長男からLINEが来た。
「彼女ができました。」
えーー!!まじか!!
ってならねーよ。
はいはい、エイプリル・フールね。
0.1秒でバレるやつ。
せっかくなので、次男が入学式で入学生代表挨拶をすることになったことを伝える。
挨拶の文章って、考えるのめんどくせーんだよな。
マジかと食いつき、超えられた〜と落ち込む長男。
うっそでした〜。
母を謀ろうとか10年はえーんだよ。
入学生代表は嘘だけど、
こないだの小学校の卒業式、次男はとても立派だった。
うちの小学校は卒業式の服装が自由で困るのだが、子供にいい恰好をさせると、それなりに見えて面白いものだ。
長男に初めてワイシャツとネクタイを着せた時、どっからどう見ても、おまえ公務員だろと思ったっけ。
そんなことを思い出しながら次男にスーツを着せてみたら、まあお似合いですこと。
登校した途端、彼は同級生のママたちに社長と呼ばれ、卒業式が終わって謝恩会になるころには、社長は既に会社を一つ潰し、今二つの会社を経営していることになっていた。
※ ※ ※
3年前の4月1日は長男が我が家から引越していった日だった。
大学受験はとにかく戦争で緊張の連続だ。大騒ぎしながらそれをなんとか乗り切った後もまた戦争で、現地まで行ってアパートを契約し、家電を揃え、家具を揃え、荷造りをし、あれやこれやと準備をしなければならない。
合格発表から引越しまでの数週間、私のiPhoneのリマインダーは常にやるべきことで溢れ、長男の新生活が支障なくスタートできるよう、確認に確認を重ねる毎日だった。
家族4人で過ごす時間が段々少なくなっていく感慨が湧く暇もなかったように思う。
大忙しだった3月の終わりとともに長男は引越しをした。
私が寂しさと心配でどうにもつらくなってしまったのが4月1日の夜。
ガイダンスに出席する長男の代わりにアパートで荷物を受け取るため引越しに同行した私は、何とか形になった一人暮らしの部屋に長男を残し、帰途についた。
じゃあね、と言う頃にはもう泣きそうで相当やばかったのだが、何とか耐えた。でも歩き出したらもうだめだった。涙が滲むなんてものじゃない。ハンカチで口を押さえなければならないくらい、おいおい泣いていた。
暖かくて雲のない夕暮れだった。空には見たこともない程細くて美しい三日月が出ていたのをはっきり覚えている。
春の三日月は地上に並行になるように寝ている。秋になると垂直になるように立っているんだよな。そんな事を考えて気を紛らせようとしたが、むり。新幹線に乗るために駅に向かって歩きながら、もう自力では嗚咽を止めることができなくて困ってしまった。まわりの人はさぞかし怪訝に思ったことだろう。
たしかあの日の月は月齢が1で、本当に限りなく細かった。あんなに細い月を見たのは後にも先にも初めてだ。この日にこの月を見たことは一生忘れないだろうと思った。誰にも言わずにおこうとも思ったのに、ここに書いてしまったな。
うちの子たちは年が離れているので、考えてみれば、家族が4人で暮らした時間はそんなに長くなかった。たった10年ほど。
子どもを私たちの手元に置いておけるのは18年。
この春から中学生になった次男と一緒にいられるのは、あと6年。
うちには18で家を出るという鉄の掟があるから、残りは6年なのだ。
短いな。
子育ては果てしなく長く感じるけど、本当は短いんだな。
※ ※ ※
毎年この時期になると、近所の大学のまわりには新入生と思しき若者が溢れる。
新しいカバン、新しい自転車、少し不安げな表情。
3人で歩いているのは親子だろう。あちこち指差しながら歩いているのは、大学はあっち、スーパーはこっち、確認しているのだろう。
親御さんの表情がちょっと気になってしまう。
大丈夫、家に帰ったら、意外に平気なものでしたよ。
大丈夫、家に帰ったら、意外に平気なものでしたよ。
最初だけです。
ホントに最初だけ。
これからずっと、そんな光景を見るたび、引っ越しの日のこと思い出すんだろうな。
新入生、がんばって。
お父さんお母さん、がんばって!!