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なんか知らんけど檸檬が嫌いな三日月さんと審神者さんの話。【三日月宗近×女審神者】
彼女の本丸の三日月は檸檬が嫌いだった。
から揚げは好物だけれど、檸檬は絞らない。檸檬を使った甘味はもってのほか。紅茶にも檸檬は入れないし、今流行の塩檸檬もダメ。
なぜかと兄弟刀に聞いても知らないと答えるばかりだし、本人に直接訪ねたところで曖昧に笑うばかりであった。
審神者の少女は何とか檸檬を食べさせたかった。
なぜなら少女の得意料理はレモンケーキであったし、紅茶はレモンティーが一番だと思っていたし、塩檸檬のおいしさを理解しないなんて訳が分からない。
何より彼女は檸檬を愛していたから、どうみても食わず嫌いな三日月が許せなかった。
少女はあの手この手で檸檬の魅力を伝えようとした。その度に三日月は少々困ったように首をかしげて、眉を八の字にして
「すまんなあ……こればっかりは本当に苦手なんだ」
と笑うばかりであった。
何が、どうしてそうなってしまうのか。口元を隠して、しかし豪快に笑う三日月に少女は首をかしげていた。
ある夏の夜。その日は夜になっても地面の温度が抜けず、なんとも寝苦しい夜だった。少女は厨に水を飲みに出て、その帰り道に不思議な音を耳にする。
何かが空を切る音と、ぼこんぼこんと何かが地に落ちる音。審神者は何かしらととりあえず箒を携えて様子を見に行く。
本丸からだいぶ離れた修練場の裏手側。音はそこから聞こえてきていた。人の気配もあった。泥棒かしらと箒を振りかぶって、ええいと殴りかかると簡単に押しとどめられてしまう。なぜならその人は
「三日月さん!」
ばつが悪そうに佇む三日月宗近だったからだ。
「何をしているんですかこんな夜遅くに」
「……それは俺こそ主に尋ねたいところなんだがなあ」
苦笑しながら彼が言うには、投石兵を短刀たちから借りて、式を呼び出して遠戦をよける訓練をしていたらしい。
「……昼間だって訓練してるのに?」
「苦手は誰でも克服したいものだろう?」
「……檸檬はいつまでも食べられないのに?」
「……それはそれ、これはこれだ」
だからばれるのが嫌だったのに、と彼らしからぬ仕草で口をとがらせるのが面白かった。
「ん…?ちょっと待ってください」
と、そこで審神者は三日月が細かな怪我をたくさんしていることに気が付いた。
「なんでそんなに怪我してるんです?!」
「それは、夜戦は苦手だからなあ」
なんてのんびり笑う三日月に審神者は半分呆れ顔。急いで手入れ部屋から道具を持ってきて手入れする。
「……こんなこと、毎日やっていたんですか?」
「ああ」
「どうして、教えてくれなかったのです」
傷の中にはしばらく放っておいたであろう古いものもあった。手入れなら言ってくれればいくらでもするのに。否、そんなこと刀剣を見詰めていながら気が付けなかった己の未熟さからのやつあたりだ、としょんぼりする審神者の頭を三日月は撫でた。
「全部俺が自分でやったことだ。責任は俺自身にある」
それでもしょんぼりしたままで、三日月が自分を頼らないのは未熟なせいだとさらに落ち込む審神者に
「……少し、話をしようか。昔々…とはいかないが、そうだな昔から今までの話だ」
「昔から今まで?」
「そう、一振りの刀の話だ」
「生まれたときから今日までずっと美しいともてはやされ、強いだの、貴重だの言われ続けた刀があった。……しかしなあ。実に残念なことにその刀はな、そんな見てくれや些細な切れ味に興味はなかったのだ」
頭が良い方ではない審神者だったがその話が三日月自身のことであることくらいすぐに分かった。
「きっといずれ錆びるだろうと分かっていた。何物も断つ切れ味など、刹那の世のものでしかない。永遠などないということ分かっていたのだな…その通り、その刀はたくさんのものと出会い、別れてきたからな」
少し遠くを見るように話す三日月の顔はなんだか少し寂しそうだった。
「だがな、皆に憧れるということをありがたいと思えども、恨んだことはなかったよ。生まれを憎んだこともない。その刀は、自らがそう在ることを肯定していたのだ。だからこそ、強く美しく在るために、皆の指針であるために『錆びぬもの』を手に入れたかった」
「……それは、何?」
すると三日月はうってかわってにっこりとほほ笑み、自らの胸をとんとんと叩いた。
「『信念』とも呼ぶ。『決意』とも呼ぶし、『覚悟』とも呼ぶ。あるいは『志』…ああ、これは侍のようで格好良いな」
「……『心』さ」
やはり三日月は笑っていた。
「磨けば心は光るだろう?誰もが違う形の比べられない心を持っていて、それを研ぎ澄ますことができるだろう?錆びない、壊れない……そんな心で在れたらと思うし、皆にはそういう心を持ってほしいのだ……私を目指す、純粋な魂たち。実にありがたいことだな」
「私はその者達のために、強く在り続けたい。ずっと磨き続けたい。心を、信念を…志を。格好悪いところは、見せられぬからな」
ああ、と少女はため息を漏らした。
「そういう人間たちを俺は見てきたからな」
なんて力強い決意だろう、と。三日月は強く生まれたから、強いわけではなかったのだ。
「磨かれ続ける命に、俺はなりたいのだ」
ずっとずっと、長いこと磨かれ続けて、洗練されて、今ここに在るのだ。
「格好良いなあ」
三日月の、指先が少し擦り切れた手をとって少女は笑った。
「すごく……格好良いなあ」
すると、三日月は笑みを深くして
「お主に言われると、ああ…嬉しいなあ」
袖で口元を隠すことなく、しっとりと笑っていた。
その唇は、度重なる投石訓練のせいで痛々しく裂けていた。しかし、それを格好悪いなどとは到底思えず、
「三日月さん、ちょっと目を閉じていてくださいね」
そう言って少女は霊力を込めた口付けを贈った。
「お、おお……」
「はい、治りましたね」
つん、と三日月の唇を人差し指で撫でてやる。
珍しく慌てているような照れているような三日月は何やら格好悪かった。
格好良くて、しかし格好悪くて、それが最高に格好良い。そんな三日月自身に勇気を貰ったのだった。
「あ、いや…主…そういうことはまだ嫁入り前の娘はだな…」
「どうしたんですか?いつもは触って良しと言う癖に」
「それとこれとは話が別だろう!」
「三日月さん今日はそればかりですね」
「……血生臭い唇で、お主と口吸いをしたくなかった」
「まあ、確かにちょっと血の味はしましたけど」
少女はにっこり笑って三日月を見上げた。ああ、そういえば今宵は満月だった。
「三日月さんは、最高に格好良いから、良いんです!」
そうやって、互いになんとなく笑い合って。それが自然と収まって、
もう一度、今度は三日月から口付けた。
それから、次の日。
「さあ、三日月さん!今日こそレモンケーキ食べてください!」
「いや、それは苦手だと……」
「大丈夫ですって!三日月さんが檸檬苦手なのは口の中が切れてたからです!もう口は治ったでしょ!血の味もしないし、いっぱい笑える!だったらレモンケーキを食べなきゃ!」
「…そうだな。いつまでも逃げたままは格好がつかないな」
「そうです!さあ、どうぞ!」
いまだ使い慣れないフォークを使って柔らかな甘味を一口。
「ああ、なんだ。このような味か」
そして
「うまいぞ、主」
最高の笑顔で
「甘くて、すっぱくて…まるで主のようだな」
いただきます。
錆びぬ心を磨く三日月宗近と檸檬の審神者さんのお話。
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