先日「サブスクリプション型音楽配信サービスの実態調査」にて、音楽ストリーミング・サービスの利用率は8%であることが報道された。これから日本で大々的に始まる月額制音楽聴き放題サービスということで期待が集まった音楽ストリーミング・サービスだが、どうやら思う程利用者からの反応は薄いようだ。世の中に認知されこそしたが、日本で支持を得られなかった原因を推測する話題はSNS上で多く飛び交っているし、先ほど挙げたのアンケート調査にも利用しない理由が記載されている。しかし、他にも様々な原因を別の角度から追及できるのではないか? そこで今回、MUSIUM編集部ではその理由を新たに探るべく、実際に渋谷に足を運んで生の声を聞いていたアンケートを発表してみようと思う。
8月9日、今から約2ヶ月前であるその日はあと数日でLINE MUSICの無料お試し期間が終了し、有料会員制への移行し始める前夜だった。音楽ストリーミング・サービスが有料になっても普及されるのか試される日にオトコエ調査隊は、渋谷ハチ公前30人、渋谷タワーレコード店30人に対してこのようなアンケートを行った。
1.あなたは音楽ストリーミング・サービスを使っていますか?
2.あと数日で無料期間が終了して、有料会員に移行しようと思いますか?
3. 何故、音楽ストリーミング・サービスを利用したい/したくないのですか?
この3点である。この数ヶ月で音楽ストリーミング・サービスが日本でどれくらい普及したのかという「今まで」の話と、これから音楽ストリーミング・サービスが日本でどれくらい普及していくかという「これから」の話——。今、無料お試し期間が終わろうとする頃のアンケートを振り返るからこそ見えてくる新しい発見があるのではないか。音楽ストリーミング・サービスに対する生の意見を見ていきたいと思う。
渋谷ハチ公前でLINE MUSICやApple Musicなどの音楽ストリーミング・サービスを使っていると答えた人数は30人中11人だった。これは3人に1人はストリーミング・サービスを使っている計算となり、かなり多い数字だと推測できる。たった数ヶ月でここまで普及したことは、ストリーミング・サービスのプロモーションが大成功していると言ってよいだろう。 アプリをインストールするだけでクレジット登録せずに体験できることや、LINEという誰しも利用しているツールの一部としてストリーミング・サービスを位置づけたことが普及の要因なのだろう。利用している多くの人がLINE MUSICを使っていると回答したことはその根拠となり得る。
「音楽ストリーミング・サービスを使っている」と答えた人に「あと数日で無料期間が終了して、有料会員に移行しようと思いますか?」と質問したところ、11人中1人が「はい」と答え、その他10人が「いいえ」と答えた。世界はこんなにも残酷なのか・・・・・・。多くの人が音楽ストリーミング・サービスにお金を払うというジャッジを下さなかった。
「音楽ストリーミング・サービスを使っていない(今後、有料では使わない)」と答えた人の中でも特に印象に残っている理由が「CDの方が安いから」というものだ。 1枚3000円以上もするCDが、月額数百円で済むストリーミングよりも安い理由は理解しづらかったが、Nさんによれば「CDを購入するのは数年に1度だけ。 気になる音楽はYouTubeで十分だし、データとして欲しい時は時々TSUTAYAに行ってレンタルする。そういった音楽に1年間使う料金を全部足して12ヶ月で割ればストリーミング・サービスより安い。」とのこと。確かにCDは高いが、そもそも音楽に対してお金を払うという行為を数年に一度しかしないのであれば、毎月音楽に対してお金を払うことは普段の習慣として全く根付かないのだろう。
確かに、音楽ストリーミング・サービスを安いと感じる人は、毎月 TSUTAYAでCDアルバムを5枚以上レンタルし、1000円以上支払っている人だ。渋谷ハチ公前の人達の多くはそこまでCDを買ったり、レンタルすることが少ないのだろう。彼らの言う「音楽ストリーミング・サービスよりCDの方が安い」とは、そうした理由からジャッジした合理的な発言なのだ。実際に先ほどのNさんが1年間音楽に支払った料金と1年間音楽ストリーミング・サービスを利用した場合の総額を比較してみると、音楽ストリーミングサービスの方が割高になることがわかる。わずか月額980円程度で音楽を聴き放題することが音楽ストリーミング・サービスの安さだが、ファンのアーティストだけしか聴かない、気になったらYouTubeでいい、という人からすると割高なサービスに思われるのだろう。
「LINE MUSICを使ったことがある」と答えた人 の一部に「LINE MUSICで音楽をシェアしたことがありますか?」と尋ねてみたが、「はい」と答えた人は1人もいなかった。その理由として「わざわざ『ありがとう』って気持ちを伝えるのに曲を選んだりするのは面倒くさい。スタンプを押した方が早い。」「もしも相手が電車とか乗っていて音が鳴ったら迷惑だと思う。」「Twitterのアカウントにシェアしたことはあるけど、LINEのトークにシェアしたことはない。音楽で会話する感覚がそもそもない。」など、消極的な意見が多かった。
LINEのトーク上でスタンプのように「ありがとう」の気持ちをLINE MUSICの曲で送ることは最も特徴的な点の1つだ。LINE MUSICが他の音楽ストリーミング・サービスと違う点は、LINEというコミュニケーションツールと密接に繋がって「音楽で会話ができる」ことに重点を置くサービスであることだ。何気なく押したスタンプのキャラクターで共通の趣味が理解できるように、 音楽から会話が生まれる。「何が好きなの?」と尋ねて「これが好き!」と答えた後、その音楽をすぐに聴かせることができる。誰もが日常的に利用しているLINEだからこそ、その会話により直結した音楽のシェアに期待していたのだが、どうやらLINEのトークと音楽のコミュニケーションはまだ融合できていないようだ。
では、場所を変えて音楽の聖地タワーレコード渋谷店でも同じ質問をしてみた。「音楽ストリーミング・サービスを使っていますか?」とアンケートしてみると、渋谷ハチ公前より少し多い割合である5割が「はい」と回答してくれた。
続いて、タワーレコード渋谷店3階でも同じように質問をしたが、今後有料会員になる予定の人は一人もいなかった。音楽好きが多く集うタワーレコード渋谷店であるにも関わらず、このような結果は意外だろうか? むしろCDを購入しに来るタワーレコード渋谷店であるからこそ、このような結果なのだろうか。今後、有料で使わない理由にはどのような意味があるのだろうか。
なぜ音楽ストリーミング・サービスを今後使おうとしないのか。その理由を尋ねると「好きなアーティストをちゃんと応援したいからです。」「どう考えても、月額1000円未満はアーティスト側にとって安いと思う。」と音楽に対する真面目な思いを語っていた。 アンケートを実施した日はグッドモーニングアメリカのイベントだったので、ファンの1人に「今後からグッドモーニングアメリカのCDを買わずにストリーミングだけで聴くことはありますか? 」と尋ねてみた。すると「もしもストリーミングで聞けたとしても、CDとしてちゃんとモノを持っていたから、買って聴くと思います。CDを買うと応援している感じがします。店着日にフラゲして、先行特典でグッズとかサインを手に入れて、CD先行予約でライヴに行って・・・・・・。そうしたことは ストリーミングではできないので。」と答えた。
CDを購入することが今でも 所有欲を満たすツールとして、またアーティストを応援するツールとして最も優れた手段なのだろう。CDを購入し続けている人は今後ストリーミング・サービスに移行してもCDを購入し続けそうだ。
今回の調査でわかったことは、普段音楽を聴かない人にとっても、普段音楽を聴いている人にとっても、音楽ストリーミング・サービスは必要とされている可能性が低いということだ。普段音楽を聴かない人にとってストリーミング・サービスはコストが高いし、普段音楽を聴いている愛好家にとってそのコストの安さが逆に抵抗となっている。CDは所有欲を満たすツールとして今でも存在し続けている。 もちろん、CDを購入し続けている人達が集まるタワーレコード渋谷店で調査したため、少し極端な結果になってしまったかも知れない。また、これは60人程度の小規模なアンケートであるし、音楽ストリーミング・サービスが始まってまだ月日が経っていないため、こうした 結論は悲観的で安直であると批判されるかもしれない。だが、実際に生の声を聞いて反応を肌で感じると 彼らの態度は想像以上にドライだ。渋谷で「(音楽ストリーミング・サービスに)金を払うの、フツーに意味わかんなくない? 」と 20代くらいの女性に投げ捨てるように言われた時は正直心が痛んだし 、タワーレコード渋谷店で「音楽を大事にしたいから(音楽ストリーミング・サービスを)使いたくないです!」と凄く純粋な目で、愛を込めて訴えるように言われた時は複雑な気持ちになってしまった。
音楽ストリーミング・サービスは決して音楽を壊すようなものではないと私は推測する。誰もが音楽と触れ合える機会を平等に与えてくれるからこそ、多くの人が利用すればアーティストを応援できるツールになるはずだ。CDよりも手軽に音楽をシェアできる音楽ストリーミング・サービスだからこそ、今まで以上に音楽と触れ合える可能性はたくさんある。コストが安くても、所有欲を満たせなくても、今までのツールとは一味違った良さが必ずあるはずだ。
まだ発展途上のこのサービスがこれからどのようにリスナーを巻き込んでいくのだろうか。これから音楽ストリーミング・サービスで提供される楽曲数も多くなり、音楽業界もストリーミング・サービスについて試行錯誤していくと思う。 想像以上に無料期間で出だしの良いスタートを切れたが、想像以上にこれからの道のりは険しそうだ。 そして、何よりも音楽ストリーミング・サービスを利用するのは私達リスナーである。好きな音楽があったら気軽に音楽をシェアしてもいい。音楽が好きな人が少しでも増えるように、何気ないコミュニケーションの中で音楽の話題を作ることは素敵なことだ。
これからどのように音楽ストリーミング・サービスは受け入れられていくのか、何ヶ月かごとにアンケートを行い、定点観測をするのもいいだろう。今後も状況を伺っていきたい。
(野口 誠也)