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 研究者が予算確保に苦労する中、自前の資金調達に動き出した人たちがいる。

 慶応大特任講師の堀川大樹さん(39)は研究対象のクマムシをモデルに、丸くて愛嬌(あいきょう)のあるキャラクター「クマムシさん」を考案し、グッズ販売で研究費を稼いでいる。

 クマムシは体長1ミリ未満。放射線、超低温や乾燥にさらされると丸まって縮み、体内の水分を減らして「乾眠」という状態に。極限環境で生き抜くことから、「最強生物」と呼ばれる。堀川さんは神奈川大理学部の研究室でクマムシに出合い、「歩き方がかわいくて、仮死状態になってもすぐに生き返るところがかっこいい」ととりこになった。北海道大や東大などの研究室を転々とし、研究を重ねた。

 博士の学位を取るまでは順調だったが、当時クマムシを研究対象とする研究室はほとんどなく、就職先が見つからなかった。半年間、ほぼ無給で博士研究員を務めた。NASAのシンポジウムで学生賞を受賞し、アメリカで2年間の博士研究員の職を得た。

 その後、フランスから誘いを受けたが「予算が下りなかった」とほごにされ、再び就活に苦戦。2010年ごろ、奈良の「せんとくん」などのゆるキャラが世を賑わせていた。「かわいいクマムシをゆるキャラ化したら受けるに決まっている」とイラストレーターやぬいぐるみ作家に頼んでグッズ販売に乗り出した。

 ぬいぐるみの大量生産を始めた13年からの4年間で3千万円以上を売り上げ、メルマガの購読料などと合わせて生活費や研究費をまかなっている。

 学術系のクラウドファンディングサイト「アカデミスト」でも支援を募っている。寄付金額によって、ぬいぐるみなどの返礼品を贈る。「国家予算も限られる中で、基礎研究だけにカネを回せとは言いづらい。日本では、えたいの知れない研究には投資せず、はやりのテーマに大型予算をばんと出す傾向にある。新しい仕組みで研究を盛り上げられたらうれしい」

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 緑豊かな山に囲まれた、神奈川県・三浦半島の湘南国際村。総合研究大学院大学助教の塚原直樹さん(37)もアカデミストで研究資金を集めた一人だ。研究スペースには、スピーカーを搭載したドローン4台と、2体のカラスの剝製(はくせい)が並ぶ。

 声なのか、見た目なのか。カラスは何を「カラスらしい」と思うのか解明し、最終的には剝製(はくせい)をドローンで飛ばして、聴覚でも視覚でもカラスを「だます」装置を作りたいという。「邪魔者のカラスを追い払って、困っている人たちの手助けをしたい」

 宇都宮大学で所属した研究室で、指導教官に「カラスが何を話しているのか明らかにしろ」と研究テーマを与えられた。あちこちに出かけ、1年で約500の鳴き声を録音した。警戒しているときの鳴き声をスピーカーで流すと、周囲のカラスが逃げていくこともあった。

 国の研究費に採択されたことはないが、学内の競争的資金や民間の財団からの援助、企業との共同研究などで研究費を捻出している。だがドローンなどの機器を用意するには、もっとお金が必要だった。共同研究者の末田航さん(39)(シンガポール国立大)と一緒に15年10月から「アカデミスト」で支援を募り、2カ月で約65万円を集めた。

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 「アカデミスト」代表取締役の柴藤亮介さん(32)も元々理系の研究者。サイトを立ち上げたのは、「面白いアイデアを持っている研究者が発信できる仕組みを整えたい」と考えたのが始まりだった。

 首都大学東京の大学院在学中、知り合いに声をかけて、異分野交流を目的とした交流会を立ち上げた。都内のカフェなどで全8回開催し、多い時は約100人の参加者を集めた。未知の分野の研究者と語らい、研究者には発信の場が少ないと感じた。

 大学に出向いて事業の説明をすると、複数の年配の教授が「学問の価値は専門家が評価するべきだ」と研究を市民にアピールして収益を得る仕組みに拒否感を示した。だが、徐々に支持を集め、30代から40代を中心とする研究者40人以上がクラウドファンディングに挑戦し、支援を募った。そのうち8割以上の研究者が目標金額の獲得に成功したという。

 「研究を理解してもらうのに、グッズがかわいいとか、おもしろそうといった切り口から入ってもらうのもありだと思います。マニアックな研究には国や大学の補助金はつきにくいけれど、お金がつきづらいからといって諦めてしまうのはもったいない。研究者を支援できる方法を確立したいんです」(天野彩)