コラム

コンプレックス文化論
第五回「親が金持ち」

第五回「親が金持ち」 其の二
『夏の魔物』主催・成田大致インタビュー
「お金の心配は無いんで、僕はただ今面白いことだけを考えていく」

インタビュー場所に行くと、本人の隣に、謎の男性が座っている。「今日はこいつも俺の代わりになってしゃべるんで」「雇われたんす、1万円で」。彼は成田氏の学生時代の同級生で、時たまマネージャーめいた仕事をやっては小銭を稼いでいるらしい。「こいつが言ったことも自分が言ったことのように書いちゃっていいんで。オレ、インタビュー苦手なんです。でも、こいつが補足してくれるんで大丈夫です」と成田氏。1万円君も隣でウンウン頷いている。というわけで、下記のインタビューはその6割は1万円君による発言をミックスしてある。しかし、彼はキチンと1万円で雇われたのだから、こちらもキチンと彼の存在を消してあたかも全てが成田氏の発言としてお届けするのが「親が金持ち」について聞く最低限の誠意だ……ということにしてインタビューを始めたい。成田氏はとにかく純真で情熱的で面白いことを求めるためにひたむきな青年だった。自身のフェスにかける気持ちもめちゃくちゃ強い。ただし、とっても金持ちなのであった。

成田大致
profile

成田大致

2006年からAOMORI ROCK FESTIVAL 夏の魔物を開催(主催者)。2012年9月 さまざまなエンターテイメント業界とのクロスオーバーコラボプロジェクト「SILLYTHING」として矢沢永吉のガルル・レコードからリリース。スミス監督の「サマーロマンサー」PVにて夢眠ねむ(でんぱ組.inc)と共演。2013年春 夏の魔物で毎年MCを務めるアントーニオ本多とともに「世の中とプロレスするバンド(?)」をキャッチフレーズに団体を旗揚げ予定。
夏の魔物 成田大致 (NaritaDaichi) on Twitter
夏の魔物-AOMORI ROCK FESTIVAL-

「あのう、そもそも、コンプレックスってないんですか?」
「ないですね。」

成田:とにかく俺が人に話すときって基本的に説明不足で、インタビューが苦手なんですよ。ニュアンスがあんまり伝わらなくて、誰かに補助してもらわないと。今思ってる事しか言えないんですよね。

―インタビューが苦手なのに、こんな奇特なインタビューを受けてくださりありがとうございます。早速、聞きますけども、あのう、実家はお金持ちなんですか?

成田:どうなんですかね。自分ではあまり気付いてないんですけど、そうみたいですね。家にバンド練習できる自分のスタジオがありましたし、その部屋の中にクーラー、冷蔵庫、テレビ、スカパーが完備されてましたし。『工業哀歌バレーボーイズ』の赤木の部屋みたいな感じですね。

成田大致

成田大致

―さぞかし、チヤホヤされたでしょう?

成田:小学校の時から常にたまり場でしたね。ゲームを盗まれても気付かなかったんです。ようやく中学生くらいの時に、ゲーム何個も盗まれてる事に気付いて、その時に、あっ自分は裕福だったんだなって理解しましたね。

―モノ盗まれても気づかないくらいの金持ちだったのか俺ん家、って。

成田:久々にそのゲームをやろうと探すと無くて、友達の家に行ったらあるんですよ。それが何人も続いた。でも、それほど気にしなかった。基本的に昔から欲しいものがあったら何でも買えたんで。カードダスも新作が出ると、20円で1枚1枚回すんじゃなくて、店員呼んで箱で買ったりしてましたから。あと、小さい頃から思い出せる限りだと、雑誌は、『テレビマガジン』『テレビランド』『てれびくん』『コロコロ』『ボンボン』『別冊コロコロ』『ガンガン』『ジャンプ』『マガジン』『サンデー』『ファミ通』『ファミマガ』『ゲーメスト』『ネオジオフリーク』『電撃プレイステーション』『電撃ニンテンドー64』『電撃セガサターン』『ゲームラボ』『クイックジャパン』『週プロ』『ゴング』『紙プロ』『格闘技通信』『SRS-DX』を定期購読してました。他になにかあったかな? 音楽雑誌のバックナンバー集めや、青年誌に手を出し始め、『コミックバンチ』が創刊されたあたりに「あまりに買う本が多すぎる」って初めて親に怒られました(笑)。でも今振り返ってみると26にもなってこんなバカバカしいことしてるし、あのときの本も全部糧になっているからいいんじゃないですか(笑)。

―すごく楽観的ですね。毎日が発売日。資源ゴミの日が大変そうですね。その年齢なんて、普通は、発売日1週間前から1冊の発売を楽しみにするレベルでしたけども。

成田:ビデオ屋行くと普通10本まで借りられるじゃないですか。幼稚園からタートルズとか特撮とかアニメとか映画とか毎回10本借りられて親に感謝してます!

―CDも人に頼まれて自分が買う係になってたそうですね。

成田:友達は自分のことを「CD買う係」って認識してたみたいです。自分が買ったCDをよく友達が焼いて帰ってましたね。

―高校時代に自分でフェスを立ち上げちゃう、って相当な力技だったと思うんですけど、そもそも何不自由ない暮らしをしてきた成田さんがフェスなり音楽なりを始めようと思ったキッカケは何だったんです?

成田:高1の時に友達からバンドやらない? って誘われて。ごめんなさい、めちゃくちゃ普通の話ですよ(笑)。元から、ドラマとか映画に出たいとか、人前に出たいってのはあったんですよ。

―「何かやりたい」って思う時って、自分の中に「何か物足りないから○○をやろう」っていう不足感があると思うんですが……。

成田:え? 不足感ってなんですか?

―……。これが足りないとか、あれがあったらいいのになとか。女にモテたいでも、有名になりたいでもいいし。……あのう、そもそも、コンプレックスってないんですか?

成田:ないですね。自分、結構ヤリチンだし。まぁ、満たされてるんでしょうね。でもですね、ほら、松本零士的四畳半世界ってあるじゃないですか、パンツの中からキノコがはえてるみたいな。ああいう漫画はすごい好きですね。『アフロ田中』とか、みうらじゅん的な童貞とかも好きだったり。

―ん? 話が急展開しましたが(笑)。でも続けます。その、みうらじゅんさんの童貞的な漫画だと、必ず自分の青春時代の、四畳半で悶々としている自分がいて、そこに好きな女の子がやって来たり来なかったり、ってな話がありますよね。自分専用のスタジオがあったような成田さんがその四畳半世界に共感できるんですか?

成田:まあ、別世界モノとして面白いなぁって思ってるんでしょうね。それでたまに女の子を口説くとことか、置かれた環境以外のエピソードに自分で勝手にクローズアップする。

―それ、みうらさんの漫画の受け入れ方としてはすごく特異ですよね。他の人は「すげー、俺と一緒な状況だ!」って思いながら読むのに。

成田大致

成田:この間、10年ぶりに中学校の同窓会に行ったら、どうやら、俺、いじめられてたらしいんですよ。学校にコートとかかけるクローゼットみたいなところに押し込められて殴られてたみたい。全然覚えてないんですよね。みんな妬んでたのかなあ。先に推薦決まって女とヤリまくってPCあるし携帯あるし欲しいもの買ってるし学校サボって来ないしずっとインターネットやってるし。

―成田さんが出身の青森県って平均所得で見ると、上から46番目なんですよ。最下位の沖縄の前なんです。自殺率も高い。そうするとですよ、東京でお金持ちやってる以上に、妬みの標的になるんじゃないかって思うんですけど。

成田:気づかなかったんですかね、あんまり。鈍感なんでしょうね。

―多分ご本人が「オレ、鈍感」と思っていて、周りが「アイツ、超鈍感」って思ってんでしょうね。


「1,200万の赤字はどうしたんですか?」
「親が払ったんじゃないですかね。」


―音楽の話をすると、とりわけロックは、自分の鬱屈した気持ちを歌うケースが多いですよね。その時に、貧乏というのはひとつの分かりやすいアイデンティティーです。成田さんが好きなTHE BLUE HEARTSだって最初は貧乏暮らしだった。自分で音楽やるようになって、そのことについては何か感じました? つまり、自分はその世界観なり歌詞に共感する生活をしていない。

成田:みうらさんのマンガと一緒で、自分が共感できるところだけをピックアップして、「おお、超共感」って思い込んでる。でも、その「共感したい」って思いは人より強いんですよ多分。それに、俺は、思い出に常に女がまとわりついてるから、そっちで共感する。

―「思い出に常に女がまとわりついてる」、名言ですね(笑)。

成田:女だけじゃないですよ。曲を聴いて色んな光景を思い浮かべるのが最近は一番好きですね。

―情景? じゃあ例えば、THE BLUE HEARTSで浮かぶのはどんな情景なんですか?

成田大致

成田:曲で言うと“夕暮れ”とか色々思い出しますね……いやまぁその時の女との思い出で聴いてたとか自分にあてはめて、ですね。付き合ってた子に振られそうになった時、「わしゃ死ぬ!」とか言い出して海に飛び込もうとしてた時とか思い出しますね……。今聴き直して、あ、その時の自分のことを歌ってくれてるなあって。時がたってその子のことを思い出すのが好きなんです。それを思い出に変換して曲を聞くのが好きですね。

―洋楽だとJETとかMando Diaoが好きって言ってましたね。その洋楽への道はどうやって風に開かれたんです?

成田:とにかく「イェーーロックンロール!!」って感じじゃないですか。その時、バカだったんで。

―(笑)。理由は特にないんですね。

成田:まぁ『フジロック』行って浮気したとか、思い出ありますから。「“Are You Gonna Be My Girl”、超良かった!」みたいな。

―なるほど、そうやってシンクロさせるわけですね。先ほど音楽を始めるきっかけは聞きましたけど、フェス『夏の魔物』を作ったきっかけというかエネルギーって何だったんですか?

成田:全盛期のPRIDEや新日本 VS Uインター対抗戦のような空間が作りたいから……と言っても音楽ファンには伝わらないですかね(笑)。わかりやすくいうと、見た時のない、とんでもない熱気を作りたいっていうのが今は一番ですね。うん。東京ドームのスタンド、アリーナにいる人全員6万7,000人の熱狂の渦が……。

―(遮って)『夏の魔物』のチケットの値段、とても安く設定されてるじゃないですか。若い人に気軽に来てほしいとか、そういう思いがあったりするのかなって予測します。おっ! お金持ちなのに、そんなにお金を出せない側の思いが分かってると。

成田:親に色々なエンタメに触れ合う機会をもらったから、自分が提供する側でお客さんの立場を考えたら、やっぱり安い方がいいじゃないかって。今年からは運営体制見直されるけど、去年まではグダグダでどんぶり勘定だったんで。去年はなんだかんだで、赤字が1,200万円くらいいってるんで。

―その1,200万の赤字はどうしたんですか?

成田:親が払ったんじゃないですかね。なんとか今年からはプラマイゼロにもっていきたいのですが……。

―(笑)。それによって低価格が維持され、若い人が来て、自分たちが見たいバンドを見ることができる。色んなバンドを呼ぶと、それこそお金の交渉になりますよね。みみっちい人もいれば豪快な人もいるでしょう。いずれにせよ、成田さんからみれば「こんなに細かくお金の調整するのか」って驚きませんでした?

成田:最初はそういうことの連続でした。(以下、載せられない話が続く)……その頃は一瞬ケチになりましたね(笑)。

―精神の話、実に面倒くさそう。ただ実際、バンド単位で考えると、ライブに出るってときに、気持ちだけではなくて、採算とらないといけないっていう財布事情もあるわけですよね。

成田:もちろん、それは分かってるんです。でも、長年の付き合いだったら色んな部分がわかるじゃないですか? どう考えてもうちは赤字だし。

―さて、突然、話をぶった切りますが、「成田大致 金持ち」ってキーワードで検索すると、「外出する時に電気とエアコンを消さない」って出てくるんですけど、これは本当ですか?

成田:消すと家戻ってきた時に寒くなりますからね。基本はつけっぱですね。

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