今、最もアンダーグランドとオーバーグランドを繋ぐコンテンツ「フリースタイルダンジョン」、密着取材してきましたっ!

ライカ!フォーマット

今、最もアンダーグランドとオーバーグランドを繋ぐコンテンツ「フリースタイルダンジョン」、密着取材してきましたっ!

「お前、あの試合観た!? めちゃくちゃ最高だったよな!?」とボクシングやプロレスの名試合をテレビ観戦したかのように、会社や学校でついつい熱く語ってしまう魅力がある。フリースタイルダンジョンは「音楽で喧嘩をする文化」を日本で初めて地上波で伝えた音楽番組と言っていいだろう。

ヒップホップと言えば多くの人が「韻を踏むこと」「B-BOYのファッション」程度しか認識がないし、普段ヒップホップを聴かないコアな音楽好きになれば、ビートメイカーのトラックばかりに耳を傾けて「ドープ」だの「トリップホップ」だの「Gファンク」だの音楽性をカタカナ専門用語で閉鎖的に語りがちだ。つまり、ヒップホップの「雰囲気」や「一部の音楽性」は伝わっても、その「精神性」はまだ広く浸透していなかったと言えるだろう。そんな日本で、この番組はボクシングやプロレスの名試合をテレビ観戦した後に「あの試合観た?」と会社で語ってしまうように、「音楽で喧嘩をする」ヒップホップの精神性をお茶の間にまで広く浸透させた。ロックの背後に「自己否定」の精神があるように、ヒップホップにとって「音楽で喧嘩をする」精神はかけがえのないもの。それを全面に押し出せたのだ。

では「音楽で喧嘩をする」とはどういうことなのか? ルールなしで繰り広げられる音楽と言葉の殴り合いなのか? 精密な戦略を立てて行われる頭脳戦なのか? そこで今回、新木場Studio Coastで行われた公開収録にお邪魔し、喧嘩の裏側に密着することによって、喧嘩のダイナミズムがどのように起きているのか取材した。

取材・文/野口 誠也
撮影/野口 誠也

のダイナミズム 闘場はより盛大に
この収録規ルデンタイムの特番だよね

2016年6月29日1

12時00分。新しく新木場Studio Coastに移動したスタジオに足を踏み入れると、スタッフ達が、スタジオのセット作りに勤しんでいる。いつも新木場Studio Coastで見ている姿とは違う格闘場が広がっている。

フリースタイルダンジョンのプロデューサーを務める山口一美さんによれば、前の有楽町にある200人規模のスタジオに入り切らない程大量の応募があったため、ここに移動することを決断したそうだ。関東ローカルの番組なのに北海道から応募が来る程の人気だったため、ファンに観てもらう環境としては非常に狭かったのだという。これこそが、関東圏地上波番組であると共に、そのアーカイヴをYouTubeで行っていた(今はAbema TVに換わったが)番組の強みであろう。この大きなスケールでの収録スタイルは、深夜番組ではあり得ない規模のようで、テレビ朝日のプロデューサーの方は「この収録規模、ゴールデンタイムの特番だよね」と仰っていたそうだ。

とある30代男性の観覧者に話を聞くと「そもそもヒップホップのライヴと比較しても、新木場Studio Coastはかなり規模が大きい。UMB(1年に1度行われるフリースタイルの全国大会)と同じ会場だからね」と興奮気味に語っていた。深夜枠としても、フリースタイルとしてもいかに新木場Studio Coastが大規模な収録現場なのかお分かり頂けるだろう。

 

のダイナミズム 対戦相手との打ち合わせはしない

2016年6月29日2

14時00分。会場に着くと、巨漢でコワモテの男性が目の前を通りかかる。その圧巻のオーラから「この人が漢 a.k.a. GAMIか!」と興奮してもう一度振り返るとただのスタッフだった。と少し冷静になって現場を歩くと、帽子を被った男性が階段にスマホを片手に座り込んでいたので「どうせまたスタッフだろう」と思ったが、もう一度振り返ると今度はサイプレス上野だった! 彼のマイペースなオーラのせいなのか、関わっているスタッフがみんなあの感じの人ばかりだからなのか、誰がADで誰がモンスターなのか、ちっともわからなかった。彼が友人と挨拶をした時、ヒップホップ風というか、巨人の原監督風というか、片手のグータッチで「そろそろ、やばくなってきたよね」と笑顔で語っていた。モンスターもこのブームの凄さを実感しているようだ。

 

15時00分。まず始めにバトルステージへチャレンジャー達が姿を現す。ステージの立ち位置や流れを大まかにスタッフから指示を受け、マイクチェックを行うと一度楽屋へ戻り、数十分後にモンスター達のマイクチェックが始まった。どうやらチャレンジャーとモンスターは試合前まで極力会わないような設定となっているようだ。皆さん、この番組、正真正銘「ガチ」ですよ! 1人1人マイクを持ってバトルステージに足を運び「マイクチェック・ワン、ツー」と音量を確認したり、その場で軽いフリースタイルを披露する者、決まり文句程度を言うモンスターなど、様々なウォーミングアップを行っていた。

本番が始まると、モンスターの控え室では、彼らが常にバトルをモニターで観戦しながら準備に備えていた。スタンバイ方法は人それぞれで、DOTAMAはモニタールームを歩き周りながら、口を動かしている。R-指定は他のモンスターのバトルでDJのイントロが鳴った途端、自分1人でフリースタイルを始め、「疑似バトル」をしている。漢 a.k.a. GAMIはひとり弁当をむしゃくしゃ食いながらも、モニターをじっと睨んでいる。シャドウボクシングをしているモンスターまでがいるじゃないか!

特に顕著だったのは、「弁当魔」漢 a.k.a. GAMIだ。スタッフから「映像(チャレンジャーの自己紹介VTR)流れますけど、漢さんスタンバイ入りますか?」と尋ねられると「俺はいらない」とあっさり断った。今まで対戦したとこのない相手や事前情報を知らない相手の場合、知り得る情報は2つ、容姿とVTRだけ。容姿だけでは「チビ」とか「デブ」ぐらいしかわからない状況で、VTRの情報はモンスターにかなり重宝されるが、漢 a.k.a. GAMIはそれを観ずに対戦に挑んだ。仕込みや、相手との打ち合わせを避け、出たところ勝負で挑む、それがリアルだ!と言わんばかりのイズムを感じる瞬間だった。

 

のダイナミズム 客の狂こそ最大の煽り

2016年6月29日3

開演を前に1000人以上もの観覧者が集まっている。そこで開演待ちをしている観覧者に声をかけてみた。20代前半のとある大学生は、高校生ラップ選手権からフリースタイルに興味を持ったとのこと。モンスターのT-Pablowのファンで、彼のレーベルオーナーであるZeebraを尊敬しており「T-Pablowが番組を通して上手くなっているのがすごい」と口にしていた。「今日、ゼミの友達にフリースタイルダンジョンのことを言ったら『私も観てるよ』と言われて嬉しかった」と大学でも認知されつつあること嬉しそうに語った。洒落たスーツを着こなす30代前半の営業マンの男性は、4年以上R-指定のファンだそうだ。「この日のために会社の営業だと嘘を言って参戦したんですよー。いやー、顔が映らないように後ろの方で見ますけど、本当はもっと前で見たい……!」となかなかの強者!「R-指定はかなりの実力者だから、もし彼の出番がなかったらどうしよう……」と喜びと不安を交えていた。

収録が始まると、一気に観覧者のボルテージは急上昇。観覧者は「観戦者」と変貌しながら試合を煽っていく。名フレーズが飛び出すと「うぉーー!」と大盛り上がり。現場で聞くファンの歓声はかなりインパクトがある。まさに参加者も一緒にバトっているのだ。今回収録を見て気付いたことは、観覧者の声が大きかったターンと、ジャッジで勝つ場合は連動していること。これはアンダーグラウンドでのフリースタイルバトル、UMBとも同じだし、総合格闘技のパフォーマンスや勝敗とも完全にリンクしている。殆どの音楽フェスやライヴよりもアスリート感溢れる独特の雰囲気に、純粋培養音楽ファンの僕は少しばかりチビってしまいました。

 

のダイナミズム ヒップホップの喧力尽くではてない

2016年6月29日4 収録終了後にファイティング・ポーズでツーショット。
 左:サイプレス上野  右:はなび

 

本日のチャレンジャーの1人、ボクシング経験者のはなびに直接フリースタイルについて話を伺うことが出来た。彼は自分の経験からフリースタイルの共通点を「異種格闘技戦そのものだ」と語り、力尽くの喧嘩とは全く違うフリースタイルの闘い方をこのように教えてくれた。

フリースタイルは異種格闘技戦だと思う。ボクシングのように打撃系のプレイヤーもいれば、寝技や関節技で決めるプレイヤーもいるんです。僕は打撃系だし、サイプレス上野さんは寝技系。人それぞれの攻撃が違う中で闘うところはまさに異種格闘技だと思う。打撃系の人間が正面から闘おうとすると、足下を取られてしまう。相性があるんだよね」

 格闘技全般を体育会系と呼ぶなら、ヒップホップは何系に入るのだろうか? 「音楽で喧嘩をする」という言葉には「メンタリティは体育会系だが、拳ではなく言葉で喧嘩をすることは文化系」とも言い換えられる。ボクシング経験者の彼は、フリースタイルと格闘技を練習方法の異なり方でこう述べた。

 「パンチは1人で同じ練習を回数重ねれば強くなるじゃないですか。だけどフリースタイルって、同じ練習が一度も出来ないんですよ。日々の暮らしの中や、仲間とフリースタイルする中で、インプットとアウトプットを増やし続けないと言葉が磨かれない。練習の仕方が似ているようで全然違う」

 トレードマークの金髪と、純粋な目を輝かせながら「当日のために毎日の練習を積重ねていくのに、ステージに立つ瞬間が3分もないところは格闘技と同じですね。本当に一瞬のために全てを賭けるところにドラマが生まれる」と語った。フリースタイルの終了後、彼はまた次のステージの一瞬のために、毎日の練習に励んでいくのだろう。僕はまた、少しばかりチビってシミを大きくしてしまいました。

 

のダイナミズム コンプラを逆手に取る
制作プロデュ山口一美におを伺った

収録終了後、フリースタイルダンジョンの制作プロデューサーを務める山口一美様とお話を伺える機会を頂くことができたので、フリースタイルダンジョンは今後どのように発展していくのかについて、インタヴューさせて頂いた。

 

──今回、新木場Studio Coastで1000人の観客が番組を通じて盛り上がり狂っているのを観て、一過性のブームと言うより、着実にシーンが形成されていることを実感できました。

山口一美(以下、山口)「ありがとうございます」

──新しい場所での収録ということで、不安などはありませんでしたか? 規模も大きくなりましたし。

山口「そうですね、どれくらいバトルの好きな人がいるのか、私達にも正直わからなくって。当然、Zeebraさん達がやっているイベントやライヴにお客さんが多く来ていることを分かってはいたんですけど、毎回の収録にどれぐらい来てくださるかが全くの未知数で。1週間前に場所を公表すると、関係各所から『ここで本当にやれるの?』って問い合わせも来ていて」

──蓋を開けてみると、大勢の方が来てくださいましたよね。

山口「有楽町のスタジオでは応募しても来ないキャンセルが中にはいたんですけど、今回は応募してくださったほとんどの方が来てくださったんです。大きい会場でやってよかったな、と本当に思いますね。バンドセットを入れることも初体験でしたし(この日ゲストとして出演したOZROSAURUSは、DJセットではなくバンドセットで、山嵐のTAKESHIやTOTAL FATのBUNTAを従えてライヴを行った)。スタッフ総出で朝の9時から取りかかっているんですよ。これって新番組の1回目ぐらいの勢いでした(笑)。実は不手際が裏でいっぱいあって、みっともないところをお見せてしまって申し訳ございません。だけど無事に収録を終えることが出来ました。

──いえいえ、とんでもございません、素晴らしい仕切りを堪能させて頂きました。なぜ、新木場Studio Coastで収録することが出来たのでしょうか?

山口「Zeebraさんの事務所や、(スポンサーの)サイバーエイジェントさん、テレビ局の体制だったり、出演者だったり、スタッフが揃わないと、完成しなかったと思います。皆さんの協力があって、ここでやらせて頂くことになりました。奇跡のコラボレーションですよ。私達だけで企画書を通しても通らない(笑)この番組の凄く面白いところは、サイバーエージェントさんのスポンサー枠なんですね。そのサイバーエージェントさんが深夜枠とは思えないほど制作費を出してくださっていて。さらに、普通じゃ考えられないカメラ台数なのに、製作費を安くして頂いたり、Zeebraさんサイドが色んな所に声を掛けて頂いて色んなものを安く提供してくださったりしてこの番組は成立しているいかな、スポンサーが無茶や過剰なことを率先してやりたいと思っているんですよね。普通スポンサーはお金を出したくないんですけどね。歩み寄ることが出来たのはスポンサー様のおかげですよね。そういう意味でも多分、珍しい地上波TV番組ですよ」

──ご自身は、当初この番組が半年以上続くと思っていましたか?

山口「当初はそうあればいいなと思っていたんですが、最近『やっぱり続くな』と思いました」

──そう思えた瞬間はどんな時だったんですか?

山口「9回目の放送、焚巻VS般若戦の時ですね。その時に関係各所、いきなり雑誌とかの取材が増えたんですね。そこで続くなって思ったんですよ。9回目の放送で『もう般若が出てしまったの?』『まさかの最終回か?』って思ったくらいの圧があって。しかもその日は最初の金額設定である最高50万円を100万円に設定した時だったんですよ(笑)早い段階でピークが来たなっていう感覚があったんですが、その後も色んなチャレンジャーの方が出てきてくれたので、番組が引き続き色褪せることなく面白くなっているなぁと思います。私達の力と言うより、チャレンジャーの力だな、と」

──あれは神回でしたよね。そういったフリースタイルダンジョンの面白さを考えた時、他のテレビ番組は全般的にBPO(放送倫理番組向上機構)がどうだとか、すごく制限を意識されるじゃないですか。その中でフリースタイルダンジョンは「コンプラ(コンプライアンスの略。モラル的なる決め事を遵守することを指す)」と書いたモザイクをかけながら、エグい発言や絶対に公共の場で言ってはいけないようなことを見せているじゃないですか。確かに「コンプラ」という制限はしているけれども、制限の仕方がすごく今の時代にないものであって、一線を化しているな、と思います。

山口「そうですね、企画段階から絶対に放送禁止用語は出てくると念頭に置いていたんですよ。それをどうするか考えた時に、企画・構成を担当している鈴木おさむさんが『これ、コンプラを逆手に取って、そのまま入れちゃえば?』って言ったんです。つまり、世の中でコンプラはある程度一般用語化しているので、「コンプラで引っかかっちゃったんです、すいません、コンプラと入れました」っとしようと」

──「コンプラ」を逆手に取るって、逆転の発想ですよね。

山口「番組当初から、モンスターにも挑戦者にも『これはテレビだから、コンプラを抑えて出演してくださいますか?』と一応言っているんですよ。当初、漢 a.k.a. GAMIさんがよく負けていたんですが、その理由はまさにそれを意識していたから。彼がバトルに勝ち始めたのは、コンプラを意識するのをやめた時です。すると案の定、彼の人気が更に出てきた。何だろうな、オオカミの牙を抜いちゃいけないんですね(笑)」

──出演者がコンプラを意識しなくなると面白さが増すんですね。BPOから怒られたことはあるんですか?

山口「まだBPOに怒られてはいないんですよね。テレ朝もチャレンジしてくださっているので。やっぱり作っている側が守りに入っているより面白いです。テレビって半年ごとに変わるんですけど、私自身、5年間この深夜枠をやってきた中で1年続くのが初めてで。久しぶりにテレビをやっていて、面白いことをやっているな、という実感があります」

──今後、100万円ゲットするチャレンジャーが出るのが楽しみでしょうがないのですが。

山口「いつ出してもいいくらいですよ。今、このタイミングですごい優秀なラッパー達が揃っているので。逆にテレビ的にはそろそろ100万円出ないと盛り上がらないだろうし(笑)」

──勝手なご提案なんですけど、大晦日にフリースタイルダンジョンの特番をやっていただけませんか? よく大晦日に総合格闘技の特番をやるじゃないですか。あの格闘技に似ているものをこの番組から感じるんです。

山口「このまま皆さんがご支持頂ければ、大晦日に年越しで、みたいなことは企画としては少し出てくると思うんですよ。ただ、コンプラを生放送で入れられないので、ちょっとどうかなー、とは思いますけどね(笑)」

最後に

 帰り道、彼氏の連れ添いで何となく来て観覧したであろう彼女が「これで無料ってお得だね!」「初めて観たけど、思った以上に面白かった!」と興奮しながら購入した番組特製タオルを首から掛けている姿を見て「なんだかフェスみたいだな」と思った。この会場全体に広がっていたのは、無料観覧で集まった人達が無料だからこそ気軽に友達を誘い、収録をきっかけにヒップホップを好きになり、手を挙げ、最後には番組特製タオルを購入して汗を拭き取る──こうした一連の流れそのものだった。

ヒップホップ全体としても、約20年ぶりにさんぴんキャンプが開催されることが決定し、本気で日本語ラップが慌ただしい。今まで何度かターニングポイントを迎えている日本語ラップが、まさに2016年、市民権を得る年になるかもしれない。いや、是非そうなってほしい。

(野口 誠也)

フリースタイルダンジョン 公式HP
http://www.tv-asahi.co.jp/freestyledungeon/

 

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