■ 原子力政策の見直しが必要だ
原子炉は発電技術であるだけでなく、軍事技術である。軽水炉でウランを燃やしてできるプルトニウムがあれば原爆がつくれるので、冷戦期にはココム(対共産圏輸出統制委員会)できびしく規制していた。今も核拡散防止条約で、非核保有国は使用ずみ核燃料を再処理してプルトニウムを製造することが禁じられている。日本はその唯一の例外である。
東芝は1987年に、工作機械の輸出がココム違反だとしてアメリカ政府に摘発され、警視庁は東芝機械の幹部を逮捕した。これが東芝機械ココム違反事件
である。当時は日米貿易摩擦の最中で、これを理由にして連邦議会は日本の「不公正貿易」を指弾し、議員が東芝製のラジカセやTVをハンマーで壊す事件もあった。 東芝の経営危機が、技術ナショナリズムを掲げるトランプ大統領の当選直後の2016年12月に表面化したのも、偶然とは思えない。80年代に東芝が日米貿易摩擦のいけにえにされたように、トランプ政権が東芝を犠牲にしてアメリカの原子力技術を守ろうと考えたとしても不思議はない。
来年、日本だけに使用ずみ核燃料の再処理を認めた日米原子力協定が切れる。日本政府はアメリカが延長してくれると思っているが、プルトニウムを消費する高速増殖炉「もんじゅ」は事実上、廃炉になり、青森県六ヶ所村の再処理工場は行き詰まっている。プルトニウムをウランと混合して燃やすMOX燃料は、コストがかかるだけで意味がない。
唯一の理由は再処理すると使用ずみ核燃料の体積が小さくなることだが、これは意味がない。六ヶ所村には、300年分の使用ずみ核燃料を「中間貯蔵」できる場所があるからだ。日本の保有している48トン(原爆6000発分)のプルトニウムは、原子力協定が延長されなかったら宙に浮いてしまう。日本政府が核武装を決意しない限り、全量再処理
という方針は見直すしかない。 [JBpressの今日の記事(トップページ)へ]
池田 信夫
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