空挺戦車ヴァージニア・ウルフ〜量子装甲戦闘車両時代の幕開け
● 歩兵機械化序論〜装甲戦闘車の起こり
とどのつまり、戦闘は歩兵が制する。どんなに兵器が高速化し、装甲化し機動
力に富み、強力になろうとも、敵地を占領し勝利の旗を掲げるのは人間である。
しかし人間は脆弱である、疲れもする。病気にもなる。ひとたび、戦闘となれ
ば死傷者もでる。
モータリゼーションの進展とともに兵員輸送車が登場したが、ジープやトラッ
クなどの様な装甲を持たない車両ではソフトスキン(やわ肌)と揶揄されるよう
に、脆弱な兵士を防御しきれない。
必然的に、固定武装をもち、戦闘することを前提とした装甲戦闘車が造られる
ようになった。
● 防御性能
ひとくちに装甲戦闘車両といっても、徹甲弾の直撃や対戦車ミサイルに耐える
ものから対戦車ライフル、携行用銃火器程度なら弾きかえすものまで用途により
けりである。
戦略創造軍においては14.5mm弾を使用する対戦車ライフルである、シモノフ
PTRS1941に耐えるレベルが要求される。
● 空挺戦車の登場
二十世紀に入ると航空機の発達とともに戦闘車両を空輸する概念が各国により
研究され始めた。
空挺部隊は輸送機から兵員や火器を直接、前線に投下する事を前提としている
が、搭載重量の制限から重火器の運用は困難であった。そこで、同様な装備をし
た敵部隊を打ち破るために空輸が可能で自走できる重火器として開発されたのが
空挺戦車である。
名目上は戦車と呼ばれるが、実際は降下直後の空挺部隊に初期の火力と機動力
を与える目的で航空機に搭載される装甲戦闘車のことである。
第二次世界大戦後は歩兵用対戦車火器や攻撃ヘリを始めとする航空支援の充実
もあって、空挺戦車の存在意義が薄れつつあった。
事実、1989年のパナマ侵攻作戦においては空挺戦車M551シェリダンの空中
投下が行われたが、その半数が損壊して使用不能となるなど忸怩たる結果に終
わった。
通常は三割の損耗で部隊壊滅と判定されるため、空挺戦車の終焉をもたらした。
その後も空輸可能な装甲戦闘車の開発は続いていたが、あくまでも輸送機に搭
載可能な車両であり、空中投下を前提としたものではなかった。
以後、空挺戦車冬の時代が続く。
● 特権者戦争〜地獄における地上戦
アメリカは永劫回帰惑星プリリム・モビーレの南半球、地獄大陸への進出を事
前予想するにあたり、その地形の急峻さや地表を常に舐める業火などあまりの悪
条件に匙を投げた。
焦熱地獄や針地獄を走破し、鬼の棍棒を物ともしない超重戦車の開発案と空挺
部隊の投入案が天秤にかけられた結果、後者が現実的であるとして採用された。
ただし、過去の失敗事例が結論を遅らせたのは言うまでもない。重戦車の開発
には膨大なコストと長期間を要するが、それでも継続的な火力投入が難しい空挺
よりは成功率が高いという意見が軍部の考えであった。
● 歩兵の衰退と戦闘純文学者の登場

突破的革命技術「ブレイクスルー」は野戦兵の生態系すらも一新した。
サンプルリターン探査計画に端を発した小惑星の商用資源採掘はライブシップ
(「天翔ける戦乙女! 生きた航空戦艦ライブシップ」の項目参照)と、その生
態端末であるメイドサーバントを産みだした。
彼女たちは人間をベースとしたポスト・ヒューマンであり、重機関銃を空輸可
能な飛翔能力と常人の数十倍を超える身体能力を備えている。
また、地上歩行時に翼を畳んだ状態でダークマター繊維製の衣類を纏う事によ
り、両太腿に内蔵している常温生体対消滅炉の余剰推力を「強い人間原理」に作
用させる。
量子力学における波動関数の収縮を歩兵戦闘の場に持ち込むことで、空挺戦車
の構造的な問題を克服するに至った。
● クーロンパワーサスペンションとファンデルワールス装甲
まず、クーロン力である。
統一場理論における素粒子標準模型の限界は高エネルギースケールに対応した
ヒッグス粒子の存在と弱い核力と電磁気力の破れを予言した。
複合粒子模型でなく超対称性粒子の概念を採用することで量子色力学の観点か
らゲージ対称性が特定の条件下で保存されないことが導き出された。
以上の帰結として、クーロン力のありかたそのものを自在に操作できるように
なり、油圧や空気に変わる電磁気力を緩衝装置としての機能させている。
クーロンパワーサスペンションは、耐衝撃吸収性に優れ、シェリダンの轍を踏
むことなく空挺戦車の空中投下を安全に手助けできることとなった。
次に、ファンデルワールス力、すなわち分子間結合力の操作が可能になったこ
とで、空挺戦車の装甲材質に縛りがなくなった。
従来はアルミニウムやマグネシウムを用いた軽量化一点張りの構造であった。
しかし、ファンデルワールス力を装甲に働きかけることにより、材質を液状化
させて衝撃を吸収したり、剛性を極限状態に高めることも可能だ。
軽量化を求めるあまり病的な追及は不要になった。
素材や構造の設計変更を伴わない軽量化といえば非常に大がかりな装置を必要
とする重力制御にばかり目が行きがちであるが、分子間結合力の操作に着目した
設計者は慧眼といえよう。
紙幅が尽きた。本稿は概論であり、量子装甲戦闘車の詳細については別稿にゆ
ずる。