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 ハンセン病患者の刑事裁判が隔離された「特別法廷」で開かれていた問題で、最高検検事が31日、特別法廷で裁かれた患者の死刑が執行された「菊池事件」の弁護団と熊本市内で面会した。検察は差別的に運用された法廷に関わった責任を認め、謝罪した。

 一方で検察は「冤罪(えんざい)」を訴える弁護団が求めていた再審請求などはしない方針。弁護団は「患者が差別によって受けた被害を回復する機会を奪われた」として、国家賠償請求訴訟を起こす考えを明らかにした。

 弁護団によると、検察側は「再審事由があるとは認められない」などと説明。確定判決に誤りがあった際に検事総長が最高裁に是正を申し立てる「非常上告」についても、「最高裁に指定された場所で行われた訴訟手続き自体が直ちに違法だったとは認められない」として手続きしない考えを示したという。

 面会後の記者会見で、弁護団の徳田靖之代表は「明らかに憲法違反の手続きで行われた裁判。到底承服できない結論だ」と憤りを見せた。弁護団の八尋光秀弁護士は「ハンセン病患者に対する差別が刑事司法にどれだけ影響を及ぼしたのかを検討しない形式的な判断だ」と話した。

 菊池事件では、熊本県内で起きた殺人事件で起訴された男性患者が、国立療養所菊池恵楓園(けいふうえん)(熊本県合志市)に設けた特別法廷で裁かれた。男性は無実を訴えたが、1957年に死刑判決が確定。3度の再審請求が退けられ、62年に死刑が執行された。男性の家族が差別や偏見を恐れて再審請求に消極的なため、弁護団などは2012年、検察に再審請求を求めていた。

 「特別法廷」は被告が伝染病に罹患(りかん)している場合などに、裁判所以外の場所で開かれる。ハンセン病を理由とした特別法廷は1948~72年に95件あった。

 最高裁は昨年、「差別や偏見の助長につながった」と謝罪したが、憲法が保障する「裁判の公開原則」に反するとは認めなかった。(池上桃子、小原智恵)