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マクガイヤーチャンネル 第113号 【トヨタの国の『ひるね姫』 後編】
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マクガイヤーチャンネル 第113号 【トヨタの国の『ひるね姫』 後編】

2017-04-03 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第113号 2017/4/3
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    こんにちは。やり切った男、マクガイヤーです。

    先日の放送「実録SFヤクザ映画としての『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』」は如何だったでしょうか?

    最終回予想は当たらずとも遠からず、という感じでしたが、ガンダムとヤクザ映画について話したいことを話せて満足しております。


    また、先日山田玲司チャンネル第64回『アンノとオザキとシンジのカノン…それは中2病のルフラン~君は、エヴァンゲリオンというアニメを知っているかね?【完結編】スペシャル!!』にゲスト出演し、エヴァについてお話してきました。

    前半無料となっておりますので、もしお時間あれば是非御覧になって下さい。



    マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。



    ○4月29日(土)20時~

    いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

    『レゴバットマン』

    『ハードコア』

    『ムーンライト』

    『ゴースト・イン・ザ・シェル』

    『T2 トレインスポッティング』

    その他、気になった映画や漫画についてお話しする予定です。



    ○5月4日(木)20時~

    「クトゥルフ神話と『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』」

    3/4より『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』が公開されております。

    この映画、最近の大長編ドラえもん映画の中でみても面白いばかりか、どうみてもクトゥルフ神話の一編である『狂気の山脈にて(狂気山脈)』をネタ元にしているのですよ。

    そこで、大長編ドラえもん映画とクトゥルフ神話双方の視点からみた『のび太の南極カチコチ大冒険』について解説致します。

    是非とも映画本編を視聴した上でお楽しみください。


    ○5月後半

    「最近のマクガイヤー 2017年5月号」

    いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

    詳細未定





    お楽しみに!



    さて、今回のブロマガですが、前回の続き、『ひるね姫』の解説後編になります。。



    ●『ひるね姫』のテーマ

    一昨年、安倍総理は2020 年の東京オリンピックまでに完全自動運転車の実用化を目指すことを発表しました。一方で、これまで書いた通り、日本の自動運転技術は他国に比べて出遅れています。少子高齢化が進み、世代間対立があり、構造的な問題が山積みです。


    神山監督はこれまで(近未来)SFという形を借りて、現実社会の様々な諸問題を作品に反映させてきました。『攻殻SAC』では薬害問題や難民問題、『東のエデン』では高齢化や世代間対立などを中心的なテーマとし、現実と切り結ぶような痛烈な作品を作ってきました。

    その神山監督が、パッと見は日テレがスポンサードするポスト宮崎的でありつつ、その実これまで神山監督が作ってきた映画となんら変わりないテーマを内包した作品を作った――それが『ひるね姫』だったのです。



    ●なぜ「現実」と「夢」の二重構造を持つ映画が幾つも作られるのか?

    『ひるね姫』の特徴と魅力は二つあります。

    一つは、先に述べたような現代日本の諸問題を反映したストーリー。

    もう一つは、「現実」と「夢」の二重構造こそです。


    『エンジェルウォーズ』『ザ・フォール/落下の王国』『パンズ・ラビリンス』……等々、映画における「現実世界」と「幻想世界」が対応し、二重構造になっている映画は本作以外に幾つもあります。

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    神山監督に限らず、多くの映画監督がこのような構造を持つ映画を作るのは何故なのでしょうか?


    「映画というものは、それを撮った人間の情熱とか、やむにやまれぬ思いとか、情念とか、そういうものがないと成立しない」

    こう語ったのは、押井守です。

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    だから映画監督や脚本家は、映画のお話に自分の身の回りにある色んなことを反映させます。『風立ちぬ』の設計図描きがアニメのコンテ描きそのものだったり、エヴァンゲリオンに乗って戦うことがアニメを作ることそのものを反映していたりするのは、有名な話です。

    だから、押井守が『機動警察パトレイバー the Movie』『同2』でバブル経済で失われてゆく自分が愛した東京や情報化社会や戦争をテーマとしていたように、神山監督は自分の世代が直面している(或いはするであろう)薬害や難民、高齢化、世代間対立などをテーマとしてきました。

    この傾向が進み、映画監督にとって「現実と虚構」が重要なテーマの一つになると、「現実を虚構に反映させること」という構造そのものを映画に仕込もうとします。その結果、「現実世界」と「幻想世界」が対応し、二重構造になっている映画が幾つも作られましたし、これからも作られるのでしょう。

    神山監督はこれまでテロリズムをテーマにした作品を多く作ってきましたが、テロリズムを離れて初めて作った映画がこのような二重構造になるのは、神山監督にとってのネクストステップであるからなのでしょう。


    ●欠点その1~3

    本作には欠点もあります。大きな欠点を幾つか挙げましょう。


    一つは、「夢」の世界の世界観に既視感がありすぎ、つまらないものであることです。コヤマシゲトによるロボットのデザインはカッチョ良いのですが、機械産業の王国で、王族がいて、庶民のヒーローがいて、悪い大臣がいて、巨大な怪物がいて……という世界観は既に多くのアニメやゲームや漫画で使い古されたものです。「モモタロー」→「ピーチ」、「雉田」→「タキージ」、「自動運転車」→「エンジンヘッド」といった「現実」と「夢」でのネーミングの対応も、直接的を通り越してやる気のなさを感じます。ロボットに「現実」の自動車会社のロゴを反映した光る羽根が生えて飛ぶシーンに至っては、Vガンダムや∀ガンダムで何回も観たダサさです。神棚にエンジンが置いてあり、家のそこらじゅうにオーバーホール中のパーツが散らばっている田舎の整備工場……という「現実」の世界観の方が(業界以外の人間にとっては)新しく感じられます。

    勿論、「夢」の世界観のダサさ・つまらなさは、今我々が生きている現実への悪意を含んでいるからという理由もあるのでしょうが、それにしたってつまらなさすぎです。


    二つ目は、悪役である渡辺が馬鹿すぎることです。これまでの神山作品に登場した悪役や敵役や――笑い男も、クゼも、童貞38歳も、理にかなった行動をし、観客の一定の共感を得るキャラクターでした。しかし、本作の渡辺は違います。場当たり的に行動し、部下を使い捨て、捨て台詞を吐く……まるで悪い意味での「漫画の悪役」のようです。


    三つ目は、それまで「現実」と「夢」の世界を交互に描いていて、それが面白かったのに、クライマックスになると「夢」の世界の描写だけが続くようになるという欠点もあります。


    ただ、二つ目と三つ目には、理由があるのでしょう。

    多分、初期案では、現在の形よりももっととんがった、現実の自動車業界(を中心とした日本社会)に対する意義申し立てやブラック・ユーモアや観客にショックを与える描写に溢れた内容だったのでしょう。しかし、トヨタ(やその他自動車会社)は、テレビ局の大スポンサーです。

    多分、プロデューサーやスポンサーから駄目出しがあったのです。


    ●欠点その4

    これは欠点ではありませんが、本作には、本当に重要な事柄は台詞で説明する、もしくは説明しないという特徴があります。

    たとえば、主人公の父母がどうやって出会ったかは、最後の最後、エンディングテーマである『デイ・ドリーム・ビリーバー』と共に、台詞無しで示されます。

    映画が他のメディアと異なる最大の特徴は、物語を台詞やナレーションではなく映像で説明できることです。映画というのはそういうもので、スクリーンに映っていることとは全く違う物語を伝えられることが最大の魅力であるという、押井守の教えを忠実に守っているからに他なりません。

    そして、それは映画史的に正しいのです。忌野清志郎の訳詩・主演声優を務める高畑充希の歌唱による『デイ・ドリーム・ビリーバー』にのせて、父母の出会いが描かれるエンディングには、歌詞の内容が映像とぴったり合っていることもあって、抵抗できない魅力があります(思わずセブンイレブンを思い出してしまう人もいるかもしれませんが)。

    ただ、シネコンに映画を観に来る層がそれを理解するかどうかは、また別の問題です。


    神山監督が考える映画表現と、プロデューサー・スポンサー的配慮が重なるとどうなるか。なんと、5人に1人くらいしかストーリーの全貌を把握できない、分かり難い映画になってしまうのです。


    たとえば、母の死因についてです。

    最後のエンディングロールで、母がテストドライバーとして乗り込んだ自動運転車が長い道をスクリーンの手前から奥まで走っていくシーンがあります。このシーン、明らかに不自然です。交差点で、横から走ってきた車と衝突する場面が省略されているのを想像してくれと言わんばかりです。

    多分、映画を観にシネコンにやってくるマイルドヤンキーファミリー層は、家族の死という生々しい問題についてはマイルドな描写を好む傾向にある――とプロデューサーやスポンサーは考えているのでしょう。

    小説では、母の死因がきっちり描かれていたりします。

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    分かり易い映画が良い映画とは限りません。一方で、一般的に批評や批判は痛烈であればあるほど良いとされています。「ものづくりや進歩には、時に犠牲が伴う」という部分が、神山監督にとって現実に対する批評なのか、もしくは物語を語る上で時に禁じられる技術なのか、定かではありませんが、もし前者であったら、現状の映画における欠点となるでしょう。


    ●断固指示

    そのような欠点もありますが、しかし自分はこの映画を断固指示します。本作には、中途半端な形とはいえ、神山監督のやむにやまれぬ思いが溢れているからです。


    村上龍は『火花』について

    『「新人作家だけが持つ「手がつけられない恐さ」「不思議な魅力を持つ過剰や欠落」がない』

    と評し、又吉直樹は「やっぱりわかるんや」と心に響いたことを告白しています。

    http://prizesworld.com/akutagawa/senpyo/senpyo153.htm

    http://bunshun.jp/articles/-/1828


    本作は『風立ちぬ』や『エヴァンゲリオン』と同じく、「不思議な魅力を持つ過剰や欠落」に溢れています。

    神山監督は、本作におけるハードとソフト両面におけるクルマ作り――ものづくり――に、自身のアニメ製作経験を明らかに反映させています。渡辺以外の男性主要キャラクターは全員自動車工学や電子工学の技術者で、女性は彼らにとっての天使なのです。



    そして本作は、豊田市で開催されたとよたシネマフェスティバルにて監督の講演付きで特別上映されました。これをロックやパンクと言わずしてなんと言うべきでしょうか。

    http://animeanime.jp/article/2017/01/31/32369.html


    ちなみに、自分がシネコンで本作を観た時、観客は自分を含めて二人でした。


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