記者会見の出席者は綱川智社長、平田政善専務、畠澤守原発担当常務の3人。
綱川社長は淡々とした表情でこう説明した。
「WHに対する親会社保証などを求められた場合、東芝の2017年3月期の最終損益は1兆100億円の赤字になる」
そうなれば、09年に日立製作所が発表した赤字額7873億円を抜き、製造業として過去最悪の赤字となる。
「WH買収から10年。東芝はどこで間違えたのか」と問われると、綱川社長は寂しそうな顔で言った。
「私にはわかりません」
原発事業の暴走が引き起こした巨額損失の穴埋めに、自分が育てたメディカル事業を売却せざるを得なかった綱川氏の本音だろう。
このタイミングでWHのチャプター11申請に踏み切ったことについて「金融機関から圧力があったのでは」と聞かれると、平田CFOの血相が変わった。
「絶対にありません」
しかし平田氏の言葉を簡単に信じるわけにはいかない。粉飾決算騒動の最中に、東芝テックから呼び戻され、2015年9月にCFOに就任した平田氏は、この場所(東芝本社39階会議室)で、何度も嘘をついているからだ。
2015年11月、平田氏はここで、こう言い切った。
「原子力発電関連などの社会インフラは当然、黒字にならないとおかしい。電力向けは送変電・配電のシステムなどの受注が増加している。ウエスチングハウスも減損の兆候はありません」
1年半前に健全だった会社で、何が起きるといきなり倒産するのか。予兆は何年も前からあった。
「インペア、あるらしいぞ」
東芝の原子力事業部門でそう囁かれ始めたのは2009年。「インペア」は「impairment(減損)」を指す。東芝がWHを買収したのは2006年のこと。3年後にはすでに社内で減損を意識していた。
それから8年の長きに渡り、東芝は外部の目を欺き続ける。
2012年4月にはWHのCEO(最高経営責任者)に内定していたジム・ファーランドが突然、辞任する。ファーランドは直前の3月まで、約1ヶ月かけて「次期CEOです」と、米国の電力会社で挨拶回りをしていただけに、業界にショックが走った。
「WHの内情はそれほどひどいのか」
ファーランドの辞任は「一身上の都合」とされ、会長の志賀重範が急遽CEOを兼務することになった。
半年後の2012年10月、ダン・ロデリックがWHのCEOに就任する。ロデリックはゼネラル・エレクトリック(GE)で長く原発事業に携わった男で、業界では「やり手」と言われた。
東芝はWHを買収した後、志賀ら数名の役員を送り込んでWHの立て直しと一体化を進めようとした。だが「自分たちは世界で最初の商用原発を動かした会社だ」というプライドに凝り固まったWHは、東芝を格下に見て言うことを聞かない。
おそらく買収から6年以上、東芝はWHの実態を把握できていなかった。
「これでようやくまともになるかも」
東芝社内に安堵の空気が流れた。しかし“ミイラ取り”のロデリック氏は、自らがミイラになってしまう。CEOに就任してしばらく経って、メディアに露出し始めたロデリック氏は「WHは米国、中国だけでなく、インドでもトルコでも順調に受注を獲得している」と言い始める。
「嘘つけ」
事情を知る東芝社員たちは落胆した。「やり手」と期待されたロデリック氏も、実のところは原発事業からフェードアウトを始めたGEの「窓際族」であり、原発にしがみついて生きていくしかない男だった。
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