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カノコイ~プロジェクトローレンシア・イエローブックリポートVOL49~戦略創造軍特記事項 作者:リーフレット
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AR−17 ラジオニクス銃の払暁〜射程短し、戦乙女よ、撃つべし! 撃つべし!!


戦闘純文学者の武装と鎧となるラジオニクス兵器とフラッショナル・スーツの発
明について前後編で解説していきます。


 ■ AR−17 ラジオニクス銃の払暁〜射程短し、戦乙女よ、撃つべし! 
撃つべし!! 

 ● 人間に潜在する「観測力」

「お前が後ろから観ているせいで負けた!」

 あなたは友人と家庭用ゲーム機で遊んでいる時に、こんな非難を浴びせられた
事はないだろうか。
 もちろん、言いがかりに決まってる。相手のプレイを妨げる言動を一切せず、
ただ静観していただけで責任を負わされる。
 叱責する側も頭では分かっているが、つい言ってしまう。

 では、人はなぜこの様な不可解な行動をするのか。
 勝負運に作用する未知の力の存在を人間は本能的に知っており、反射的に口
走ってしまった可能性はないだろうか。

 大観衆の応援が試合結果に影響することはあるだろうが、傍観者と勝敗の間に
物理的な因果関係は成立しえるのか。

 現代科学の根幹である量子力学はこう答える。

「因果関係はある」

 シュレーディンガーの猫の話は有名すぎて今さらな感もあるので触れる程度に
する。
 観測する者と観測される側の関係は常に一体である。事象は事前に定まってい
るのではなく、観測した瞬間に確定する。厳密にいえばその様な行為自体が決定
に関与する。

 思考実験としてブラック企業に勤める女子事務員を想定する。
 彼女はコーヒー好きのワンマン経営者に仕えており奴隷のごとくこき使われて
いる。決まった時間に指定された温度で淹れたてのコーヒーを出すのが日課だ。
コーヒーカップは保温してある物とする。
 温度を一度たりとも間違えば鋭敏の舌を持つ社長はたちどころに気づき、雷を
落とすであろう。
 彼女は正確を期すために温度計を用いようとする。

 この時、温度計がせっかく沸かしたコーヒーの熱を奪う恐れがあるため、加熱
しておく必要がある。
 しかし、これでは本末転倒である。何のための温度計か。

 かと言って温度計が冷えたままではコーヒーに影響を及ぼす。

 コーヒーの温度を知ろうとする行為がコーヒー自体に深く関与してしまう。

 これが量子力学の観測問題である。

 上司のパワハラに耐えきれず彼女が会社を辞めてしまうと、その後の社内事情
はわからなくなってしまう。彼女にとっては「あずかり知らぬ」問題だ。

 この様に量子力学では観測されない事象は「ない」物として扱われる。
 量子力学者のニールス・ホーアは密林の倒木に例えて説明した。誰もいない
ジャングルの真ん中で起きた事件を知るすべはない。
 人間社会から孤立した世界の出来事であるので互いに影響することはない。無
視してしまってもよい。

「観測する行為そのものが事態に深く関与する」

 換言すれば観測者が事象に影響を与える能力を持つと言える。

 この事を「人間原理」と呼ぶ。

 あなたは、ゲーマーにクレームを言われても反論する資格は無いのだ。


挿絵(By みてみん)
【スカートの中は観測してみるまでわからない】


 ● 人間原理を応用した観測兵器の登場

 人間原理を応用した最初の例はヒエロニムスマシンである。

 〜〜wikipediaより引用
 ヒエロニムスマシン (Hieronymus machine) は、アメリカ合衆国フロリダ州出
身の電気技術者トーマス・ガレン・ヒエロニムス(Thomas Galen Hieronymus)に
よって発明された、「エロプティック・エネルギー」を扱う疑似科学的装置の総称。

 出力や精度が使用者の精神力に依存したり、実際の部品を使わず回路図のみで
効果を発揮する(後述)など超能力に近いものであるため、現在では殆ど認めら
れていない。

 物質から放射されるエロプティック・エネルギー(光学的特性と電気的特性を
併せ持つエネルギーとされている)を測定、放射することにより、遠隔的に人や
動物、植物の病気の診断や治療、土壌のパワーアップや害虫駆除などを行う装置
であり、幅広い応用分野を持つ。対象物の写真を使ってその診断や治療を行うこ
とができたという。

 なお、ヒエロニムスは1946年にこの発明を「鉱物放射検知器」として特許申請
し、2年後にアメリカで特許番号2482773を取得している。

 使用方法は、測定はセンサー部でとらえた波動を内部の回路で増幅し、検出部
のパットにのせた指先の感覚の変化で検知する。つまみを操作し、エネルギーと
同調すると指先の感覚が変化するとされる。放射はその測定時に得られたつまみ
の数値につまみを合わせることによって行う。
 〜〜引用終わり

 上記の解説に登場するエロプティック・エネルギーとは
「すべてのものは未知の波動 (Vibration) を発している。この波動は生体に影
響を及ぼし機器により測定可能であり、且つ同調・変調することで逆にすべての
ものに対して影響を与えることができる」とされる。

 人間原理が発見される前はこの様に考えられていた。

 ヒエロニムスマシンは、SF雑誌編集者のジョン・キャンベルの手によってど
んどん抽象化され、ついには回路図のみで作動するようになった。


 ● 男子歩兵の衰退から女性戦闘純文学者の躍進へ!


 ヒエロニムスマシンが戦場から歩兵を一掃するとはだれも考えていなかった。
 発明は常になにげない日常から生まれる。
 ブリガムヤング大学生物学部の女子学生エイミー・シンプソンがたまたまヒエ
ロニムス回路をプリントしたシャツを着用して登校したところ、実験室内の小動
物がつぎつぎと原因不明の死を遂げた。解剖や健康状態、衛生環境など様々な要
素を加味しても死因は特定できず、至った結論はヒエロニムス回路犯人説である。

 ただちに、追試験がおこなわれ、数十万匹の実験動物を犠牲にしてヒエロニム
スマシンの影響を考慮せずに結果を合理的に説明できないと結論付けた。
 シンプソンはヒエロニムス回路を衣服に縫い込むことを思い立ち、生地に回路
を織り込んだ。縫製したシャツを男女五十名ずつの被験者に着用させ、二つの実
験室内に同一環境下で飼育したゴキブリ千匹ずつを放ち、駆除に乗り出した。
 結果は驚くべきことに男子の二百七十三匹に対し、女子は八百五十一匹と大差
をつけた。


 同じころ、量子コンピューターの実用化がはじまり、従来の論理学にかわって
量子論理学が確立しつつあった。論理学から哲学へ、純文学へ完成度を高めていった
 やがて量子純文学は、量子コンピューターにおけるオペレーティングシステ
ム、プログラム言語となり、ヒエロニムス回路と関連付けられることで、人間原
理を操る言語体系へ究極の進化を遂げた。

 量子純文学とヒエロニムス回路に目をつけた軍は戦闘純文学者の概念を研究し
始めた。まず、エイミー・シンプソンの研究成果を軍用に咀嚼する試みがなされた。
 被験者をMRIにかけ検証実験を行ったところ、男性に比べて脳梁が大きい女
性は人間原理の操作に長けているという概説どおりの結果が出ただけでなく、感
情が出力の増幅に寄与することが判明した。


 アメリカ陸軍省は量子純文学を戦闘純文学へ特化する基礎研究に着手。
 軍装品メーカーであるペッカム社やロスコ社にヒエロニムス回路を織り込んだ
女性戦闘純文学者用スーツの仕様を提示し、試作を命じた。

 ここで問題が生じた。旧来の発想から脱しきれない両メーカーはジャケット、
ズボンなどのサンプルを提出したが、急きょ参入を決めた婦人用アパレルメー
カーに惨敗を喫することとなった。

 ヒエロニムス生地の使用量を大きくとれるスカートを提案するという思い切っ
た戦術に出た各服飾メーカーは、評価試験において軍装品メーカーを遥かに凌駕
する出力を叩きだした。

「体力や持久力に劣り、戦場ではお荷物でしかない女が比類なきパワーを発揮する」

 既に男女の雇用機会均等が浸透し、女性の戦闘機パイロットすら当たり前にな
りつつあった軍であるが、確率変動を操る特権者との戦いにおいて、男が役立た
ずであるという事実をつきつけられて、大混乱に陥ったのは言うまでもない。

挿絵(By みてみん)
挿絵(By みてみん)

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