Twitterで「今注目のあのバンドが、新作からリード曲のMVを解禁!」というニュースが飛び込んできてMVを観ることや、クラスメイトが話題にしていたバンドをYouTubeでチェックすることはごく当たり前なことだ。それに伴ってMVは曲そのもの以上に、アーティストが音楽を伝える大事なメッセージの鍵となっていると言えるだろう。
今回注目するのは、改めてその重要性が増してきたMVにおける、ちょっとしたブームについて。
MVに颯爽と登場し、主役であるミュージシャンを尻目に、シュールなダンスを踊っていたり、シリアスな瞳で、画面も心も占領する女の子達を観たことがある人も多いのではないだろうか? そんな彼女らを「MV女優」という新しいジャンルに当てはめることができたら面白いのではないか? そして、音楽の良さを引き出す魅力を持つ彼女らにMVの魅力について話を聞いてみたら新しい発見があるのではないか? と思い、取材を試みた。
インタビューをお願いした方は、フレデリックの“オドループ”や空想委員会の“八方塞がり美人”などのMVに出演している、アリスムカイデだ。モデルやDJといった活動をこなしながら、年間数十本のMVに出演する彼女に、表現者としての意識を聞いてみた。
取材・文/今井 雄太 野口 誠也 千々和 香苗
撮影/樋口隆宏
——今回、「MV女優ってなんだ!?」という企画を進めるにあたって、アリスムカイデさんのTwitterプロフィール欄に「MV女優」と書いてあるのを発見し、お声をかけさせて貰いました。
アリスムカイデ(以下、アリス)「はい。よろしくお願いします」
——まず、自ら「MV女優」と名乗るきっかけは何だったのでしょうか?
アリス「元々は年間10本のMVに出演した時にわたしのキャッチコピーというか、独特でいかがわしい肩書きとして作った言葉で、MV女優なんて職業があるの? という認識になっているのを見かけるんですけど、MVだけに出て稼ぐ仕事ってなんだよって思いません? その違和感が正解だと思っています」
——なるほど。
アリス「そもそも私は根本的に音楽が好きで、音楽がなかったら今の性格になってないし、今周りにいる人もいなかったかもしれないってくらい音楽に依存して生きていて、純粋に音楽が好きだったから、自然と音楽に繋がる仕事ができていると思います」
——そうなのですね。アリスムカイデさんは北海道出身で、元々ファッションフェスティバルである札幌コレクションに出場したことをきっかけに一度芸能事務所に所属したということなんですが——。
アリス「よく調べてますね(笑)」
——はい。そこからモデルをやるためにフリーへ転身したということですが、何故そこまでモデルにこだわられたのですか?
アリス「モデルという職業に憧れて始めたというより、幼い頃から手足が長いとか顔が小さいとか言われていて、じゃあ適しているのはモデルなんじゃないかと。もちろん何かになるにあたって努力は必要ですけど、生まれてきた自分のままでどこまでいけるのかを試せるのが私にとってはモデルだと思いました」
——そういった、自分の持ち味を活かしていくために選んだことは他にもありますか?
アリス「今、年齢が非公開なんですけど、その理由はツイッターとかで『アリスムカイデさんはミステリアスだ』という投稿が多くて、ミステリアスだと思って好んでくれているのであればミステリアスになろうと思ったんです。最初の設定はあるけれど、そこから先に求められたことがあるのであれば需要があるほうへハマっていくことが多いです」
——では早速、MVについてお話しして頂きたいと思います。アリスムカイデさんがブレイクするきっかけとなったフレデリックの“オドループ”はスミス監督の作品ですよね。スミス監督の中でも“オドループ”はフジファブリックの“銀河”に似たところがあると思いました。
アリス「私“銀河”すごく好きなんですよ」
・スミス監督
1975年生まれ。日本の映像作家で、有名アーティストのMVを数多く担当する。
代表作にフレデリック“オドループ”、いきものがかり“じょいふる”、KANA-BOON“フルドライブ”、フジファブリック“銀河”などがある。
——そうなんですね。“銀河”が今までのMVと違うのは、女性3人がよくわからない踊りをするシュールな作風だと思うのですが。
アリス「私は単純に好きだったし、踊りも覚えていました。スミスさんが監督した空想委員会の”八方塞がり美人”のMVに出た時には嬉しかったし、直接その気持ちを伝えたのを覚えています」
——そんな繋がりがあったのですね。“オドループ”のダンスは、振付け師の方やスミス監督に指示された動きですか?
アリス「スミス監督が手掛けている作品は確かほとんどスミス監督が振り付けを手掛けているんですけど、オドループの時も「お前ら適当に動いてみろ」と言われて、いくつかの動いたポーズからスミス監督がまとめてあの形になった感じですね」
——スミス監督と一緒にあのダンスを作っていったと。初めて“オドループ”を聴いた時の感想はどうですか?
アリス「絶対に忘れないなと思いました。一発で完全に耳に残るし、MVの撮影中“オドループ”がずっと流れている時とかは、どんだけ私の頭から離れなくなるんだ……と思いました」
——出演する側から感じるスミス監督の特徴はどのようなところですか?
アリス「本当に色々なものを活かせる人だなって思います。ただ可愛い子を出すのではなくて、その曲に合ったMVを作るし、そのMVに合った女の子を選ぶし、その女の子に合った映像を作るんですよ。だから、『良い曲を手掛ける、かわいい子を起用する、良いMVができた!』ってものとは全然違うなって思います。意図的かどうかはわからないんですけど、色んなものを活かせるからこそマッチングするんだと思います」
——“オドループ”を踊っているアリスさんの表情って一見、無表情だけど感情的にも見えますよね。 実際にどのように感情を込めたのですか?
アリス「無です。よく言われるんですけど、スミスさんに「無表情でお願いします」と指示されていたわけでもないんです。私達が普段しているモデルのお仕事は、可愛い表情や笑顔で! ってものではないことが多いのでいつも通り、自然とそうなったものです。あと個人的には、以前大好きなデザイナーさんに「アリスはもっと不機嫌な、意地悪そうな顔をしていた方が良い」と言われたことを大事にしていたりもします」
フレデリック「オドループ」Music Video
——フェスやDJで“オドループ”がかかれば、皆でダンスを一緒に踊るあの一体感のようなものをどう思いますか?
アリス「私は元々色んなライブに行くので、その曲ごとのノリがあるじゃないですか、そのひとつかなと思うんですけど、個人的には面白いしなんだか嬉しいです。たまにファンの方がオドループを踊ってみた動画をわたしに送りつけてきたりもします。「2点」などと返すとひどく喜ばれるのはなんなんでしょう」
——今、MVなどでアーティストが踊ったり、演者が踊ったりと皆で一緒に踊る音楽のようなムーブメントって続いていますよね。 そういった現象をどう思いますか?
アリス「これはただの一音楽ファン、リスナーとしての意見ですが、変な言い方かもしれないですけど、売れることに徹することは悪くないと思っています。売れる上で波に乗れるのは才能だし、キャッチーなら踊れるし、聴きたくなるし、ライブに行きたくなるし、好きになるじゃないですか。MV的な観点でいえば、せっかく可愛い子がいても、ダンスをしていても、曲が引き立っていないなら意味がないじゃないですけど、それで全てがバンドを好きになるきっかけとして引き立っているなら最高だと思います」
——DJやモデルなど様々な活動をなさっている中で、MVに出演することならではの魅力は何ですか?
アリス「声を出さない演技。お芝居よりも簡単そうに思われるかもしれないし、お芝居をしている人からしたら難しいことかもしれない。私がMVの中でそれほどの表現ができているかは別として、言葉が無い中でどれだけ伝えられるか、印象を与えられるか、モデルではできなかった表現ができていると思っています」
——アリスムカイデさんのようにMVに出演される方で、この人は素晴らしいと感じるMV女優の方はいますか?
アリス「そもそもMV女優なんて職業はないので、モデルや女優さんやタレントさん、芸人さんも含めた仕事のひとつだと思うのですぐ思いつかないんですけど、ただ、周りでMVに出ていて良いなって思うのは、るうこですね。もともと表現の仕方が面白くて好きなので、彼女が出ている作品は良いなって思います」
・るうこ
学生ながらファッション雑誌『Zipper』『mer』『Soup.』『NYLON』などで活躍。自身のInstagramでは約10万人のフォロワーを持つファッションアイコンの1人。サイダーガールや赤い公園などのMVに出演している。
サイダーガール “ドラマチック” Music Video
——僕達はジャーナリストとして、ライターとして、音楽を言葉にすることが音楽批評だと思ってやっているんですけれども、もしかするとMVも音楽を批評しているじゃないのかなって思うんです。何か解釈をした結果なんじゃないのかなと。
アリス「確かに! そうですよね。フレデリックだって“オドループ”をスミス監督に作ってもらった時に『こんな判断されるんだ!』って思ったかも知れないですよね。『この音楽ってこういうイメージなんだ』って。音楽だけなら聴いた人の脳内だけでその世界は広がるけど、やっぱりMVがついてくると、自然とそのイメージになっちゃう。逆もありますよね。音楽聴いて、こういうイメージだと思っていたMVを観たら『えっ!? こういう曲なの!?』って思ったりすることもあるし。確かに。アーティスト側が指示して作ったMVだったらきっとアーティストが思うものになるだろうけれども」
——アリスさんは音楽を面白くしようとしてMV に出ているのか、それとも音楽をあまり邪魔しないように出ているのか。どういう心持ちで音楽を表現しようと思っていますか?
アリス「やっぱり曲が一番ですよね。その曲のイメージを崩したくないのもそうだけど、それ以前にその曲のイメージをもっと強いものにして世間に観てもらいたいし、感じてもらいたいですよね。きっと私を呼んでくださった方は私自身のキャラクターも求めていると思うので、そこは消し過ぎないようにしています。作品によってはアリスムカイデじゃなくてもいいというか、単にこの風貌の女の子を求められているんだなという時は純粋に受けた指示をモデルとしてこなします」
——曲によっても違うと。
アリス「そうですね。監督さんの作りたいものとか」
——それでいうとフレデリックの“オドループ”は、MVの表現というのがとても強い。
アリス「そうですね、主張が強いですよね。私の意志でもあり、監督の意志でもあると思うんですけど。あとは変な終わり方だなって思いました。私が後ろ向きにスクランブル交差点を歩いている映像を逆再生しているシーンなんですけど。ちなみに黒人にわざとぶつかられたり、ギャルに「ウケる! あいつめっちゃ後ろ向きで歩いてる!」ってはしゃがれたりしながら撮影して、公開後には「エキストラの人全員後ろ向きで歩いてる! すごい!」とか言われていました」
——不思議な終わり方ですよね。
アリス「意味深な感じがしますよね。あそこについては監督に聞いてみたいです。そもそも意味があるのかないのか知りませんけど」
——YouTubeに投稿していた“ハナエ-「変幻ジーザス」アリスムカイデが踊ってみた”を観た時にも、あのMVにも批評性や、音楽を面白くしようとする表現性が凄く伝わってきました。
アリス「本当ですか? 全然誰も気づかないことなんですけど、あのピンクのセーラー服はハナエちゃんの永遠の少女性みたいなものがあるんですよ。普段なら絶対着ないんですけど、服が可愛くて。実は服のピンク色の部分には漫画が入っているんですよ。マンガのときめき一コマみたいなのがびっしり入っていて。作ったデザイナーさんの意思なんだけど、それがハナエちゃんって少女漫画のときめき性みたいなものを、持ち合わせているし『あっ、これを着てMVに出たいな』って思って衣装を選びました」
——気が付かなかったです。他にも裏話などはありますか?
アリス「実はあれこそ裏話があって、わたしの踊ってみたを撮ったカメラマンさんはハナエちゃんの”変幻ジーザス踊ってみた”のMVを撮った人なんです。モデルを始めた当初に作品撮りをしてくれていた人で、彼も当時はライブカメラマンで、お互いに今に至る上ではじまりの一歩というか、今でもきっかけだなと思う撮影だったんですけど。その写真を見て気に入ってくれたハナエちゃんが自らカメラマンを彼に指名したいっていう話があって。そこから私とカメラマンとハナエちゃんが繋がってしばらくたって、「これアリスも踊ってみてよ」と声がかかったのがこのMVの撮影をした経緯です。それで、単純にあいつがお祭り男だったので真夏の海に連れて行かれたんですけど」
——だから水に浸かっていたんですね。
アリス「入れ! って言われて。言われなくても入ったと思いますけど」
ハナエ‐「変幻ジーザス」アリスムカイデが踊ってみた
——今、CDが不況ということもあり、YouTubeでリスナーを捕まえようとシングル的な意味合いでYouTubeがプロモーションの中心として、盛んになっていると思うんですけど、アリスさんは最近の女の子が主体的に出演するMVのブームをどう思われますか?
アリス「わたしは単にいちリスナーでしかないので、結局リスナーは文句なんて言える立場じゃないというか、アーティストがやりたいことがそのMVで合っているのならそれで良いと思っています。だから例えばとにかく売れたい! 知ってもらいたい! っていうのがその時のバンドにとって最優先なんだとして、流行に乗れば売れますし」
——売れたいということ自体は当然だと。
アリス「当然です。どんな形だって売れてもらわないと、わたしたちだってそのアーティストの曲をずっと聴くことができなくなってしまいますし。ただ流行に乗ろうとして失敗したら、わたしは恥ずかしいなとは思います。バンドに限った話じゃなくてわたしたちモデルもそうで、表現する職業であれば。例えばモデルとしてみんなと同じキャラクターで、同じような写真を投稿してもそれが伸びるのって結局そのなかでセンスや実力があったり、自分に合ったものを上手に表現できている人なので。そういうところも含めて結局は流行りに乗ったところで結果が出るし、良いと思います」
——最後に、アリスムカイデさんのフォロワーさんってコアなコミュニティだなぁ思うことがあって。「アリスムカイデ 怒られたい」そういったサディスティックな検索ワードかあるじゃないですか。
アリス「『アリスムカイデ 踏まれたい』とか……」
——そうですね。そうした密なファンの方に一言ありますか?
アリス「どうでもいいです。私は好きにするので、好きにしてください。男はクソ食って寝ろ。これでいいです?」
今回のインタビューを行うにあたって、面白い記事になる予感はあったものの、その予想と妄想をあっけらかんと上回るように新鮮で興味深いお話が聞けたと思っている。
自身がきっかけでMV女優という職業があると認識されていることへの本音から、彼女自身の音楽やMVに対する意識のルーツ、MV女優というフレーズが生まれた今だからこそのMVに対する熱い思い……アリスムカイデのクールビューティーという持ち味の中には「素っ気なさ」ではなく「情熱」が秘められていた。
ミュージシャンに限らず、アーティストはアツイ人間が好きだ。MVというアーティスト・監督の作品にモデルとして彼女が選ばれてきたのは、話題性ではなく彼女が持つ「存在感」と「魅力」そして「情熱」であると断言できる。そして、アリスムカイデがMVの可能性をどんどん広げていく重要人物となる予感にゾクゾクした。 しかし、インタビューしてからも不思議と彼女のミステリアスな雰囲気はなんら変わらずに漂っている……。人間とは欲深いもので、ミステリアスな香りに誘われるようにアリスムカイデにハマっていくのだろう。
(MUSIUM編集部)