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ぼ~っとしてたら人生カンストしてエルフ耳の子持ち主婦で年収二千億ドルのマイ惑星持ち(強襲揚陸艦付き)になりました! 作者:リーフレット
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夏色のシンデレラガール

 因果律にあらがい、大宇宙の意志にそむく謎の知的生命体「特権者」
 銀河のかなたより、不可解な力で地球の事象をいじり倒す、非情に迷惑な存在である。

 しかしながら、彼らの気まぐれな作用によって、人生を好転させた者もいる。
 これもチートっちゃ、チートなのだろうか?


 彼女の名前はシア・フレイアスター。外見年齢ずっと二十歳。
 銀河辺境に私有惑星兼基地を構える新進気鋭の女性軍事プロバイダーである。

 彼女は孤独であった。両親が従軍中に行方不明となり、そのショックで幼くして鬱を患った。
 しかし、幸運の女神が苦労の対価を支払ってくれた。彼女の数奇な半生に、成功のカギを探る。


 ※このストーリーは経済誌フォボス海王星版のインタビュー記事を再構成したものです。




 西暦二六七一年のハロウィン。惑星ホールドミー・スライトリー。 

 広大な強襲揚陸艦の甲板に垂直離着陸機が着陸する。
 キャノピーがスライドし、後部座席からエプロンドレス姿の少女が乗り出す。背中が大きくあいた薄いブルーのサマードレスだ。
 思わずモフりたくなる様な翼が、少女の背中からWの字型にひらく。

 彼女が 突き飛ばされるように、どさりと降りる。スカートが、ふわりと舞い上がるが、気にしてない様子。大きくヒップを覆う黒い下着。裾から白い布がわずかに覗いている。
 いわゆる見えてもOKいう奴だ。残念(何が?)

「海王星からのお客様ね。うえるかむ・あぼーど♪ 焼きたてパンをめしあがれ♪」

 シアがビールとチーズを配りおえ、記者のインタビューに答え始めた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 Q. ぼーっとしつつ、何だかんだで、勝ち組み街道まっしぐらなシアさんですが、昔からそうだったとか?



「あの日もそうだったよね。ぼーっとしてたら、いきなり召喚されちゃったの」

 彼女の声には、長年にわたって抱き続けた想いがにじんでいた。
「もう、足場の定まらない人生はたくさん! わたしの運命は特権者のせいで大きく変わりました。でも、今ではチート万歳です」
 髪の中で妖精特有の長い耳が、へにゃっ♪と萎れるのがわかる。脚を閉じてスカートの布地を膝で感じられるように抱える。

 無意識に涙が潤んでくる。目の前の現実が溶け、シアの意識は辛かった記憶へ沈んでいった。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 戦時中のフランス領ポリネシア。小さな島の戦災女児養護施設。


 窓の外を綿菓子がちぎれ飛んでいる。まったく雲をつかむような話だった。
 十二歳の夏休み、本の虫だった彼女に、いきなり士官学校の奨学金がおりた。

 水泳の補習を受けるほど、おとなしい少女にはまったく無縁の代物だ。
 何かの間違いかも知れない、と寮母さんが息せき切ってビーチに現れるやいなや、 泳いでいたシアの手を女性兵士が、ぐいっとつかんだ。

「えっ、どこへ行くんです? きゃぁ」

 シアはくしゃくしゃの髪のまま、浜辺に急降下してきた輸送機におしこめられた。
 バスタオルを与えられ、身体を拭いている間に、みるみる地球が小さくなっていった。

 シャワーも着替えの下着も積んでない居住性の悪さにさんざん文句をたれつつ、
「渡された制服のブラウスが、濡れたビキニブラに張り付いて気持ち悪い」だの、「スカートのジッパーが、半分しか閉まらない」だの、大暴れする彼女の前に一枚の紙片が差し出された。

「何ですか、これは? ていうか、今すぐ帰らせて下さい!」
「あなたが自分で申請したんでしょ?」

 ミミズが這ったような、誤字だらけの申請書類に自分の名が載っている。
「あいつか!」  シアの身に覚えはないが、思い当る節がある。意地悪そうなクラスメイトの顔が脳裏に浮かんだ。

 シアは、嵌められたと猛抗議したが、詐欺の共犯者として捕まるか、おとなしく入学するかの二択を迫られた。



 シアを迎えに来た女性教官は、スレンダーで百八十センチの長身に、アクロバットチームの制服でもあるミニのスーツをばっちりと着こなしていた。

「うああ、かっこいい~。 それに、アクロって賢い人ばっかりなんでしょう?」

 シアは、「なんか、尊敬~~?!」って感じで紅潮した。

 筋肉も脂肪もバランスよく付いていながら、無駄な贅肉がない。彼女たちの姿には、ファッション写真が逆立ちしても真似できない、媚びないクールなかっこよさがあった

「どうかしら? ご両親の後をついでみない♪」 教官の口元、赤いルージュが誘っていた。

「うああ、なんかドキドキしてきたよぉ。わたしみたいな鈍感でも勤まるのかなぁ」

 不安のつぶやきを、教官は聞き逃さなかった。

 ひょい、とシアを目線の高さまで抱え上げ、ちゅっ☆と額にキスしてくれた。


「大丈夫。古代の海軍が実践してたという、セーシンチューニュー法よ♪」 ←思いっきり違うって(

 かああ、体が熱くなる。不安も胸の内でうずまいてる。教官が頭をなでてくれる。目を細めるシア。

 しかし、彼女に選択の余地はなかった。

「とにかく、行くしかない……聖神チュニューのおまじないを信じるわ!」←だから違うって

 シアは、大宇宙で任務中に消息を絶った両親に誓った。

「おとうさん、おかあさんのところへ近づくんだ!」

 ぶわっと、青い高機動バーニャの輝きが大きくなり、輸送機はまばゆい尾を引いて星空へ吸い込まれていった。
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