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2015年6月21日付
和歌山県太地町の伝統的なイルカ追い込み漁は、そんなに残酷だろうか。世界動物園水族館協会(WAZA、本部スイス)から除名を迫られ、日本動物園水族館協会(JAZA)が、太地のイルカ導入禁止を決めた。背景に動物保護団体や動物観の違いがある。
湾内がイルカの真っ赤な血に染まる光景は確かに心地よいものではない。しかし、魚をおいしく食べるためにはなるべく早く血抜きする「活け締め」が望ましい。牛や豚でも同じだが、海上で処理されるイルカだけは非人道的で残酷というのが、保護団体が追い込み漁に猛反対する理由だ。
犬や猫などのペットや家畜はともかく、イルカやクジラなど「賢い動物」を特別扱いする欧米の動物観もちらほら。キャロライン・ケネディ駐日米大使が昨年1月、イルカ追い込み漁反対をツイッターに書き込んだのも波紋を広げた。
WAZAの倫理規定には「野生動物の取得は動物福祉を配慮すべきだ」とある。追い込み漁はそれに違反すると保護団体は主張する。
批判されたWAZAは、2004年総会で追い込み漁非難決議を採択した。翌年には、追い込み漁で捕獲されたイルカを使わないよう会員に通達した。JAZAは「追い込み漁は国内法でも認められている」と反発し、水族館用イルカと食用イルカを分離捕獲することで妥協にこぎ着けたものの、反対は止まない。追い込み漁を批判する映画「ザ・コーヴ」が10年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を取ったことや、昨年3月、国際司法裁判所が南極海での調査捕鯨中止を命じたことで反対運動が勢いづくなど「包囲網」が狭まっていた。
事態が大きく動いたのは今年3月。イルカ保護を訴えるオーストラリアの民間団体が、追い込み漁を認めるJAZAを倫理規定違反で追放すべきだと、WAZAを告訴したのだ。日本側は、昨年夏に示された「追い込み漁2年間停止(モラトリアム)」を拒否したうえで改善策も示したが、認められないまま。WAZAは今年4月の理事会で日本の会員資格を停止、1カ月後の除名処分を通告した。
そしてJAZA加盟の動物園89園、水族館63館で投票した結果、WAZA残留が99票と脱退の43票を上回り、今後、追い込み漁のイルカは使わないことが正式に決まった。
追い込み漁には江戸時代からの歴史がある。日本では昔からイルカを食用とし、漁法も発達した。水族館は生け捕りのイルカを1頭100万円ほどで入手できる。繁殖させるには、専用プールなど億単位の経費が必要だ。繁殖より購入を選ぶのは当然だ。太地のイルカは水族館ブームの中国をはじめ、ロシア、中東などにも輸出されてきた。
WAZA残留が決まったことで、JAZAは6月中に追い込み漁のイルカ購入禁止規定を作り、繁殖に向けた体制づくりに乗り出す。イルカを飼育する水族館は34館あり、1959年に日本で初めてイルカの繁殖に成功した新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)では、バンドウイルカ10頭のうち7頭が水族館育ち。鴨川シーワールド(千葉県鴨川市)もイルカの7割が水族館育ちだが、全国的なイルカの繁殖率は12~13%と低く、水族館同士の共同作戦が課題となる。
一方で、人気のイルカのパフォーマンスを維持するため、水族館の一部が追い込み漁のイルカ再導入を前提に、JAZA脱退を検討する動きも出てきそうだ。
【イルカ追い込み漁】複数の漁船で鉄棒をたたきながら、イルカの群れを入り江に追い込んで捕獲する。銛を突き刺す漁師や血を流してもだえるイルカの映像が残虐だと批判された。捕獲方法は2008年12月から改善され、解体作業も専用の施設内に移された。14年9月から15年4月の間に937頭を捕獲し、うち84頭を水族館などに販売した(和歌山県調べ)。
解説者
清水弟
動物園ライター
記事の一部は朝日新聞社の提供です。