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 アイスマン(エッツィ)はこれまでに発見された中で最古の人類である。

 5300年前に殺害されたエッツィは、1991年にイタリアアルプスの山中で発見されたが、それ以来、魅力のつきない話題をわたしたちに提供してくれている。

 この45歳の男性のミイラからは、天候、遺伝子、移動の経緯など、当時の様々な情報を知ることができるのだ。
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10. アイスマンには生殖能力がなかった可能性がある。


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 銅器時代に生きたアイスマンの遺伝子は、たくさんのことを示してくれるが、もっとも驚く発見は、オッツィに生殖能力がなかった可能性があったことだろう。

 当時にさかのぼってみなければ、彼に家族がいたかどうかはわからないが、2000年代半ばに研究者が彼の遺伝子から不妊症の可能性を見つけ出した。

 アイスマンの腸を調べて、ミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出した。このDNAは母親からしか伝わらず、その配列には男性の不妊症につながるふたつの領域が含まれるが、アイスマンは両方とも持っていたのだ。

 研究によって、アイスマンの母方の系統についていろいろなことがわかってきた。特に注目すべき点は、彼はこれまで知られていなかったKハプログループの下位範疇に属していることが初めてわかった。

 ハプログループは、地政学的エリア、つまり初期の人類が定住した場所がどこかを示すと言われている。ヨーロッパ人には珍しいKハプロに所属するということは、アイスマンの母親の家系はアルプスの南か、北のエッツタールアルプス地域の出身らしいということになる。


9. アイスマンは気象情報の宝庫


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 アイスマン自身が、ユニークな気象情報のようなものだという。アイスマンミイラは5000年もの間氷の中に閉ざされていて、ほとんど知られていない温暖な気候についての貴重な情報を蓄積している。

 遺体の年代を研究することで、その状態だけでなく、当時の環境、氷河の動きを追跡することができる。およそ6400年前(アイスマンが死ぬ1000年以上前)、このあたりは温暖で作物もよくできる環境だったことが、土壌サンプルからわかっている。

 しかし、アイスマンが殺害されたときは、気候の変動によって気温が急激に変わり、その遺体はいきなり氷の中に閉じ込められた。

 寒冷な気候のせいで、巨大な氷河が5000年の間発達したが、1970年ごろからこれが後退し始め、現在に至るまで前例のないスピードで縮小し続けている。

 氷河が溶けたおかげで、アイスマンの遺体があらわになり、ハイキングをしていた夫婦によって発見されることになった。温暖な時代がずっと続いていたら、アイスマンの存在すらわからなかっただろう。


8. ミクロRNAの不変性


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 2017年、アイスマンと第一次大戦で戦死した兵士のミイラが、革新的な遺伝子研究の対象となった。古代人の体の組織内に新たに確認できるバイオマーカー(生体指標)が残っているかどうか知るために、研究者たちは大昔に死んだふたりの遺体に取り組んだ。

 バイオマーカーは、医療の世界にとってとても価値がある。生物学的特性がその人の健康状態についての情報を示してくれるからだ。

 新顔のリボ核酸分子、つまりミクロRNAは、安定性が高く状態が変わらない傾向があり、医療関係者に人気がある。バラバラになったり、損なわれたバイオマーカーは使い物にならないからだ。

 苦労してアイスマンの皮膚や胃からサンプルを採取してみると、驚いたことに、兵士もアイスマンも両方とも、ミクロRNAが安定した状態で存在していた。

 現在では一般的な遺伝子マーカーがいくつか失われていたとしても、ミクロRNAが何千年もの間生き残っていたことが証明された。この分子の能力はまだ完全にはわかっていないが、研究者たちはすでに次世代の治療科学として注目している。


7. タトゥー治療


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 アイスマンは独自の治療法をもっていた。20年以上にわたるさまざまな研究から、アイスマンの体をむしばんでいた病状がまとめられた。

 それによると、彼はライム病(関節炎)、胆石、歯周病、動脈硬化、腸の鞭虫感染にかかっていたという。

 研究者はこれらの病気と彼の全身から見つかっている19のタトゥーの位置関係からある仮説をたてた。つまり、このタトゥーの跡は古代の鍼治療のようなものを表わしているのではないかというのだ。

 2015年、スキャンによって新たに未知のマークが見つかり、タトゥーのトータル数は61にのぼった。

 タトゥーはなにかの絵ではなく、十字やラインで、ほとんどが皮膚を切開してそこに炭を埋め込んだものだ。その8割は、背中や腹の不調に関連するツボに沿った位置にある。

 アイスマンの病は、こうした箇所に痛みを引き起こしていたのだろう。一番新しいタトゥーは近接した4つのラインで、右のあばら骨の下に入れてあった。こうした知識をもつ鍼師は、その場所が胆石や感染の治療のツボと一致することを知っていた。

 もし、アイスマンの時代に鍼があったのだとしたら、2000年前に中国がこの治療法をもっとも早く生み出したといわれている記録はくつがえされることになる。


6. 銅の関わり


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 アイスマンの所持品の中に、貴重な銅の斧があった。これは研究者たちに軌道訂正と解決できない疑問をもたらした。

 銅はアルプス地域からもたらされたとされていたが、2016年の試験では、イタリアの南部トスカーナ産の金属であることがわかった。この結果は、予想外で驚きだった。この銅の斧はアイスマンの所持品としてどういう役割を担っていたのだろう? 

 自分のものだったのか、それとも彼はこうした物の取引をしていたのだろうか? もし、アイスマンの使命が武器の取引なら、南からアルプスの山中という逆方向へわざわざ遥々旅するだろうか、という疑問が出てくる。

 試験の間、長年議論されていた別の懸案事項は行き詰ってしまった。アイスマンの髪に付着していた高濃度の砒素と銅から、彼自身が武器を作っていたのではないかと推測され、その製作中にこれらの化学物質を吸い込んでしまったのだろうと考えられた。

 しかし、汚染されたと思われるほかの部位(爪、内臓、皮膚)を調べると、爪に通常より多い砒素が見られただけで、あとはなにもなかった。

 高濃度の銅が見られたのは、アイスマンの手足だけで、体内にはなかったため、彼が銅職人であったという説はかなり疑わしくなる。


5. アイスマンは高度な知識をもっていた。


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 アイスマンの遺体が発見されたとき、その本当の正体はわからなかった。発見者は彼のことを遭難した登山者だと思い、研究者は大昔の羊飼いだと断定した。

 調べが進むにつれ、まったく違う姿が見えてきた。アイスマンは羊飼いというより、今日の兵士といったほうがしっくりくるかもしれない。彼が持っていた武器は、石の短剣、イチイの木の長弓、矢や銅の斧などだ。イチイの長弓は当時のハイテク武器で、何千年ものちのイギリス軍を戦いで優位にたたせた。

 アイスマンはまた、フレームのついたバックパック、火をおこす道具、保存食、効能の高い薬草を詰めた救急セットを持っていた。完全武装したアイスマンとともに、現代の軍隊や登山家が好むフリースやアノラックのような機能性ワードローブも見つかっている。

 3層にした動物の皮をまとい、クマの毛皮の帽子をかぶり、草で編んだケープをつけ、断熱性のある革の靴を履いていた。腰巻一枚の原始人とはまったく違い、アイスマンは専門知識を駆使して自然の素材を活用する方法を心得ていた。


4. 別の4人の人間の血


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 アイスマンの殺害者は、簡単に彼を殺せたわけではなかったようだ。2003年、アイスマンに付着していた血液から、彼の死の原因となった暴力的な事件が起こったことがわかったが、それだけでなく、彼自身も殺しを行ったひとりだったことがわかった。

 彼が持っていた道具、武器、衣類から採取したDNAサンプルには、アイスマンを除いた別の4人の人間の血液が含まれていることがわかったのだ。

 矢じりからはふたりの血液が見つかった。ここから、アイスマンがひとりに矢を放ち、貴重な矢じりを回収して、同じ矢で別の人間も殺したことがわかる。3人目の血液のしみは、アイスマンのナイフから見つかった。彼のヤギ革のコートの左側には、4番目の人物の血液が認められたが、この人物に何が起こったのかはわからない。

 前の3人は、アイスマンの敵としてその武器で攻撃されるはめになったが、最後の人物はおそらくアイスマンの負傷した仲間で、彼が抱えて安全な場所へ引きずっていこうとしたのではないかと研究者たちは推測している。


3. アイスマンの最期の旅は雄壮なものだった。


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 アイスマンは最期の日々、かなりの難路を長距離歩いていた。慢性的な病気にもかかわらず、彼は元気だった。思いがけない小さな助けのおかげで、研究者たちはアイスマンのその足取りを追うことができた。それはコケだ。

 彼の食習慣から、ふたつの種が体内に取り込まれた可能性がある。Hymenostylium recurvirostrumというコケは湿った場所で繁殖する。おそらくアイスマンは水源付近でこれを飲み込んだのだろう。彼の最期の食事は、アカシカとアイベックスの肉で、これらはfan mossに包まれていたらしいので、一緒
に飲み込んだのかもしれない。

 予想外の発見は、Sphagnum imbricatumというミズゴケで、これは第二次大戦のときにも傷を手当てするのに使われた。

 吸収性が高いので、消毒や抗生物質としての効果があった。アイスマンは右の手のひらを深く切られていたので、ミズゴケを包帯のように使って治療していた。

 そのため、知らないうちにそれが口に入ったと研究者たちはみている。当時はこのコケはアイスマンが息絶えた場所よりも南に20キロのところで生育していた。

 彼はアルプスの高地から低地へ下ってコケを集め、それからまた高地へ戻っていって、絶命するまでの2日か3日の間に、60キロ近くを踏破したのだ。


2. 殺人


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 アイスマンの調査にかかわったほとんどの専門家は、彼の殺人の真相は決してわからないだろうと言っている。だが、大筋を理解する手がかりは十分にある。アイスマンは直前の戦いで手を負傷し、所持品などから4人の別々の人間の血液が発見された。

 てのひらの傷は防御創で、彼が殺される前についた唯一の傷だった。研究者や警察の捜査官の意見では、アイスマンは戦闘で負けたわけではなく、個人的な相手から怒りをかったのではないかということだ。

 2001年、アイスマンの左肩から矢じりが見つかった。調査の現場では、矢を射られる直前にはアイスマンはリラックスしてたのではないかという結論に達している。休息をとり、おいしい食事を楽しんでいたというのだ。

 暗殺者は遠く離れたところからアイスマンを討ち抜き、彼は倒れたその場所で失血死したというのが大方の見方だ。殺害の動機は物盗りではなかった。

 アイスマンは強盗にとって格好の獲物だったはずだ。薬や食べ物を持っているし、価値の高い衣類や武器を身に着けていた。

 だが、すべては手つかずで残されている。個人的な恨みで殺されたのなら、暗殺者がアイスマンをそのまま残して去ったことの説明がつく。

1. アイスマンは埋葬されたのかもしれない。


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 2010年の研究から、アイスマンが発見されたアルプスの国境線は、殺人現場ではなく墓地だったという説が出てきた。

 アイスマンがどこか別の場所で殺されてからしばらくたって、遺体が高山まではるばる運ばれ、儀式的に埋葬されたと考えた方が、謎めいた事実の筋が通るというのだ。

 ミイラ化した遺体から見つかった花粉は、春に花開く植物だったので、彼が死んだのはこの時期だと考えられるが、氷の中の花粉は彼が夏の終わりに発見場所に安置されたことをほのめかしている。

 長年の間にアイスマンの私物品が山の斜面の下に転がり落ちていった経緯から判断して、研究者たちは遺体のもともとの"墓"が岩の大地の近くだったという説は撤回した。

 アイスマンの遺体が運ばれて埋められた可能性や、彼が地元の地域社会で高い地位にいた人物だったという説には反対する研究者もいる。初めてアイスマンの解剖を行った医師は、死んだときにアイスマンは例のあの格好で腕をねじ曲げていたが、村のエリートだったならまっすぐに戻されてしまったはずだという。

 人の居住区は山の遥か下界なため、葬儀のためだけに高地まで遥かな距離を歩いていく、そこまで献身的なグループが必要だったことになる。

via:10 Lesser-Known Facts About Otzi The Iceman/ translated konohazuku / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 20:38
  • ID:XHlI4tOb0 #

エッツィなのに生殖能力がなかったとはこれいかに

2

2. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 21:07
  • ID:7.3wm4G.0 #

この前etvで特集してたの見たけど
死後にあんだけ晒されておまけに「生殖能力ありませんでした!」

エッツィ気の毒すぎるよエッツィ……

3

3. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 21:07
  • ID:m1ocGnPb0 #

※1
一字一句、同じような文でコメント書こうと思ってたら既に書かれてあってワロタ

4

4. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 21:09
  • ID:mFnRCW3I0 #

禁忌に触れて追放されたのか
神様に会いに行こうとしたのか

5

5.

  • 2017年04月05日 21:29
  • ID:e1qvt4jH0 #
6

6. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 21:32
  • ID:OGtFMb550 #

なんか、現代の人か未来人がタイムワープしてこの時を生きていた、みたいな装備と知識だなーと思った

7

7. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 21:55
  • ID:qFIThVU60 #

想像が広がって色んな意見が出て楽しそうで何より

8

8. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 22:07
  • ID:uypAKbid0 #

復元されたアイスマンが、70代にしか見えないですよ。

それと、敵を倒すのに弓矢で離れた所から2人を撃ち、3人目は接近してナイフで殺したってわけですか?
まさにリアル・ランボー。
アイスマンは戦士だったんだろうか?

9

9. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 22:15
  • ID:gcfKXdMj0 #

数千後に種無しまで暴かれるなんてひどすぎるやろ!

10

10. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 22:20
  • ID:MfrVmnQQ0 #

ああ!
エッツィのあんなところやこんなところが....
エッツィの中.....

11

11.

  • 2017年04月05日 22:23
  • ID:6k6Iic.S0 #
12

12. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 22:26
  • ID:vquSbK9N0 #

※2
自分も見てた

でも現代人にワクワクする想像をかき立ててくれてるから、単なる晒し者じゃないと思いたい

13

13. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 22:32
  • ID:nPTeQIGC0 #

「第一次世界大戦で戦死した兵士のミイラ」が気になる

14

14. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 22:59
  • ID:ukAJg5ZU0 #

調査している科学者の皆さんも、興味津々で楽しんでいるね。
わくわくするなぁ^^

15

15. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 23:04
  • ID:F.bPFc.F0 #

いやん、エッツィ!

16

16. 匿名処理班

  • 2017年04月05日 23:32
  • ID:eHGjlPKl0 #

5000年前なら色々な知識知恵があってもそこまでおかしいものではないのかなとも思った。

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