からの復員兵の大量退職期にあたりました。毎年2.5万人~3万人くらい、採用しなければ、誰の首を切らなくても自然に減っていきました。40万人以上いた人員をJR発足時に27万人まで減らせました。あのタイミング以外には改革はできなかったと思います。
──そもそも、国鉄を「分割・民営化」する発想はどうして生まれたのですか。
「分割化」は、地域ごとの需要・物価に合うように、地域ごとの運賃・賃金を決めるべきという考え方です。全国一律の運賃・賃金では限界がありました。「民営化」は、政治介入を排除して、自律的な意思決定をできるようにする意図がありました。
──分割民営化から30年。JR7社の中で、経営体力の格差が広がりました。本州3社は想定以上に稼ぐ会社になりましたよね。
制度設計したときに比べると、全てが良い方へ進みました。でも、3社の役割分担、使命は全く違います。
JR東日本は、強力な首都圏の鉄道網と関連事業で稼ぐことで、東北のローカル線を維持する会社です。これは、鉄道会社の典型的なビジネスモデル。JR東海は、国鉄時代の借金を多く引き継いで、東海道新幹線の収益で借金を返す会社です。
ちょうどその中間にある(不採算路線の維持と借金返済の使命を併せ持つ)のがJR西日本。三者三様に、経営の基本設計が異なります。