資産合計は約10億円に達する
これらの資産合計は約10億円に達する。政治家である稲田の歳費は年間約2000万円。龍示は企業再生や金融取引問題に強く、オリックスや子会社のオリックス債権回収の代理人を務めてきた。「大阪の弁護士でも儲かっているほう」(在阪弁護士)とはいえ、あまりに巨額の資産ではないか。
「全部住宅ローンを組んでいますから、借金のほうが多い。義父の家は戦災で焼けてしまったのですが、借地だったので何も残らなかった。それで、義父は“借地は駄目、土地は絶対に買うべき”という考え方になったんです。主人も引っ越すたびにローンで家を買い、(前の家は)賃貸に出している。私も最初は驚きました」
一方で、取材を進めていると、いくつかの疑惑も浮かび上がった。
「昨年9月に政調会長に就任して以降、まるで田中角栄のように、地元に新幹線を通そうと躍起になっています」(自民党幹部)
北陸新幹線の金沢―敦賀間は22年度に開通させる予定だが、稲田を中心とした福井政財界は「20年までに福井までを先行開業させろ」と主張。稲田の強い要望で安倍も4月に福井駅を視察している。
「福井駅で折り返し運転するために必要な留置線の工事には数10億円はかかります。ところが、その留置線は2年後に敦賀駅まで延伸した時点で不要になってしまう。それなのに、稲田氏は『そんなに予算はかからない』と言うばかりでした」(国交省関係者)
稲田はこう反論する。
「どうすれば経済効果が一番生まれるのか、いろいろな組み合わせを考えている。(国交省は)難しいと言うが、難しいことにチャレンジするのが政治です」
だが福井駅への延伸をめぐってはある事件が起きている。今年3月、用地買収などを担当していた、福井県庁新幹線推進課の課長補佐が公園内のトイレで自殺したのだ。遺族は「話すことはありません」と語るのみだが、政治の圧力があったのでは、とも囁かれる。
この件を稲田に問うと、
「えっ!? はっきり言いますが、福井県庁は先行開業にまったく協力的じゃなかった。(自殺した課長補佐は)知りませんし、会ったこともありません」
稲田の弱点として「スジ論ばかりで、調整力がない」ことを挙げる声は多い。安倍でさえ「政調会長は荷が重かったか」と周囲に漏らしていたほどだ。
6月末にまとめられた財政健全化計画における20年度の歳出削減額をめぐっては、経済再生担当大臣の甘利明と衝突した。
「財政再建に関する特命委員会の委員長として稲田氏は9・4兆円の削減を目指していたが、甘利氏が仕切る経済財政諮問会議は5兆円前後を主張するなど、隔たりは大きく、甘利氏が稲田氏を一喝するような局面もありました。甘利氏は記者にも『あのバアさんが……』『なぜ総理はあんな経済が分からない人を重用するのか』とこぼしていましたね」(政治部デスク)
甘利に怒鳴られたりしたのかと尋ねると、
「ありますよ、それは。でも、私は数値目標を掲げて財政再建を進めることが正しいと思っていますから。まぁ総理はやりすぎやと思ったでしょうね」
07年の総裁選では、所属する清和会から福田康夫が出馬していたが、麻生太郎に投票した。
「自分の思想信条に一番近かったのが麻生さんだった。あの時は(派閥会長の)町村(信孝)さんに『あなたみたいに正しいと思ったことをそのままやっていては、政治家として大成できない』と怒られましたね」
町村の忠告どおり、稲田のこうした態度は時に大きな軋轢を生んでしまう。
「稲田は恩を忘れる政治家だ。許さない」
そう憤るのは、稲田の元有力支援者の1人だ。
13年の参院選。初出馬以来、稲田の支援を続けてきた金井学園理事長の金井兼が出馬を決めていた。ところが急遽、西川一誠県知事らが推す財務官僚の滝波宏文も出馬に意欲を示し、県連会長の稲田が判断を迫られる事態となった。
「金井氏は稲田氏から『大変だけど、頑張れ』とも言われていました。ところが、稲田氏は知事側の顔色もうかがい、候補者を党員投票で決めると言い出したのです。そんなことは前代未聞ですよ。実弾や怪文書も飛び交い、最終的に滝波氏が公認候補となりましたが、県連内には大きなしこりが残りました」(同前)
この騒動が尾を引き、後援会の会長、吉田敏貢が辞任するなど多くの幹部が稲田のもとを離れた。
「一昨年暮れ、稲田氏は金井氏の自宅をアポ無しで訪れましたが、本人は不在だった。稲田氏は手土産を渡そうとしたものの、夫人に突き返されたそうです。金井氏は『あんなことがあったのに、非常識すぎる』と怒っていました」(同前)
一連の経緯について稲田に尋ねると、
「私は(金井には)お世話になって本当に感謝しているけれども、福井を代表する人は公平に選ぶべきだと思いました。これが恩を仇で返すということになるとは全然思いません」
さらに地元での取材を続けると、“男”に関する疑惑まで出てきた。相手は福井出身の元官僚だ。
「稲田氏はかつて、その官僚と頻繁にメールしていました。ある時、近しい人に『道でキスするような関係になったのに、こういう文章しか書けないの』と漏らしていたそうです」(稲田氏をよく知る地元関係者)
“路チュー”の真偽を問うと、驚いた様子で、
「それ、そ、誰が、そんなことあり得ないですよ。全くの嘘ですよ」
傍らの龍示が「そういう事実があるんだったら、ちゃんと指摘して批判してほしいよね。政治家なんだから」と言葉を継ぐと、
「路チューって一体、何それ? 中川郁子さんみたいじゃないですか。まぁ2人でご飯を食べたことがないかって言ったらあるよね」
そう言いながら、椅子の肘かけを握ったり離したり、を繰り返した(元官僚は「事実ではない」と回答)。
最終目標を首相に置くのは当然
今年3月の講演会で稲田は「政治家である以上、最終目標を首相に置くのは当然」と発言している。その思いに変化はないのか。
「私は1回生の頃からそう言っている。最初は生意気って印象だったよね。でも、別に思っていることは言ったらいいと思うんです」
政調会長留任という今回の人事の感想は「気ぃ悪くする人がいたら嫌やから」と言葉を濁しつつも、
「それが一番の希望でしたから。(やっかみは)直接感じることはない。ですけど、そう思われてもしょうがないなと思いますね」
結局、150分にわたって取材に応じた稲田。最後に、地元の職人が編んでいるという自慢の高級網タイツについて尋ねると、
「10本は持っています。ただ、有権者から福井の地元事務所に『センセイ、スカート短い』って電話がかかってくることもある」
今回の取材中も、正面の男性記者を気にして、ミニスカートの裾を幾度も伸ばしていた。そうまでしてミニスカをはく理由とは?
「網タイツを強調するためには短いほうがいい。今日はちょっと短すぎたかもしれません(笑)」
SPもつけずに現れた“網タイツの女王”曰く、白の網タイツはオフの日用だという。“身体検査”に対しても、「シロ」と主張したかったのか。
(文中敬称略)