金正男氏の遺体移送 人質でもぎとった北朝鮮
北朝鮮とマレーシアが、マレーシアで殺害された金正男(キムジョンナム)氏の遺体を北朝鮮に引き渡すことで合意した。マレーシアは、事件への関与を疑われる北朝鮮外交官や容疑者とされる高麗航空職員の出国も認めた。
北朝鮮は見返りに、事実上の人質として平壌に足止めしていたマレーシアの外交官と家族計9人の出国を認めた。マレーシア政府は、安全な帰国を最優先に譲歩したのだろう。
人質を取って他国に要求を突き付ける行為は、まともな国家のすることではない。外国人の人権を一顧だにしない姿勢は、日本人拉致事件にも通じる。
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は今年元日の演説で、友好的な国との協力拡大を語っていた。伝統的友好国であるマレーシアに対する身勝手な対応は、その言葉がうわべだけのものであることを証明した。
マレーシアのナジブ首相は声明で「捜査を続ける」と表明したが、現実にできることは限られる。事件の全容解明は極めて難しくなった。
だが、これで幕引きにしてはいけない。真相解明と責任追及へ向けた努力を続けるとともに、北朝鮮への圧迫をさらに強める国際連携を進めることが必要だ。
東南アジア諸国が北朝鮮に向ける視線は、事件を契機に厳しくなってきた。北朝鮮はこれまで国連制裁の抜け穴として東南アジアを活用してきたが、こうした活動も以前より難しくなりそうだ。
制裁履行を徹底するためには、税関の検査能力などを高めねばならない。日本には、東南アジア諸国の能力向上への支援が求められる。
米国では、北朝鮮をテロ支援国に再指定する動きも進んでいる。来週行われる米中首脳会談でも、北朝鮮問題は主要な議題の一つとなる。
国連を舞台にした人権問題の追及も強めていかねばならない。
国連人権理事会が設置した調査委員会は、金委員長の関与の下で「人道に対する罪」が犯されていると批判する報告書を発表している。国際刑事裁判所(ICC)への提訴を求める動きもある。
人権問題での金委員長に対する名指し批判に北朝鮮は猛反発する。だからこそ、国際社会が圧力を強める手段として有効となろう。