5000人の移住者を乗せ、新天地へと120年の眠りの旅へと出た大型宇宙船内で、90年も早く目覚めてしまったふたりの男女。この裏に隠された謎を、ネタバレ妄想曲解全開で解き明かしてみようぞ!
目次
『パッセンジャー』(2016)感想とイラスト ネタバレ妄想曲解考察
作品データ
『パッセンジャー』
Passengers
- 2016年/アメリカ/116分
- 監督:モルテン・ティルドゥム
- 脚本:ジョン・スペイツ
- 撮影:ロイドリゴ・プリエト
- 音楽:トーマス・ニューマン
- 出演:クリス・プラット/ジェニファー・ローレンス/マイケル・シーン/ローレンス・フィッシュバーン/アンディ・ガルシア
予告編動画
解説
新天地を目指して航行中の巨大宇宙船内で、たったひとり90年も早く目覚めてしまった男のフリチン大暴走を描いたSF恋愛映画です。
監督を務めるのは『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のモルテン・ティルドゥム。主演は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のクリス・プラットと、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のジェニファー・ローレンス。
基本的にこのふたりだけで進行する物語なのですが、隠し味的に『ジョン・ウィック:チャプター2』のローレンス・フィッシュバーンと、『アンタッチャブル』のアンディ・ガルシアも登場しております。
あらすじ
地球から遠く離れた新天地“ホームステッド II”を目指して航行中の超大型宇宙船“アヴァロン”。乗客5000人は120年間の航行中を人工冬眠ポッドで眠って過ごすはずだったが、ポッドの故障によってジム(クリス・プラット)だけがあと90年を残して目覚めてしまった。
これはたったひとり、宇宙船のなかで生涯を終えることを意味する。恐怖と絶望のなかで1年間を孤独に過ごしたジムの前に、ある日、美しい女性オーロラ(ジェニファー・ローレンス)が姿を現す。彼女もなんらかの異常により眠りから覚めてしまったのだ。
広大な宇宙、巨大な宇宙船内でたったふたりの男女。孤独と絶望を慰めるかのように惹かれ合っていくふたりだったが、実はジムにはけっして口にはできない秘密があった……。
感想と評価/ネタバレ有
『キングコング:髑髏島の巨神』とハシゴ鑑賞してきた『パッセンジャー』。実はこちらのほうを先に観たのですけど、『キングコング』に興奮しすぎて感想書くの後回しにしちゃいました。ぶっちゃけ「面倒くさいからもう書かなくてもいいか?」って思ってたぐらい。
ってことは映画の評価は推して知るべしかと思いますが、まあせっかく観たので重い腰を上げて書いてみます。ちょっとしたネタも思いつきましたしね。ちなみにネタバレ全開で書いちゃうつもりですので、これから観るつもりの方はどうぞお引き取りを。
SFですらない?
物語は宇宙移民を目的とした大型宇宙船アヴァロン内で、120年の人工冬眠に入っていたはずの乗客のひとりが、ポッドの故障によって90年も早く目覚めてしまうというもの。そんな大凶を引き当ててしまった運の悪い男は、クリス・プラット演じる技術者のジム。
ひとりだけ90年も早起きしてしまった目覚めの良さが意味するところは、つまり宇宙船内でぼっちのままおっちぬということ。この最悪の事態に気づいた不運に愛された男ジムを支配するのは、圧倒的孤独と絶望感。なんで貧乏人のおいらだけこんな目に遭うずら!
なぜジムが?なぜひとりだけ?なぜ目を覚ましたのか?これは何か壮大なテーマや謎を含んだSFミステリー、もしくはハードSFだと思うでしょう?ボクもそう思ってこの映画を観ていたはずなのですが、何やら様子がおかしいことに気づくのですね。SFですらないかも、と。
クリス・プラットLOVE♥
「じゃこれはなんの映画なんだ?」と言いますと、クリス・プラットを愛でる映画というのが正しい認識ではないかと。ひとりだけ抜群の目覚めの良さを誇るクリプラが、ぼっちの孤独に打ちひしがれながら、宇宙ロビンソン・クルーソーと化していく姿を愛でる映画。
暇すぎて長~い夏休みの工作にいそしみ、ひとりバスケットボールの腕を磨き、『ラ・ラ・ランド』より踊り狂い、ノーパンの開放感を満喫し、やがてモーゼのコスプレに開眼したと思ったら、おケツ丸出しで夢遊病パントマイムを披露する姿をひたすら愛でる映画。
クリス・プラットファンには眼福この上ない映画かもしれませんが、やってるほうはふとした瞬間にはたと気づくのですね。「俺、ひとりで何してんの?」と。そんな羞恥心と自己嫌悪と孤独感に耐えきれなくなった男は、切実に他者を、キレイなおねえちゃんを渇望するのです。
こっから重大なネタバレ
そんな彼がとった問題解決方法は、強引に仲間を作り出すというもの。そのターゲットにされたのが、若くて美しくて頭のいいジムのオナペットであった女性作家のオーロラ。彼女の人工冬眠ポッドに細工をし、無理矢理に目覚めさせておっぱい揉んでやろうと画策したのです!
予告編を観るかぎりではふたり同時に目覚め、協力してこの難局に立ち向かのだろうと思っていたのですけど、実はあれはミスリードで、実態はこんなありさまだったのです。ひとりぼっちの孤独に耐えかねた男が犯した罪と、贖罪と、愛のドラマってやつ。
ジムは自分の犯した罪をひた隠しにしながら、オーロラとちちくりあう喜びに見悶えておったのですけど、ジムに固く口留めされていたアンドロイドのアーサーが、何を思ったかオーロラにあっさり秘密を暴露したことにより、事態は壮絶な修羅場を迎えることとなるのです。
アーサーによる秘密の暴露にはおそらく皆さんびっくりされたことでしょう。「え?なんで言っちゃうの?」って。これには何か凄い秘密や意図があるはずなんだな?と皆さん裏読みされたことでしょう。「SFミステリーとしての謎がいよいよ深まってきたぞ~!」と。
すべて意味なし!
しかし我々観客を待っていた驚愕の真実は、アーサーによる唐突な秘密の暴露にも、事故の原因にも、なぜジムだけが目覚めたのかにも、乗組員室やメインブリッジに絶対入れなかった理由にも、まったくもって、何ひとつ、いっさいがっさい意味はなかったということ!
おおう!なんというサプライズのないサプライズ。予告編で「目覚めたのには理由がある」とかなんとか言ってたから、てっきりSFミステリーだと思って観てたのに、まさかまさかの偶然の産物。何よ、SFでもミステリーでもない単なるラブストーリーじゃないの。
孤独に耐えかねた男が罪を犯し、それでも相手を愛し、愛され、贖罪のために粉骨砕身で奮闘し、許しを得、愛する者と最後まで添い遂げる。ついこないだ観たような話だと思ったら、ほぼ『レッドタートル ある島の物語』と同じですな。芸術性のかけらもありゃしませんが。
まあそういう話なのだとしたら、別にこれはこれでそんなに悪くはないかな、とも思います。ボクが単に予告編に騙されて勘違いしただけの話で、SFラブストーリーとしてはご都合主義も含めてまあこんなもんでしょう。はいはい、勘違いしたボクが全部悪いんですよ!
『タイタニック』との共通点
ちなみにこの映画、「宇宙版『タイタニック』」などと喧伝されておったようなのですけど、ちょっと「なるほど」と思ったことがあったので最後に書いておきます。まず前提としてボクが『タイタニック』をどうとらえているかなのですが、結論としてはババアの妄想です。
年老いて過剰に過去を美化、改変した信頼できない語り部であるババアの妄想に3時間付き合う映画。それが根性ねじ曲がったボクの『タイタニック』評です。そんな映画の宇宙版だと言われるこの『パッセンジャー』。となると、ここで語られている物語もすべて妄想なのでは?
ではこれが妄想だとして、いったい誰の妄想なのでしょう?真っ先に目覚めた、この映画の主体的自己と言えるジムでしょうか?違います。この映画を物語として後世に伝えたのは作家であるオーロラです。ということは、彼女による創作、妄想である可能性が高いのです。
事実はこうだったのではないでしょうか。人工冬眠ポッドの故障により目覚めたのは実はオーロラひとり。その恐怖と孤独感に耐えかねておかしくなった彼女は、自分を悲劇のヒロインとして物語化するため、実際には存在しないジムというキャラクターを作り出した。
架空の人物ジムにより、人生を狂わされた悲劇のヒロインである自分。彼に愛され、求められたという救い。そして彼の献身的な愛を受け入れ、ふたりだけではあるが幸せな人生を過ごしたというハッピーエンド。それを事実として物語化することにより、自分自身を救済した。
だとすると、あまりにご都合的だった物語にも納得がいきます。これはたったひとり目覚めてしまった孤独な女性オーロラが見た妄想だったのです!なるほど!だから宇宙版『タイタニック』というわけか!どっちの映画もババアの妄想!いえ~い!ほっほほ~い!
ってそりゃ根性ねじ曲がったお前の妄想だろうが!このキ○ガイが!