非正規社員は一般的には正社員よりも短い時間で働くことが多い一方で、待遇面で正社員と大きな格差がある。例えば、給与が少ない(退職金、ボーナスがない)、雇用が不安定、キャリアアップがしづらい、といった点だ。
バブル崩壊直後の1992年の非正規社員数は、958万人で現在の半分程度。一方の正社員は3705万人と、今より500万人も多かった。あれから20年。なぜ正社員がこれほど減少し、非正規社員が倍増したのか。それは、バブル崩壊後の低経済成長期において、企業が不況期を見据えて、解雇がしやすい非正規社員を雇用の“調整弁”として活用した点が大きい。正社員は解雇規制が厳しく、雇用調整が難しかったからだ。
もともと非正規雇用は、主婦や学生などを主な担い手とするパートやアルバイトのように、世帯を支える正社員の働き手(一般的には成年男子)がいて、補助として収入を得る働き方の1つとして認知されてきた働き方だ。しかし、今では「正社員として働けない、就職できないから非正規をやむなく選ぶ」という若者が激増し、深刻な“若者の就職難”は社会問題化している。
しかも一度、非正規社員になれば、再び正社員として働くことは難しい。したがって、出産や子育てによって時間的に制約される女性が、「正社員」をあきらめるか、出産をあきらめざるを得ないケースは非常に多い。こうした現象が起きるのは、日本の労働市場には大きく、正社員と非正規社員という2つの働き方しか用意されていないためだろう。
では、低成長時代において、多くの人の雇用を確保しつつ、各々が自分のライフスタイルにあった働き方のできる社会にするには、どうすればよいのか。そこで安倍政権が雇用改革として打ち出したのが、「成熟産業から成長産業への“失業なき労働移動”」と「“多様な正社員”モデルの確立」である。