日本政府を代表する駐韓大使と釜山総領事が、韓国での任地に戻ることになった。岸田文雄外相がきのう、発表した。

 3カ月近くも大使らが隣国にいないという異常事態がやっと解消される。遅きに失したとはいえ、当然の措置である。

 韓国はいま、前大統領の朴槿恵(パククネ)氏が弾劾(だんがい)されて座を追われ、次期大統領選が1カ月余り後に迫っている。日韓関係の立て直しを急がねばならない。

 大使らの「一時帰国」は、釜山の日本総領事館前に慰安婦問題を象徴する少女像が立ったことへの対抗措置とされた。

 この間、韓国政界では大統領選へ向けた様々な動きが活発化した。きのうは最大野党「共に民主党」の公認候補に、文在寅(ムンジェイン)・前代表が決まった。

 ところが外務省関係者によると、日本は大使が不在のため、有力候補の陣営幹部との人脈づくりなどが遅れた。

 これまで韓国では選挙の後、約2カ月間の政権引き継ぎ期間があったが、今回は違う。現職大統領がいないため、当選者による新政権が即時発足する。

 それだけに、選挙の途中過程からしっかり情報を集め、来月からの新政権との対話に備える必要がある。出遅れを取り戻すよう努めねばならない。

 日韓間には懸案が多くあり、とくに歴史認識問題をめぐってはナショナリズムが高揚しがちだ。その壁を越えて健全な互恵関係を築くには、冷静に現実を見すえる外交が欠かせない。

 その意味で大使らの「一時帰国」は短慮だったと言わざるをえない。像の移転問題の進展を求めてきたが、結果として事態に何の変化もないまま、矛を収めることになった。

 帰任する大使らには、2年前の日韓の慰安婦合意の意義を粘り強く韓国に説き、少女像問題の進展につなげてほしい。

 一方、韓国の次期大統領候補者たちも、両国関係を改善させる大局的な意義を、国民にきちんと説くべきである。選挙での人気獲得を狙って対日批判に走るなら、責任ある指導者とはいえない。

 北朝鮮は再び、核実験の兆候ともとれる動きをみせている。トランプ米政権は、北朝鮮への軍事攻撃を排除しない新政策を検討しているとされる。今週開かれる米中首脳会談でも、北朝鮮政策は主要議題となる。

 東アジアの情勢が混沌(こんとん)とするなか、歴史問題に拘泥して外交の選択肢を狭める余裕はない。安倍政権は、韓国の政権移行の時機を逸することなく、日韓関係を再建すべきである。