メイ英国首相が欧州連合(EU)からの離脱を正式に通知した。2年後の交渉期限に向けたカウントダウンが始まった。

 世界で第5位の経済規模があり、日本を含む各国の企業が欧州進出の足がかりにしてきた英国のEU離脱が、世界経済に及ぼす影響は計り知れない。

 「自国第一主義」が幅をきかせる今の時代、国際協調を構築してきたEUの歩みが後退することへの懸念も深まる。

 だが離脱は英国の有権者が国民投票で示した民意である。国際秩序の混乱を防ぎ、市民生活への影響を最小限に抑えることこそ、英国政府とEUの双方に課された責任だ。

 44年間に及ぶ英国とEUの共生に終止符を打つ交渉は、極めて困難なものとなりそうだ。

 英国はEUからの移民の流入は拒みつつ、EUと高水準の自由貿易を維持したい。そのEUにとって、国境を越えた人、モノ、資本、サービスの自由移動は譲りがたい原則だ。溝は深いといわざるをえない。

 何より避けるべきは、貿易や国境管理、在留資格をめぐる新たな枠組みへの合意を欠いたまま、離脱に至るシナリオだ。

 関税が急に復活し、双方に居住する400万人以上の市民が滞在資格を失えば、経済や社会の大混乱は避けられまい。

 激変を緩和する十分な移行期間の設定はもちろんのこと、離脱後の新たな関係構築に向けた協議を急ぐ必要がある。

 そのためには英国とEUの相互信頼が欠かせまい。妥協を視野に入れた柔軟な交渉姿勢も求められよう。

 例えばEU域内からの移民流入が鈍る英国では、人手不足の弊害が顕在化し始めている。移民規制を最優先させる方針が果たして国益に沿うのか、さらなる検討が必要だ。

 EU離脱をめぐる世論は依然割れており、残留支持者が多い北部スコットランドは英国からの独立の動きを見せる。強硬な対応は英国解体という形で跳ね返りかねないリスクをはらむ。

 一方、EU加盟国からは、さらなる離脱を防ぐために、英国に対して懲罰的に当たるべきだとの意見も聞かれる。相互不信を強めるだけの狭量な態度は改めてもらいたい。

 英国がEUを離脱しても、ともに民主主義、人権重視、法の支配という価値観を共有する点では、なんら変わりはない。

 テロ防止、温暖化対策、世界の貧困解消など、グローバルな課題でいかに連携を深めていくか。むしろ建設的な関係を再構築する機会にしてほしい。